事業承継と相続

事業承継

被相続人が個人事業主や会社経営者である場合、個人財産の相続だけでなく、事業を誰にどうやって承継するかという問題が絡んできます(事業承継)。

特に団塊の世代の中小企業の経営者は、タイミング的にそろそろ事業承継を考えなければならない時期に差しかかかってきているため、今後事業承継の需要は非常に高まってくると考えられます。

1.事業承継とは

事業承継とは、現在の経営者から後継者へ会社の事業を引き継ぐことをいいます。会社の経営活動を維持していくためには、会社の財産を、引き継いでいかなければなりません。

会社の財産として、挙げられるのが、人の問題です。すなわち、後継者になります。後継者を誰にするかという問題は、最も大事なポイントになります。

そして、会社が実際に所有している財産です。事業資金、自社株式、事業用資産が挙げられます。これらは、相続税の対象になってくるので、対策が必要になります。

さらに、無形の会社の財産です。経営理念、事業のノウハウ、顧客に対する信用力が挙げられます。

これらの事業承継に対する課題を上手く行うには、適正なプロセスを踏み、用意周到な準備が必要となります。

会社が所有する現金、社長の個人資産の現状の把握から、スタートします。そして、後継者を決定します。自分の親族にするのか、または、社内のベテラン社員にするのかなどを考えます。さらに、自分の会社の後継者の資質に適合しているのかを考えた上で、後継者の候補を徐々に育てていくことになります。
これらのプロセスを経て、後継者を選定したら、事業承継の時期と具体的な事業承継対策のプランを考えて、事業承継計画書を作成することになります。

2.事業承継の課題

帝国データバンクの調査結果では、日本国内の会社の約65%が、後継者不在であるといわれています。

年齢別では、現在の社長の年齢が60歳代で、約55%、70歳代で、約40%が後継者不在といわれています。業種の中で、特に目立っているのが、サービス業と建設業で、約70%といわれています。

さらに、後継者が存在する会社と不在な会社で、比較してみます。売上高事業価値比率という数字が、この比較において、必要になります。売上高事業価値比率とは、売上高に占める事業価値の比率のことをいいます。この売上高事業価値比率は、どの業種でも、後継者が不在な会社より、後継者が存在する会社のほうが上回っているという結果が出ています。

事業価値とは、事業が生み出すキャッシュフローの現在価値合計であり、会社が稼いでいく力になります。
したがって、後継者を決定していくには、現在の会社の収益力を引き上げていくことが、ポイントになるといえます。

3.事業承継①経営の承継としての側面

事業承継は大きく分けると2つに分類できます。

まず、経営者が交代するということは、新たな経営者が会社を経営していく事になります。中小企業の多くは、社長個人の強いリーダーシップや独自のコネクションによって経営が成り立っている部分が非常に大きいため、何の準備もないまま突然経営者が交代すると、会社自体が正しく機能しなくなる恐れがあります。
そのため、経営の承継については、次のような事前準備が必要となります。

経営の承継のポイント:誰に承継させるか

事業承継対策は、まず「だれ」に承継させるかを考えるところからスタートします。事業の承継方法には、次のような選択肢があります。

その1:家族承継

オーナー社長の中小企業では最も多い承継方法で、現社長の子供が事業を承継して社長に就任します。この場合は、事前に以下のような対策が必要となります。

○経営者教育

何の準備もないまま、突然自分の子供を社長の座に座らせる事は自殺行為に等しいと言わざるを得ません。子供を後継者として事業承継を進める場合は、予め経営者としての教育を施すために、必要な研修をさせたり、早い段階から社長のそばで経営を学ばせる必要があります。

○社内周知

家族承継の場合は、従業員から不満の声が上がらないよう、現経営者の段階から徐々に次の後継者について周知させるとともに、承継後の経営をよりやりやすくするよう、組織再編なども進めていく必要があります。

○家族への説明

家族承継において忘れてはならないのが家族への説明です。特に兄弟がおられるような場合は、会社の経営権をめぐって争いになる可能性があります。万が一相続が発生して、経営権をめぐって兄弟間で争ってしまうと、その間会社が機能しなくなり多大な損失を生む危険性もあります。そのため、家族承継を行なう場合は、事前に後継者に選ばれなかった者に対してしっかりと説明し、納得してもらうよう務めなければなりません。

その2:社内承継

これは会社内の人事異動によって、優秀社員や役職者を昇格させる形で事業承継を行ないます。この場合も、事前にすべき事は家族承継の場合と同じですが、その他の点としては、後継者となる場合は、現経営者に代わって銀行などの保証人となる場合があるため、事前に後継者の家族にも丁寧に説明し理解を求める必要があります。また、株式を取得する際には、その取得資金も準備しなければなりません。

その3:M&Aと事業の売却

誰も後継者がいないような場合は、事業自体を売却するというのも一つの選択肢です。この場合も、買取り先の選定も含めて早めから対策をとる必要があります。また、M&Aは従業員からの反発がでないよう、丁寧に説明し理解を求める事も大切です。

4.事業承継②財産の承継としての側面

事業承継は単なる社内人事だけではなく、もう一つやらなければならない事があります。それは「財産の承継」すなわち保有株式の承継です。現経営者が保有している株式を後継者に取得させることで、始めて事業承継が完了します。
この際の株式の承継には、大きく分けて3つの方法があります。

その1:後継者への贈与

現経営者から後継者に対して、株式を贈与します。贈与ですから、取得する事自体に費用はかかりませんが、株式を受け取った後継者に対して「贈与税」が課税されます。なお、将来的に会社の業績が上がって株式の評価額が上昇する可能性がある場合は、評価額が低いうちに贈与するというのも一つの方法です。

その2:後継者への譲渡

現経営者から後継者に対して、保有している株式を「売却」します。売買によって株式を移転すると、株式の移転が遺産相続に巻き込まれる心配がなくなるため、確実に後継者に対して経営権を承継できます。ただし、売却する場合は、その株式を買い取るだけの対価として多額の現金を準備する必要があります。また、売却によって得たお金に対しては現経営者に対して所得税や住民税が課税されます。
なお、適正な株式評価額よりも著しく低い金額で後継者に売却した場合は、その分を「贈与」とみなされ、後継者に対して贈与税が課税されることになります。いずれにしても、譲渡によって株式を移転する場合は、税金の扱いに注意しましょう。

その3:後継者への相続

遺産相続の際の遺産分割を利用して後継者に株式を相続させ移転を実現します。この場合、取得に対する費用は不要ですが、相続税が課税される事となります。ただ、相続はいつ発生するかわからないため、事業承継のタイミングがはっきりと分からず、不安定になるというデメリットがあります。また、適切な遺言書を残しておかなければ、親族間で意見が割れてしまい、その間会社の経営がストップしてしまうという可能性も懸念されます。

このように、株式の移転にあたっては、贈与税、相続税、所得税など何かしらの税金が課税されることになるため、少しでも税負担を抑えるためには、課税の対象となる「株価の引き下げ対策」などがとても重要になってきます。特に非上場株は、上場株のように市場取引相場がないため、会社の業績によってその評価額が大きく変動します。特に中小企業で利益を上げている会社の場合は、想像以上に高い評価額になるケースがあり、これが原因でうまく事業承継が進まなくなってしまう場合もあります。そのため、今後事業承継を検討される場合は、出来る限り早めに専門家である税理士に相談しましょう。

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監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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