アメリカでのリビングトラストを利用した相続税対策
被相続人がアメリカに財産を所有している場合、その相続にはプロベート(検認裁判)が必要になります。プロベートは非常に時間がかかり、相続税の申告や納付に支障をきたす恐れがあります。
こうしたトラブルを回避するには「リビングトラスト」が有効です。ここでは、アメリカの財産の相続トラブルを防ぐための手法である「リビングトラスト」とは何かについて、またその手順について解説します。
目次
プロベートの仕組みとトラブル内容
まず最初にプロベートの仕組みと、相続でどのようなトラブルが発生するかについても確認しておきます。
プロベートは米国での相続手続きのこと
国によって相続手続き方法は様々であり、米国では「プロベート(検認裁判)」という方式が取られます。プロベートを簡単に説明すると、遺言で指定された「遺言執行人」が、裁判所の監督の下に相続手続きを行う方法のことです。遺言執行人は、配偶者、子供、親戚など身内の者がなることもあれば、弁護士、銀行などの専門家が務めることもあります。遺言がなければ、選出された遺産管理人が手続きを行います。
一方、日本では遺産分割のトラブルがない限り裁判所のお世話になる必要はなく、遺言によるか、または相続人同士での話し合いによって遺産分割がなされ、相続手続きが進められます。
トラブル内容は「時間と費用がかかること」
プロベート方式がトラブルになる理由としては、第一に「手続きに時間がかかる」ことが挙げられます。プロベートでは、様々な書類を裁判所に提出して検認を受けるため、相続の発生から終了まで、数か月から数年かかるのが一般的です。そのため、日本の相続税の申告期限に間に合わなくなる可能性が高いです。
また、第二に「手続きに費用がかかる」点も問題です。相続財産や依頼する弁護士によって手続き費用は異なりますが、相続財産に対して数パーセントの費用が発生します。
アメリカの相続手続きには、時間と費用がかかることがネックです。
リビングトラストの仕組みとその効果について
プロベートによるトラブルを防ぐためには「リビングトラスト」が有効な手段です。
リビングトラストは「生前に財産を託すこと」
"living trust"、すなわち、日本語では「生前信託」と呼ばれます。
リビングトラストとは生前贈与の一種であり、生前に登記簿の内容を変えるなどして財産を自分以外の者に委託することを言います。その結果、財産は個人の所有から、別の個人や法人所有となるため、被相続人の相続財産項目から外されます。財産を委託される人は受託者と呼ばれ、委託者の指示に従って財産を管理処分します。従って、相続発生後、裁判所によって凍結されずに済むようになります。
リビングトラストのメリット
リビングトラストを用いると、委託した財産は個人の相続財産から省かれるため、プロベートの対象にならずに、「相続手続きに時間がかからない」ようになります。相続発生後、複雑な手続きを踏まずに、早期に相続手続きを終えられるようになります。
また、リビングトラストを利用すると、プロベートにかかるコストも抑えられます。
リビングトラストの手順
リビングトラストの手続きをするにはどのような手順を踏むべきなのでしょうか。通常の遺言書の作成とほぼ同じ内容ではありますが、その手順を簡単に述べておきます。
リビングトラストの書類を作成する
最初にリビングトラストに必要な書類を作成します。作成に当たってはリビングトラストを専門に扱っている業者に依頼をすると良いでしょう。なお、リビングトラストを作成するに当たっては、被相続人の個人情報や不動産情報等が必要です。
リビングトラストに証人の前で署名する
作成したリビングトラストを証人(ウィットネス)の前で署名します。また同時に証人もリビングトラストに署名をしておきます。
リビングトラストに公証人の前で署名する
作成したリビングトラストに証人が、公証人(ノータリー)の前で署名をします。これにより認証として扱われ、法的に有効になります。つまり、この時点でリビングトラストの効果は有効となります。
なお、以上の手順はあくまでも概要を述べたにすぎませんので、実際にリビングトラストを利用される際には、必ず、税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
リビングトラストの注意点について
リビングトラストはプロベートのトラブルを解消するためには有効な手段ですが、ある程度の費用と手間をかける覚悟は必要です。
リビングトラストの手続きには費用がかかる
リビングトラストの手続きをするに当たって、金融機関に依頼をする人もいるでしょう。しかし、金融機関の場合は「数百万円」ものコストが発生する可能性があります。金融機関の場合は、あくまで窓口であり、そこから専門家に依頼をするからです。
そこで、初めからリビングトラストの専門業者に依頼をすれば「数十万円」で済むケースもあります。プロベートと同じくらいの費用がかかってしまうとコストメリットはなくなってしまうため、なるべくコストがかからないようにしたいものです。
リビングトラストの作成に時間がかかる
リビングトラストの手続き自体にも数カ月程度は必要になります。つまり、プロベートの手続きを前倒しにしたような形になります。そのため、なるべく早めに手続きを終えておくべきです。
リビングトラストをまとめ
アメリカの財産に対して相続が発生すると、プロベート(検認裁判)が必要となり、多くの時間と費用が発生し、日本の相続税申告の期限に間に合わず、トラブルとなる可能性が高いです、プロベートのトラブルに対してリビングトラストは有効な手段であるため、もしアメリカに財産を持っているのであれば、生前にリビングトラストの手続きを終えておくといいでしょう。