究極の相続対策、家族信託(民事信託)の仕組みと3つのメリット

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老夫婦

究極の相続対策として、「家族信託(民事信託)」が注目されつつあります。しかし、多くの人は耳にしたことがあるだけで、詳しくは知らないことも多いのではないでしょうか。

なぜなら、家族信託は、平成18年に信託法が大きく改正されて使い勝手が大幅に改善されたものだからです。従来の民法の相続の概念を大きく変更するものであるため、弁護士や税理士などの専門家でも詳しく知らない人がいるようです。

そこで、そもそも家族信託とは何か?民法の相続との違いは?などの説明をはじめ、メリットや活用方、また相続税・贈与税との関連について説明をします。遺留分の問題や認知症の配偶者がいるなど、相続対策で悩んでいる方は必見です。

1.信託とは何か?

信託には大きく「家族信託(民事信託)」と「商事信託」の2つに分けられます。これら2つは、仕組みこそ同じですが、その目的や役割は全く異なります。

簡単に仕組みを述べると、「①委託者」、「②受託者」、「③受益者」の三者がおり、まず①委託者が、②受託者に対して手続きの依頼(信託)をします。そして、依頼を受けた②受託者が、③受益者のために手続きをしてあげるのです。
これが信託の基本で、家族信託と、商事信託の具体的な違いは次の通りです。

1-1.家族信託(民事信託)とは?

家族信託は(民事信託)とは、委託者(被相続人)が、受託者に財産を移転し、受託者が一定の目的に従って財産を、受益者(相続人)のために管理・運用・処分するものです。
基本的には、受託者は非営利であり、無報酬で行います(契約で報酬を与えることは自由です)。

受託者には判断力のある個人、もしくは営利目的以外の法人がなることができます。
委託するものは財産ですが、その使用目的は実に様々なことが可能です。

たとえば、主なところでは、遺言に代わるものとして柔軟な遺産分割や事業承継を可能とするための目的ですが、そのほか、障がい者の子供の生活の保障であったり、ペットの飼育であったり、再婚した相手の家族に財産がいかないようにしたりと、いろいろな目的のために活用することができます。

家族信託

正確には「家族信託」という法律用語はなく、民事信託の一種であり、非営利目的の個人・法人間で自由に信託契約をすることが可能ですが、その中でも家族・親族が中心となる民事信託のことを「家族信託」と呼んでいます。

なお、相続対策として注目が集まっているのは、こちらの家族信託です。次に紹介する商事信託ではないので注意をしましょう。

1-2.商事信託(投資信託)とは?

商事信託とは、投資信託ともいわれる信託です。商事信託は民事信託と異なり、不特定多数の委託者がおり、その委託者の財産を信託銀行が預かり、それを運用して受益者(=委託者)に分配するものです。受託者は営利目的であり、信託報酬をもらって業務を行います。

商事信託では、受託者は一定の要件を満たした信託銀行・信託会社に限られています。また受託者は複数回の委託を引き受けることが可能で、基本的には資産運用としての側面が強いです。こうした商事信託の信託内容には「投資信託」や「信託商品」などの金融商品があります。

信託法や信託業法と呼ばれる法律によって規制を受けており、一般的には委託者(受益者)として関わるだけでしょう。

2.家族信託に登場人物

信託契約は一般的に三者間契約となっています。この三者とは委託者、受託者、受益人です。
ただし、その他にも家族信託に関わる人がいるケースもありますので、どのような人が登場するかを確認しておきます。

委託者:信託をお願いする人

信託契約において受託者に財産の管理・運用を指示できる人のことです。家族信託においては「父母」が多いです。

受託者:信託を実行する人

信託契約において委託者の指示に従い、委託財産を管理・運用する人のことです。受託者は管理・運用をして受益者の財産形成等に寄与します。家族信託においては委託者が信頼をおいている「家族・親族」であることが多いです。

受益者:信託による利益を受ける人;

信託契約において受託者の管理・運用によって発生した利益を受ける人のことを言います。家族信託においては「子供」であるケースが多いです。

受益者代理人:受益者の代わりに権利を行使する人

信託契約において、あらかじめ委託者から指定され、受益者のために受益者の代わりに権利を行使する人のことを言います。受益者が法律行為をできない(認知症など)場合に、受益者に代わって法律行為をします。

家族信託 受益者代理人

受益者指定権者:受益者を選択できる人

信託契約において、あらかじめ委託者から指定され、受益者を指定または変更できる権利を持つ人のことを言います。家族信託においては「配偶者」などが選ばれます。

家族信託 受益権指定権者

例えば、当初は配偶者を受益者にしておき、配偶者が死亡したら、二次受益者(次に受益者となる人)を受益者指定権者が指定します。

信託監督人:受託者の業務を監督する人

信託契約において、あらかじめ委託者から指定され、受託者の業務を監督する人です。受託者が受益者のために委託財産を管理・運用していることを確認します。

受託者がきちんと業務を行うか心配なときは、第三者を信託監督人として指定しておき、受託者の業務を監督させます。

家族信託 信託監督人

信託管理人:受益者のために財産を守る人

信託契約において、まだ存在しない受益者のために受益者の権利を行使する人のことを言います。家族信託では「出生前の赤ん坊」のために活用されます。

3.メリット

家族信託(民事信託)には主に5つのメリットがあり、従来の相続対策を根本的に覆す効果を持っています。

3-1.相続財産とは別の信託財産を持つことで、遺留分減殺請求を阻止できる

3-1-1.遺留分の問題

日本の相続で一番問題となるのは、遺留分です。遺留分とは、相続人のうち、配偶者・子・親だけに認められた最低限もらう権利のある財産のことです。
たとえば、ある父親に親孝行な長男と道楽息子の次男がいたとして、すべての財産を長男に与えて次男には一銭も与えなくないと考え遺言書を書いたとしても、次男は財産の4分の1をもらう権利(遺留分)がありますので、次男が長男に対して遺留分を請求(遺留分減殺請求)すると、長男は次男に財産の4分の1を分けなければならなくなります。

特に、中小企業のオーナーが被相続人で自社株がからんでいる場合、遺留分を請求されると、株式が分散して経営が困難になるという問題が生じており、遺留分という存在が相続で常に大きなトラブルをもたらしてきました。

3-1-2.信託財産を相続財産と分離できる

そこで登場するのが、家族信託です。家族信託においては、委託者が受託者に委託する財産は信託財産となり、本来の相続財産とは切り離すことができます(財産分離機能
相続が発生した際、他の相続人は信託財産に対しては遺留分を請求することができません。なぜなら、民法上の相続ではなく、信託契約で成り立っているからです。

上記の例でいいますと、委託者である父親は、親戚を受託者として全財産を委託し、長男を受益者として全財産を渡すように、信託契約を結びます。すると、父親が亡くなった際に、親戚を通して長男に全財産を渡すことができます。
相続ではなく、信託契約行為ですので、次男は遺留分を請求することができません。
次男が遺留分を争って裁判を起こす可能性はありますが、信託法によって守られていますから、よほどの事情がない限り、次男が財産を手にすることは難しいものと思われます。

今まで、遺留分の問題で悩んでいる方は、ぜひとも、家族信託を利用されることをお勧めします。

3-2.死後も委託者の意思どおりに財産承継ができる

3-2-1.子孫代々の相続の問題

日本の相続でのもう一つの大きな問題点は、遺言書では自分の相続についてしか指定できないことです。
たとえば、ある人が、直系の子孫代々に財産を残したいと思い、息子に全財産を、そして息子が死んだら孫に全財産を相続させるという遺言書を書いたとしても、有効なのは息子に相続させるときだけで、息子が孫に相続させるかどうかは息子しか決めることができません。

3-2-2.受益者を連続して指定できる

ここでも有効な対策となるのが家族信託です。家族信託では、受益者を連続して指定することができます。
まず最初の受益者(一次受益者)を自分とし、自分が亡くなった後の受益者(二次受益者)を息子、息子が亡くなった後の受益者(三次受益者)を孫、孫がなくなった後の受益者(四次受益者)を、まだ生まれていないひ孫というように、亡くなった後の受益者を次々と指定できます(受益者連続機能

家族信託 受益者連続

そうすることで、直系の子孫代々に財産を残したいという、委託者の意思を確実に実現できます(意思凍結機能

実際には、信託契約から30年以上経過したときに発生した相続で、受益者連続の効果は打ち止めになりますが、その時点での受益者である人が、再び同じような信託契約を結べば、ほぼ永久に直系の子孫に財産を残していくことができます。

3-3.財産を渡さず権利だけを移転することで、受益者に確実に利益を残せる

家族信託を利用すると実質的には委託者から受益者に権利を移転できます。ただし、形式的には受託者が委託財産を管理・運用しています。
したがって、権利だけを移転できる「条件付贈与」と言えるのです。この結果、受益者が勝手に委託財産を処分しないようにできます。

たとえば、配偶者が認知症の場合、その配偶者が相続してしまうと自分では財産を管理できませんので、家庭裁判所に申請して成年後見人を立てるなどの面倒な手続きが必要であり、株式などの財産の運用・売却も難しくなります。これでは、財産を活用することができません。

家族信託であれば、受託者が財産を管理・運用して、そこから得られた利益を受益者に渡しますので、受益者が確実に利益を渡すことができます。
仮に受益者が無駄遣いをする子供だったとしても、本人が勝手に売却処分等できませんので、結果的にその子供を保護することにつながります。

4.デメリット

民事信託を利用することのデメリットは、節税対策にはならないということです。先ほど、信託契約は相続とは全く別の枠組みであると述べましたが、税金の課税は契約の種類に関わらず実際の状態で判断されます

相続人に財産がわたれば相続税が課税され、生前に受益者が財産を得れば贈与税が課税されます。受託者は単に財産を管理しているだけで、実際に利益を得るのは受益者ですので、受託者への課税はありません。詳しくは次の通りです。

・生前信託や、遺言信託は遺贈とみなされ「相続税」が課される
・受託者から受益者へ財産が譲渡される場合は贈与とみなされ「贈与税」が課せられる
・受益者連続型信託の場合は、遺贈とみなされ「相続税」が課せられる
・受益者がマンション等の賃料を取得している場合は「所得税」が課される

そのため、あくまでも家族信託は相続対策として効果的であり、節税対策ではないことを覚えておく必要があります。

【関連】家族信託でかかる税金、相続税・贈与税など

5.家族信託の種類

家族信託と言ってもその種類は様々です。ここでは代表的な家族信託の種類を紹介します。

5-1.契約信託

一般的に言われる家族信託のことです。委託者、受託者、受益者の三者が別々の人物によって構成されています。委託者と受託者の間で契約を結び、それに従って受託者が受益者のために委託財産を管理・運用します。

5-2.遺言代用信託

相続発生時に契約が発生する家族信託のことです。生前、委託者と受託者との間で契約を結んでおきます。そして委託者が亡くなった際に、受託者が管理していた財産を受益者に給付します。

5-3.自己信託

「委託者=受託者」として契約する家族信託のことです。自分の財産を受益者のために管理・処分することができます。自己信託は、かつては禁止されていましたが、平成20年より実施できるようになりました。

5-4.受益者連続型信託

受益者が死亡したことで、次の受益者が受益権を取得できる家族信託のことです。通常であれば受益者の死亡によって受益権は消滅をします。しかし受益者連続型信託契約を結べば、その受益権を次の受益者に移行することが可能になります。

6.手続き方法

家族信託の手続きは、煩雑化しておりケースごとに対応が異なります。そのため、詳しくは専門家に相談をしながら手続きを進めるといいでしょう。ここでは一つの例として「遺言代用信託」の手続き方法を見ていきます。

なお、「遺言代用信託」とは、被相続人が亡くなった場合(相続が発生した場合)に受託者が遺言通りに手続きを進めてくれる信託です。

6-1.委託者が受託者に信託を申し込む

まずは被相続人となる委託者が、受託者に遺言代用信託を申し込みます。この委託者は個人でも、法人(信託銀行など)でも問題ありません。ただ、確実に手続きがされるようにしたければ、専門家である弁護士・司法書士や信託銀行などを受託者とすると良いでしょう。

委託した財産(信託財産)の名義は受託者に変更されますが、実際の権利を持っているのは委託者です。ここで、あらかじめ委託者が、相続時の受益者等を指定しておきます。これで信託契約は完了で、あとは相続が発生するのを待つだけです。

6-2.相続が発生したら受益者が受託者に請求をする

被相続人である依頼者が亡くなった時点で、相続が開始されます。こうなったら、まず受益者である相続人が、受託者に対して遺言の実行を請求します。

この請求を受けると、受託者である個人や信託銀行は、あらかじめ決めておいた財産の管理・運用・処分方法に従い、受益者に対して信託財産の支払いをします。

まとめ

家族信託とは民法の相続とは全く異なる仕組みであり、遺留分減殺請求を阻止できたり、委託者の思い通りに子孫に財産を残したりと、今までの相続対策ではできなかったことが可能です。
ただし、家族信託は相続対策としては効果的ですが、絶税対策としての効果はほとんどありません。契約の内容に関わらず、受益者が実際に利益を得れば税金がかかります。

家族信託の利用に当たっては、信託契約書の作成が必要ですので、詳細は、税理士や弁護士・司法書士などの専門家に相談をすると良いでしょう。

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