遺言書で妻に「全財産」を相続させることは出来るのか?

自分の死後、妻が不自由なく生活するためには、相続する財産が非常に重要な糧となります。そこで、今と同様な生活をおくれるように、妻1人に全財産を相続させることはできるのでしょうか?
今回は、遺言書により妻があなたの全財産を相続するための方法や他の対策を解説します。
目次
1.「妻に全財産を相続させる」遺言は有効か?
遺言書に書かれている内容は、遺言書自体に問題がない限り基本的には有効です。
「全財産を妻に相続させる」という内容であっても、法的に遺言書の様式を満たしているならば有効です。
被相続人が自ら記した遺言書(自筆証書遺言といいます)が無効となるのは、作成時に認知症を患っていた(意思能力がない)、他の者が記入したといった場合や、署名、捺印がないといった法律で求められる要件に合致しない場合です。
そのため、遺言書の様式に気をつけて作成すれば、相続にあなたの意思を確実に反映させられます。
2.妻に全財産を相続させる遺言書の書き方
では、実際に遺言状を作成するときには、どのようなポイントに気をつければよいのでしょうか?
2-1.法律上有効な遺言書にするためのポイント
遺言書を法律上有効なものにするために、以下のポイントを押えておきましょう。
自筆証書遺言は、遺言書すべてを自分で手書きしなければならないのが基本です。
ただし、財産目録は、パソコンの使用も可能です。
- 全文を自書する
- 作成日を自書する
- 作成者の氏名を自書する
- 捺印
また、加筆・修正する際にも、気を付けなければならない点があります。
加筆・修正のポイントや無効になる遺言書については、是非こちらで確認ください。
2-2.妻に全財産を相続させる遺言書
妻に全財産を相続させる場合、遺言書の記載は、そのまま「妻に全財産を相続させる」と記せばいいでしょう。
ただし、何度も結婚している場合など、現在の妻なのか、前の妻なのか混同してしまう可能性があります。そのため、「妻」という表記の他に、名前や生年月日、住所などを併記して、個人を特定できるようにしておくことも大切です。情報が不足してしまうと、誤解を招いたり、無効だという主張を通すきっかけとなったりすることがあります。
妻に全財産を相続させる遺言書のサンプルを用意しました。参考にしてみてください。
もし、自分で作成するのを不安に感じる場合は、弁護士などの専門家に依頼して作成するのがおすすめです。
3.妻に全財産を相続させるには遺留分への考慮が必要
財産を相続する際に忘れてはならないのが、相続人の遺留分です。ここでは、遺留分とは何か、について解説します。
3-1.遺留分は請求されたら渡す必要がある
遺留分とは、一定の相続人に保証された「最低限受け取れる権利」のことです。遺留分を受け取ることは原則として妨げることはできないため、請求があれば遺留分を渡す必要があります。
ただし、遺留分は、法定相続分を超える財産を受けた相続人に対して遺留分侵害額請求権を行使することで初めて発生します。遺留分侵害額請求権は、相続の開始及び遺贈・贈与を知った時から発生し、この日から1年で時効を迎えます。
意図的に請求しない場合や、時効を迎えた場合には、遺留分を渡す必要はありません。
3-2.各相続人の遺留分の割合
相続財産全体に占める遺留分の割合は、相続人のパターンによって異なります。
相続人 | 遺留分 | 各相続人の遺留分 |
---|---|---|
配偶者と子 | 1/2 | 配偶者:1/4 子:1/4 |
配偶者と直系尊属 | 1/2 | 配偶者:2/6 直系尊属:1/6 |
配偶者と兄弟姉妹 | 1/2 | 配偶者:1/4 兄弟姉妹:なし |
子のみ | 1/2 | 子:1/2 |
直系尊属のみ | 1/3 | 直系尊属:1/3 |
兄弟姉妹のみ | なし | なし |
例えば、配偶者と両親が相続人の場合、遺留分は全体の1/2、両親の法定相続分が全財産の1/3となりますので、両親は遺留分として全体の1/6までを請求する権利があります。
ただし、上表からわかる通り、兄弟姉妹には、遺留分侵害額請求権がありません。相続人が、妻以外に兄弟姉妹だけであれば、遺留分を心配する必要はありません。
4.妻に全財産を相続させるための遺留分対策
そこで、遺留分についての対策をいくつか考えてみましょう。
4-1.遺留分でもめないように生前に話し合っておく
生前に家族でよく話し合い、妻へ全財産を相続させることについて納得してもらうことが、相続が発生した後にもめないようにする対策となります。
相続人になる者には順番があります。必ず相続人となるのが配偶者で、子供がいればその子供が相続人に、子供がいなければ両親が、両親もいなければ兄弟姉妹が相続人となります。
そのため、子供がいる場合は両親との話し合いは不要です。
また、子供が相続人となる場合は、配偶者が相続したほうが相続税対策になり、母親が亡くなればその財産を相続できることから、こじれる心配はそれほどないでしょう。
いきなり遺言書で明らかになると、不満が生まれやすくトラブルになってしまうケースもあります。生前に話し合う場を設けておき、あなたの気持ちや考えをしっかりと子供たちなど遺される者へ伝えておくことを忘れないようにしましょう。
4-2.すべての現金を妻に相続し遺留分対策とする
遺留分の請求には、現金だけでなく不動産渡すことで応じることも可能です。
そこで、自宅を妻と子供で共有し、現金は妻だけが相続するように対応するのも、遺留分対策として1つの方法となります。
次の事例で妻1人がすべての財産を相続した場合を考えてみましょう。
- 相続人
母・子1人 - 相続財産
自宅評価額 500万円 現金 500万円 総額 1,000万円
子供の遺留分は、次の計算から、250万円となります。
相続財産1,000万円 × 法定相続分1/2 × 遺留分1/2 = 250万円
自宅の評価額は500万円なので、妻と子供で共有することにすれば、250万円の遺留分を渡したことになります。一方で、現金については、全額妻が相続できることになります。
ただ、この方法は、子供が1人であれば有効ですが、子供が複数人いる場合は自宅の権利者を誰にするかで揉めてしまう可能性もあります。
5.妻1人に全財産を相続させるための方法
より確実に妻に財産を相続させるための対策はまだあります。
5-1.問題のある相続人を廃除する
相続や家族間でトラブルを起こしかねない相続人には財産を遺したくないのが人情です。
こういった場合には、生前、家庭裁判所に申立てをするか、遺言書で相続人を廃除することができます。
相続人の廃除を行うと、その相続人は相続権や遺留分を請求する権利を失います。
ただし、相続人の廃除が可能なのは、被相続人への虐待や被相続人の財産を不当に処分した場合、重大な犯罪行為を行い有罪判決を受けている場合などで、実際に廃除が認められるのは、とても限られているのが実情です。
5-2.贈与税の配偶者控除を活用
夫婦は協力して生活を行うという観点から、贈与について配偶者控除が設けられています。
この制度を活用することで、現在住んでいる自宅を非課税で妻へ贈与することができます。
この制度を利用すると、不動産の生前贈与に対して、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円までの控除が付帯されます。つまり、2,110万円以下の自宅であれば妻への贈与は非課税で行えるのです。さらに、不動産だけでなく、購入資金として財産を贈与することもできます。
ただし、この控除を受けるには、婚姻期間が20年を過ぎていることや、贈与を受けた年の翌年の3月15日までに贈与された住宅か贈与された金銭で購入した住宅で生活し、今後もそこで生活する予定であるなど、厳しい条件が設けられています。加えて、同じ配偶者からの贈与について、一生に一度しか利用できません。
この制度を利用するには、贈与が非課税となった場合でも、所定の書類を揃えて別途手続きが必要となります。用意する書類には、複雑なものや難しいものもあるので、税理士などの専門家に依頼することをお勧めします。
また、配偶者が先に亡くなってしまうと、再びあなたの元へ不動産が戻ってきてしまい、控除を利用した意味がなくなってしまいます。タイミングを見極めながら、制度を活用しましょう。
5-3.家族信託を利用した相続
相続の新しいあり方として最近注目されてるのが、家族信託を活用した方法です。家族信託とは、財産を管理する方法の1つで、受託者、委託者、受益者の3つの役割があります。
委託者は財産を保有していた者、受託者は財産を受け取り管理する者、受益者が利益を受ける者です。
委託者を夫、受益者を妻にしておけば、もし委託者である夫が認知症などを患っても、受託者が責任を持って適切なお金の管理をするため、安心して生活をおくることができます。
また、家族信託の場合、委託者が信託の目的をあらかじめ設定することができ、受託者はその目的に従って財産を管理・運用しなければなりません。つまり、受託者が子供だったとしても、あなたの考え通りに妻のために全財産を運用・管理できるのです。
家族信託を利用する場合、必要な手続きや制度の深い理解が必要となりますので、一度専門家と相談しておくことをお勧めします。
遺言で妻に全財産を相続させるにあたってのFAQ
遺言で妻に全財産を相続させることはできますか?
遺言で妻に全財産を相続させることはできます。ただし、子供や親など他に相続人がいる場合は、遺留分侵害を請求される可能性があります。
妻に財産を渡す方法は他にありますか?
相続以外に、贈与で、妻に財産を渡すことができます。
贈与をすると贈与税がかかりますが、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで非課税となる「配偶者控除」を利用すると、お得です。