相続した土地・建物を売却した際の確定申告

被相続人が亡くなって、遺産である土地や家を相続しても、活用する予定がなければ、売却するのも1つの方法です。

相続した不動産を手放し現金化すことで、固定資産税や維持費の負担から解放され、他の相続人への代償金や納税資金に充てることができます。

ただし、不動産を売却した年には、譲渡所得の確定申告が必要になるケースがあります。今回は、譲渡所得の確定申告や必要書類について解説します。

なお、不動産を譲渡したときに課される譲渡所得税以外の税金については、以下の関連記事をお読みください。

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1.不動産売却後、譲渡所得が出れば譲渡所得税が課税される

不動産を売却した際に、購入額より売却代金が大きく売却益が出れば、その売却益は譲渡所得となり、所得税と住民税*がかかります

単純な例を挙げると、8,000万円で購入した土地が1億円で売れれば、譲渡所得は2,000万円で、この2,000万円に対して所得税と住民税が課税されます。

* 譲渡所得に課税されるため、この所得税と住民税を俗称「譲渡所得税」と呼びます。

1-1.長期譲渡所得と短期譲渡所得

譲渡所得はその不動産の所有期間に応じて、長期譲渡所得短期譲渡所得に分けられ、税率が異なります。

 起算点所有期間所得税率住民税率
長期譲渡所得原則売却した年の1月1日5年を超える15%5%
相続被相続人が所有者となった日
短期譲渡所得原則売却した年の1月1日5年以下30%9%
相続被相続人が所有者となった日

※確定申告の際には、所得税と併せて復興特別所得税(基準所得税額×2.1%)も申告納付する必要があります。

上記の通り、相続した不動産は、被相続人が所有者になった日を起算点として所有期間を考えます。

具体的に不動産の所有権が買主に移転するのは、民法上、売買契約の締結日とされます。ただし、不動産の一般的な売買契約では、買主が売買代金を支払い、売主が受領したときに移転する旨を契約書に明記するため、所有権が移転するのはこの日となります。

長期譲渡所得と短期譲渡所得の比較

 譲渡所得が2,000万円だった場合の譲渡所得税の額を、長期譲渡所得と短期譲渡所得とで比較してみましょう。

区分計算式納税額
長期譲渡所得2,000万円 ×(所得税15%+住民税5%)400万円
短期譲渡所得2,000万円 ×(所得税30%+住民税9%)780万円

長期譲渡所得では400万円であるのに対して、短期譲渡所得になると780万円と倍近い税額に跳ね上がります。

譲渡所得が大きくなる可能性があれば、所有期間が5年を超えるのを待って売却するのも節税方法の1つです。

2.譲渡所得の計算方法

以下は、課税譲渡所得金額の算式です。

譲渡価額 -(取得費 + 譲渡費用)- 特別控除額 = 課税譲渡所得金額

上記の計算で算出した課税譲渡所得金額に、前述した譲渡所得税率を乗じれば、譲渡所得税の税額を算出ことができます。

ここでは、この算式に登場する用語について一つ一つ解説します。

2-1.譲渡価額

 譲渡価額とは、不動産の売却価格のことです。

2-2.取得費

取得費とは、その土地や建物の購入価格、建物の建築費用、リフォーム費用ほか、次の費用などを合計したものです。

  • 不動産購入時に納めた登録免許税、不動産取得税、特別土地保有税(取得分について)、印紙税
  • 借主がいる不動産の購入の際に、借主を立ち退かせるために支払った立退料
  • 土地の埋立てや土盛り、更地にするために支払った造成費用
  • 測量費
  • 不動産を取得するために支出した訴訟費用

【参考外部サイト】「No.3252 取得費となるもの」|国税庁

建物の減価償却計算

家などの建物は、土地とは異なり、経年により劣化していくため、購入価格から減価償却費相当額を差し引く必要があります。減価償却とは、時の経過によって価値が下がることをいいます。 

つまり、建物は、経年劣化した分を減価償却して譲渡所得を計算するのです。

非事業用(マイホームやセカンドハウス)の建物については、以下の計算式で減価償却費を算出します。

減価償却費 = 建物取得費 × 0.9 × 償却率 × 経過年数(※)

※ 非事業用の建物については、定額法で算出します。

建物取得費

建物取得費は、土地の取得費とは別に計算します。

償却率

家屋の種類によって法定耐用年数が定められており、法定耐用年数によって、償却率が決まります。

建物の構造耐用年数償却率
鉄骨鉄筋コンクリート造
鉄筋コンクリート造
70年0.015
金属造骨格材の肉厚4mm超51年0.020
骨格材の肉厚3mm超4mm以下40年0.025
骨格材の肉厚3mm以下28年0.036
木造33年0.031
木骨モルタル造30年0.034

経過年数

経過年数は、築年数ではなく、所有期間です。6ヶ月以上の端数は1年として計算し、6ヶ月未満の端数は切捨てます。

取得費が分からない場合

親や祖父母が何十年も前に購入した不動産や、先祖代々受け継がれてきた土地を売却する際には、購入金額が不明確であることが多くなります。

このような取得費が分からない場合に備えて、譲渡価額の5%相当額を取得費として計算する方法があります。例えば、譲渡価額が5,000万円の場合の取得費は250万円となります。

なお、この方法は実際の取得費の金額が譲渡価額の5%に満たない場合にも使うことができ、取得費が明確、不明確は問わず、一旦5%分の金額を計算してみて、有利な方を選択するようにしましょう。

2-3.譲渡費用

譲渡費用は、土地や家などの建物を売却するためにかかったすべての費用です。例えば、次のような支払いすべてを合計したものをいいます。

  • 不動産会社への仲介手数料
  • 売主が負担した印紙代
  • 測量費
  • 建物の取り壊し費用
  • 貸家を売るために、借家人に家屋を明け渡してもらうため支払った立退料
  • 売買契約を締結した不動産を、さらに有利な条件で売るために支払った違約金
  • 借地権の売却の際に地主の承諾をもらうために支払った名義書換料

【参考外部サイト】「No.3255 譲渡費用となるもの」|国税庁

3.土地・建物を売却したときの特別控除

不動産を売却した場合に利用できる控除について、相続不動産の譲渡に利用しやすい「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」と、マイホームの売却に利用しやすい「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」、「10年超所有軽減税率の特例」の3つを取り上げて解説します。

3-1.相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

売却する不動産が相続により取得したもので、適用要件に該当するときには、譲渡価格から差し引ける金額に、その不動産にかかった相続税を含めることができます。

譲渡価額 -(取得費+譲渡費用+かかった相続税額のうち、その不動産に対応する部分の金額)- 特別控除額= 課税譲渡所得金額

適用要件

  • 相続または遺贈により財産を取得した人による売却であること
  • 相続財産を売却する人に相続税が課されていること
  • その相続税の申告期限から3年以内(相続開始の日からは3年10ヶ月以内)に売却してい
  • ること

相続税の取得費加算の特例について、詳しくは以下の関連記事をお読みください。

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3-2.居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例

売却した不動産がマイホームの場合には、譲渡所得を計算するうえで3,000万円の特別控除を受けることができます。したがって、譲渡所得が3,000万円以下であれば所得税・住民税はかからないということになります。

この特例は、基本的にその住宅にご自分が住んでいることが適用要件となります。

ただし、細かい適用要件をクリアする必要があるため、詳しくは税理士や税務署に確認することをお勧めします。

3-3.10年超所有軽減税率の特例

長期譲渡所得と短期譲渡所得を判断するのと同様に、売却した年の1月1日におけるマイホームの所有期間が10年を超えている場合には、3,000万円の特別控除を差し引いた後に乗じる税率は、次の軽減税率となります。

課税所得金額所得税率住民税率
6,000万円までの部分10%4%
6,000万円を超える部分15%5%

4.確定申告書の書き方

譲渡所得は、事業所得や給与所得などの総合課税とは分けて税額を計算する分離課税となっています。

計算自体は区分して行いますが、確定申告手続き自体は他の所得と同時に行います。

4-1.使用すべき申告書

土地や家を売却した場合の譲渡所得の申告には、通常の申告書の第1表、第2表に加えて第3表(分離課税用)を使用します。

あわせて、譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)を作成します。

4-2.申告書に添付する必要書類

申告書に添付する主な必要書類については以下を参考にしてください。

  • 譲渡所得の内訳書
    売却した不動産の情報や、支払った代金、売却のための費用などを記載します。
    国税庁の下記サイトからダウンロードすることができます。
  • 売却時の契約書等
    売買契約書、仲介手数料の領収書、印紙税の領収書のコピー
  • 売却不動産の登記事項証明書
    不動産が所在する管轄法務局で取得することができます。

内訳書の書き方やその他の添付書類は、売却や特例の適用状況によりそれぞれ異なります。詳しくはこちらをご覧ください。

【参考サイト】令和元年分譲渡所得の申告のしかた(記載例)|国税庁 

様式は以下より入手できます。

【参考サイト】申告書添付書類一覧(所得税及び復興特別所得税(譲渡所得・山林所得関係)申告書添付書類)|国税庁 

4-3.申告の提出先や提出方法

所得税の確定申告書は、原則、納税者の住所地または事業所地等を所轄する税務署に提出します。

確定申告の期限は毎年3月15日で、税務署の窓口以外にも、インターネットを利用したe-tax、郵送での提出が可能です。

5.住民税の申告について

住民税は、所得税の申告をすれば自動的にそのデータが地方自治体へ送られるようにシステム化されており、わざわざ住民税の確定申告を別途行う必要はありません。

また、住民税の税額は、ご自分で税額を計算して申告する申告納税方式の所得税とは異なり、地方自治体が納めるべき金額を計算し納税者に通知する賦課課税方式となっています。

そのため、住民税に関して納税者がすべきことは、納税通知書と納付書が届くのを待って、期限までに納税することだけです。

注意すべきポイントは、所得税と住民税の納税時期に数カ月のズレがある点です。

所得税は、不動産を売却した年の翌年3月15日まで(振替納税の場合には4月20日頃)に支払いますが、住民税は6月からとなっています。

所得税の申告納税が終わり、全て終わったと思って安心していると、6月の住民税で驚くことになってしまいます。納税計画はきちんと立てておきましょう。

まとめ

相続した不動産を売却しても、特例の適用を受けられるため、多くの場合、譲渡所得税はさほど大きな負担にはならないことが分かります。

しかし、相続発生前の売却や、相続後も保有し続けるほうが良いケースもあります。不動産業者に相談すると売却を勧められることが多くなるため、迷う場合には税理士に相談するようにしましょう。

以下のサイトでは、選んだ複数の不動産業者に査定依頼を出すことができます。

ご自分が相続した不動産の価値がどれくらいなのか手軽に相場を知ることができ、少なくとも不動産業者の言いなりに売却してしまうことは避けられるため、検討材料の1つとしてご活用ください。

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監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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