相続税で名義預金と認定されるポイントと認定されないための対策
被相続人が子や孫の名義で積み立てていた預金など、亡くなった被相続人以外の名義の預貯金であっても、「名義預金」と認定さ…[続きを読む]
預貯金は相続が発生した時に相続財産として引き継ぐ可能性が高いものです。土地や建物は所有していない方はいても、預貯金はお持ちの方がほとんどでしょう。
しかし、相続税評価や金融機関での名義変更などの相続手続きといった、相続が発生した場合の預貯金の取り扱いについてご存知の方はなかなかいないのではないでしょうか。
そこで今回は預貯金を相続する場合の相続税評価はどうすれば良いのか、引き出しや名義変更などの金融機関での手続きの方法について解説していきたいと思います。
目次
相続財産は、相続開始日つまり被相続人が亡くなった日における時価が評価額となります。預貯金についても例外ではなく、相続開始日における残高が評価額となります。
したがって、相続開始日翌日以降に公共料金などが引き落とされていても、あくまでそれらが引かれる前である相続開始日における残高が評価額になります。
なお、相続開始日翌日以降に引き落とされた公共料金などのうち被相続人が使用していた部分に係るものは債務控除の対象となり、結果的には相続財産から減額することができます。
また、反対に、相続開始日以前に引き出された現金のうち相続開始日に手許に残っている金額があれば、その部分を手許現金として相続財産として計上しなければなりません。
相続開始日における残高は記帳を行っていれば、通帳によっても確認ができる場合もありますが、金融機関から相続開始日時点の残高証明を取得し、残高を確認するようにしましょう。相続税の申告が必要な場合には、残高証明を申告書に添付することでより高い信頼性を確保することができます。
配偶者や子供など、被相続人以外の名義の口座であっても、その口座のお金を被相続人が拠出していて、その口座の管理も被相続人が行っていたような口座については、実質的には被相続人のものであると認定され、いわゆる「名義預金」として相続税が課税されることもありますので注意が必要です。
定期預金については、相続開始日における残高に税引後の既経過利息を加えた金額が評価額となります。
既経過利息とは、仮に相続開始日において解約した場合に支払われる利息のことを言います。
金融機関に残高証明を依頼する際に、既経過利息の計算についても依頼するようにしましょう。
外貨建預金についても、基本的には相続開始日における残高が評価額になります。
しかし、相続税の計算は日本円で行いますので、その外貨における残高を日本円に換算する必要があります。
したがって、外貨建預金については、相続開始日における残高を相続開始日の為替レートで日本円に換算した金額が評価額となります。
相続開始日における為替レートが存在しない場合には、相続開始日以前の相続開始日に一番近い日の為替レートを使います。
なお、為替レートにはTTB(外貨を日本円に交換する場合のレート)、TTS(日本円を外貨に交換するときのレート)などがありますが、知りたいのは外貨建預金が日本円でいくらになるかですので、TTBを使います。
また、TTBは金融機関ごとにレートが多少異なることがありますが、相続人の取引金融機関が公表するものを利用します。特にメインとなる取引金融機関をお持ちでない場合は、インターネットなどで公表している銀行のものを使うと良いでしょう。
相続が発生し、金融機関が被相続人の死亡を知った時に、被相続人の預貯金の口座は凍結されます。
しかし、相続人などが残高証明の依頼や名義変更の依頼などを通じて金融機関へ被相続人の死亡を報告しなければ、凍結されないままであることも多くあります。
なぜ預貯金の口座は、凍結されるのでしょうか?
金融機関は被相続人のキャッシュカードや通帳を利用して被相続人の預貯金を引き出そうとしている人が本当に相続人であるかは容易にはわかりませんし、相続人であったとしても、その相続人が、遺言や分割協議などを経て、相続財産のうちその預貯金を取得するもののとされた相続人であるかはわかりません。
もし、取得する権利の無い人に払い戻しをしてしまえば、相続人間のトラブルに発展してしまうリスクもあります。
そのため金融機関は一旦、被相続人の口座を凍結し、相続人から戸籍謄本、遺言書、分割協議書などの証拠が提出された時に払い戻しなどの相続手続きを行うようにしているのです。
相続財産が財産よりも借金などの負債の方が多い場合などに、それらを相続しない方法として相続放棄があります。
相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産も一切相続しないという方法です。
したがって、相続人がプラスの財産である預貯金を自分の生活費などのために使い込んでしまうようなことがあると、その相続放棄のプラスの財産もマイナスの財産も一切相続しないという前提に反することになり、その相続人は相続放棄をできなくなりますので注意が必要です。
しかし例えば、預貯金を被相続人の身分相応の葬式を営むための費用等に使うような場合には相続放棄をできなくなる場合には該当しないとする判例(大阪高等裁判所平成14年7月3日決定)もあります。
また、相続財産の中の借金を返済するために預貯金を使う行為は、プラスの財産とマイナスの財産が相殺されるだけであり、相続財産の合計は変わらないため、相続放棄をできなくなる場合には該当しないとされています。
被相続人の預貯金の口座が凍結されてから、遺産分割協議などがまとまりその預貯金を引き出せるようになるまでに生活費や葬儀費用などのお金はどうすればよいのでしょうか?
これらの支払いのために凍結されている口座から一定の金額までに限り引き出せる制度として、仮払い制度というものがあります。
仮払い制度を利用すれば、遺産分割協議がまとまるのを待たずに安心して生活費や葬儀費用など必要なお金を引き出すことができます。
仮払い制度を利用する場合には、まずは金融機関に問い合わせ、その指示にしたがって手続きをすすめましょう。
預貯金の解約・払戻しや名義変更などの相続手続きを行う場合は、まずは金融機関にその旨を連絡しましょう。
その後は金融機関の案内にしたがって、必要書類を揃えていくことになります。
相続手続きに必要な書類は各金融機関によって若干異なりますが、概ね以下の書類が必要になります。
金融機関での相続手続は金融機関ごとに何度も出向いて進めていくことになりますし、必要書類も多く、集めるのもかなりの時間と労力がかかります。また平日にしか行えない手続きも必ず出てきてしまうものです。
お勤めの方などは税理士事務所などが行っている代行サービスの利用を検討しても良いでしょう。
預貯金を相続する場合は、相続税の申告、口座の凍結、名義変更などの相続手続き、といったさまざまな注意点があることが理解いただけたのではないでしょうか。
預貯金は税務調査で最も厳しくチェックされる項目の一つですので、手許現金や名義預金の計上に漏れがないように注意しなければなりません。
また、被相続人が多くの預貯金口座を有していた場合には、手続き先の金融機関も多くなりますので、名義変更などの相続手続きは大変困難です。
これらを正確かつ安心して進められるように税理士などの専門家の代行サービスを利用することも検討すると良いでしょう。