小規模宅地等の特例の要件、相続税評価など基本を徹底解説!
小規模宅地等の特例は、大きな節税効果がある制度で、宅地の評価額を最大8割減額することができます。特例の対象となる宅地…[続きを読む]
親の土地をタダで借りて家を建てて住んでいるときに相続が発生してしまったら、その土地はどのように取り扱われるのでしょうか?
またタダでの土地の貸し借りは、相続税が高くなる場合があるのを知っていますか?
今回は、使用貸借と相続の関係を、節税対策も含めて徹底解説します。
目次
使用貸借とは、動産や不動産などを無償で貸し借りすることをいいます。これに対して有償での貸し借りは、賃貸借といいます。
使用貸借はタダでの貸し借りなので、基本的には親子間や、会社と経営者との間で行われ、口約束のみで契約書がない場合が多いことが特徴です。
使用貸借は借家借地法が適用されず、貸主が「出ていってほしい」と言えば、すぐに出ていかなくてはなりません。親子間などで行われている場合には、さほど問題にはなりませんが、使用貸借は賃貸借に比べて、借主は守られないのです。
子供が使用貸借で親の土地を借り、家を建てて住んでいたとします。その後、親より先に借主の子供が死亡した場合には、この使用貸借はどのように取り扱われるのでしょうか。
民法には、使用貸借の終了が「使用貸借は借主の死亡によってその効力を失う」(599条)と規定されており、借主が死亡した時点で、その使用貸借は消滅します。借主としての地位は、相続人に引き継がれないということです。
賃貸借であれば借地権(借りている土地に自分の建物を建てられる権利)が、相続人に引き継がれますが、使用貸借にはそれがないのです。
ただし、使用貸借契約で借主の承継が認められている場合には、借主としての地位は相続人に引き継がせることが可能です。もしも契約がなかったとしても、親子間のことなので、貸主と相続人がまた使用貸借を行えばよい話です。今回の例えで言えば、貸主である親が子供の子供(孫)と使用貸借するようになります。
それでは次に、1-2.の例で親が死亡した場合についてです。
この場合には、死亡を原因とした使用貸借の終了はありません。借主にその土地を使用させるという責任が貸主にはあり、それがそのまま相続人に引き継がれるので、借主に影響はありません。
国税庁ホームページには、使用貸借の土地の取り扱いについて次の記載があります。
使用貸借の権利には評価額がないということなので、被相続人が借主の場合には、相続税評価額は0となります。
そして被相続人が貸主である場合の相続税評価額は、自用地価格(更地として100%自分が使用する土地としての価格)となり、使用貸借があるということは無視した評価になります。
賃貸借の土地であれば、自用地価格から借主が持っている権利である借地権が差し引かれますが、使用貸借にはそれがありません。使用貸借は借主の権利が弱く、権利として評価されないからです。
借主:使用貸借の権利について一切評価しない
貸主:使用貸借している土地は自用地として評価
【出典サイト】「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」|国税庁
自用地として100%の相続税評価額となってしまう使用貸借の土地ですが、節税対策は存在します。
ポイントは、相続税評価額を減らすということです。
生前にできる節税対策として挙げられるのが、使用貸借から賃貸借への変更です。
タダでの貸し借りを、地代を地主に納めることで賃貸借にします。そうすると自用地価格から借地権を差し引くことができるため、大きく相続税評価額を下げることができます。
例えば、自用地価格3,000万円、借地権割合60%の土地の場合の相続税評価額は、
賃貸借の場合の評価額 | 使用貸借の場合の評価額 |
---|---|
3,000万円 ×(1 - 60%)= 1,200万円 | 3,000万円 |
賃貸借では1,200万円、使用貸借では3,000万円と評価額に大差が出ます。
注意しなければならないのが、地代の金額です。その地域の相場よりも明らかに低い金額の場合には、その差額について贈与税が課される可能性があります。
次に節税対策として挙げられるのが、小規模宅地の特例です。
小規模宅地等の特例とは、相続財産である土地が次のいずれかに該当する場合には、その評価額を最大8割減額できる制度で、非常に大きな節税効果を持っています。
この場合には、その土地が特定居住用宅地等または特定事業用宅地等のいずれに該当するかになります。
これを判断するための大きなポイントとなる要件が、「被相続人と生計を一にしていた親族の、自宅または事業に使っていた土地である」です。
使用貸借が親子間や親族間である場合には、被相続人と生計を一にしていた場合のみ、特定居住用宅地または特定事業用宅地として小規模宅地等の特例を受けることが可能になるのです。
生計を一というのは、日常生活に使うお金を同じにしていることを指します。具体的には、両親の年金と息子が働いたお金を合わせて、両親と息子家族が生活しているような状態をいいます。
基本的にはこのような状態であれば同居が多いですが、別居であったとしても、進学就職などやむを得ない理由であり、これらの家族間で生活費や学費などの送金が行われている場合には生計が一であるとみなされます。
使用貸借の場合に考えられるのは、親の土地をタダで借りてその上に自宅を建てているパターンです。二世帯住宅などで生計一である場合には大丈夫ですが、独立した生活を営んでいる場合には該当しません。
使用貸借で適用を受ける場合の注意点
被相続人が借主から賃料を貰っている場合には、貸付事業用宅地等に該当します。
使用貸借のまま小規模宅地等の特例を受けるためには、生計一というのが1つのポイントでしたが、賃貸借にはそれは関係ありません。借主が生計一の親族でなくても、親族ではない第三者でも大丈夫です。
また、単に土地を1つ貸しているだけなのに事業?と思うかもしれませんが、ここでいう不動産貸付については、所得税の事業的規模のように事業の大小は問われません。
この場合に注意しなければならないのは、相続により土地を引き継いだ後にもその貸付事業を継続しなければならない点です。
自分から自分への貸付はあり得ないので、借主自身が相続してしまうと貸付事業が終了します。
小規模宅地等の特例の適用を受けたいのであれば、借主以外の人が相続する必要があります。
使用貸借から賃貸借に変更して適用を受ける場合の注意点
所有している土地の一部を使用貸借している場合、その使用貸借部分の土地の評価はどうなるのでしょうか。
被相続人が使用貸借で貸している土地は、自用地価格で評価されるので、使用貸借部分と自宅用敷地の地目が相違していても、両土地を一体の土地として評価します。
1つの土地として評価することで、場合によっては地積規模の大きな宅地の評価などの評価減制度が適用でき、相続税評価額を下げることができます。
使用貸借で借りている土地については評価しないので、この場合には、被相続人が所有していた土地のみを評価して相続税を計算します。
土地の使用貸借は、借主が死亡した場合には評価0、貸主が死亡した場合には、相続税評価額は自用地価格となります。
賃貸借に比べて相続税が高くなりますが、賃貸借に変更したり、小規模宅地等の特例の適用対象となることで節税する方法もあるので、税理士に相談しましょう。
また、使用貸借は当事者が死亡した場合には、遺族がそこに住めなくなるなどの揉め事に発展してしまう可能性があります。生前に、相続人が引き続き住むことができるように契約書を作成しておくなどの対策をしておくと良いでしょう。