小規模宅地等の特例の要件、相続税評価など基本を徹底解説!
小規模宅地等の特例は、大きな節税効果がある制度で、宅地の評価額を最大8割減額することができます。特例の対象となる宅地…[続きを読む]
「借金をすれば相続税が減らせるって聞いたけど、本当なの?」と考えている方も多いと思います。
借入金による相続税対策については、お金を借りること自体が節税対策になるわけではなくて、この借入金を有効に活用することによって相続税が節税できます。
その借入金による節税方法について解説します。
目次
相続財産は、プラス財産とマイナス財産(負債)との相殺金額になります。
そのため、「借金をすれば負債が増えるので相続財産が減り、その結果、相続税が少なくなる」、と考えている方がいらっしゃると思います。
しかし、借金をするだけでは、相続税の節税効果はありません。
例えば、1,000万円借金する場合、負債が1,000万円増えますので、相続財産は1,000万円減るように見えます。しかし、同時に借りた現金1,000万円が手元に残って相続財産が増えてしまいますので、結果的には、相続財産はプラスマイナスゼロとなります。
しかも、借金をすると利息がかかりますので、実質的には、利息分だけ損をしていることになります。
上記で見ましたように、借金をするだけでは、相続税の節税効果はありません。それでは、どのようにすれば、借入金を利用して有効な相続税対策ができるのでしょうか?
借入金を利用した有効な相続税対策とは、次のような方法です。
これらの方法について、これより見ていきます。
「借入金で評価額が低くなる財産を購入する」方法の代表的なものが、不動産の購入です。
この方法は、不動産の購入価格(時価)と相続税評価額との差額に着目した対策です。「マイホーム用不動産」と「賃貸経営用不動産」の2つのケースについて説明します。
土地の相続税評価額は実際の時価(実勢価格)の80%程度、建物の相続税評価額は固定資産税評価額で、建設費の50~70%程度(以下60%を使用して例示)と言われています。
以下、具体例で見ていきます。
借入金8,000万円で、3,000万円の土地に5,000万円の建物を建てた場合、相続税率を30%としたときの計算は、以下の通りです。
土地の相続税評価額 | 3,000万円×80%=2,400万円 | |
建物の相続税評価額 | 5,000万円×60%=3,000万円 | |
相続税評価額 合計 | 2,400万円+3,000万円=5,400万円 |
借入金8,000万円−5400万円=2,600万円
2,600万円×相続税率30%(※)=780万円
※相続税率は10~55%であり、仮に、相続税率:30%(以下、同様)を使用する
上記の例ですと、780万円の節税になります。
さらに、「小規模宅地等の特例」を活用すれば、さらに節税することができます。
同じ広さの土地でも、その土地がマイホーム用なのか、アパート賃貸経営用なのかによって、相続税評価額は大幅に違ってきます。アパートを建てて賃貸経営を行えば、その土地は「貸家建付地」となり、さらに相続税評価額を下げることができます。
貸家建付地の評価額
=マイホーム用土地の評価額×{1-(借地権割合)×(※借家権割合)×(賃貸割合)}※…借家権割合は、全国一律で30%です。
借地権割合と借家権割合は、不動産を賃貸することによる価値の減価です。
建物(アパート)の評価も、マイホーム用に比べて相続税評価額は大幅に違ってきます。アパートの場合は、さらに相続税評価額を下げることができます。
アパートの評価額=固定資産税評価額×{1-(借家権割合)×(賃貸割合)}
賃貸割合が100%の場合、アパートの相続税評価額は、固定資産税評価額の70%となります。
借入金8,000万円で3,000万円の土地に5,000万円のアパートを建てて、満室の場合、次のようになります。今回は、借地権割合は70%であると仮定します。
アパート土地の評価額は、
マイホーム用土地の評価額×{1-(借地権割合)×(借家権割合)×(賃貸割合)}
=(3,000万円×80%)×(1-70%×30%×100%)
=2,400万円×79%
=1,896万円
アパート建物の相続税評価額は、
アパートの評価額=固定資産税評価額×{1-(借家権割合)×(賃貸割合)}
=3,000万円×(1−30%)
=2,100万円
これらをまとめると、
アパート土地の評価額 | アパート建物の相続税評価額 | 相続税評価額合計 |
---|---|---|
1,896万円 | 2,100万円 | 4,004万円 |
借入金8,000万円ですので、相続税評価額は4,004万円削減されます。
仮に、相続税率が30%の場合、約1,200万円節税になります。
「②借入金で相続財産の非課税枠を活用する対策を行う」方法の代表的なものが、死亡保険を使用した相続税対策です。
死亡保険金は「みなし相続財産」と言い、相続財産に加算されて相続税が算出されます。
この死亡保険金には非課税枠が設けられています。この非課税枠を利用することにより、相続税を節税することができます。
非課税枠=500万円×法定相続人の数
死亡保険金から非課税枠が控除され、控除後の金額が相続税対象となります。
この非課税枠まで控除されますので、相続税節税の観点では、非課税枠と同等の生命保険金を受取るようにするのが効果的です。それ以上いくら生命保険金が大きくても、節税効果は変わりません。
死亡保険金を受取る時は、「相続税が課される場合」、「所得税/住民税が課される場合」、および「贈与税が課される場合」があります。
次の表をご覧ください。
被保険者 | 保険料負担者 | 保険金受取人 | 税金種類 | 相続税種類 | 相続税非課税枠 | |
---|---|---|---|---|---|---|
① | 被相続人A | 被相続人A | 相続人 | 相続税 | みなし相続財産 | あり |
② | 被相続人A | 被相続人A | 相続人以外 | 相続税 | みなし相続財産 | なし |
③ | 被相続人A | 被相続人以外B | 被相続人以外B | 所得税/住民税 | ― | ― |
④ | 被相続人A | 被相続人以外B | 被相続人以外C | 贈与税 | ― | ― |
この中で、みなし相続財産となり、相続税非課税枠が適用されるのが、
①保険料負担者が被相続人A、かつ、保険金受取人が相続人のケースです。
②保険料負担者が被相続人Aでも、保険金受取人が相続人以外のケースは、みなし相続財産となりますが、相続税非課税枠は適用できませんので、注意が必要です。
以上より、みなし相続財産として、生命保険金の非課税枠を利用するためには、
である必要があります。
死亡保険金から非課税枠が控除され、控除後の金額が相続税対象となります。
次のケースをもとに、節税効果を見てみます。
法定相続人の数が3人、借入金2,000万円で、死亡保険金2,000万円の保険に加入する場合、
非課税枠=500万円×法定相続人の数=500×3=1,500万円
相続税加算額=2,000万円-1,500万円=500万円
一方、借入金で保険に入り、死亡保険金の非課税枠を活用する場合は、借入金2,000万円で死亡保険金2,000万円もらえますが、相続税対象財産は保険金2,000万円ではなく、非課税枠1500万円控除後の500万円となります。
結果的には、相続税対象財産が1,500万円削減されたことになります。
相続税の税率は10%~55%ですので、仮に相続税率を30%と仮定すると、
1500万円×30%=450万円
となり、生命保険金の非課税枠を活用することにより、450万円の相続税節税になります。
相続税の節税対策としては、借入金でアパート賃貸経営を行う事は、とても大きな節税効果があります。一方で、賃貸物件には空きが生ずることもありますし、最悪の場合は、ローンの返済に行き詰まることも考えられます。
アパート賃貸経営を始める場合は、相続税節税対策という事に加えて、30年~40年も続くアパート賃貸経営ビジネスを始めるという観点での検討を行い、総合的に判断しないといけません。
土地の価値は、更地の場合が資産価値が一番高いです。
土地の上にアパートを建てることにより、借地権割合/借家権割合に応じて資産価値が下がります。その土地・建物の資産価値が下がったために、結果的にその不動産の相続税評価が下がり、相続税の節税になるわけです。
アパート経営は相続税節税対策としては非常に効果がありますが、皆さんの資産を減らさないという観点でも、中長期的な視点での十分な検討が必要です。
アパート賃貸経営のために、あるいは、死亡保険金の非課税枠活用のために借金をする場合、借金をすること自体にリスクがあることも考える必要があります。
借りたお金は、利子をつけて返さないといけません。その返済計画も、きちんと考えておく必要があります。
今回は借入金による相続税対策について見てきました。
お金を借りただけでは節税対策にはならず、
などの場合に、節税対策となります。
最後に、このような相続税節税の対策については、今回の「借入金を利用した相続税対策」以外にも数々の対策が考えられ、早く検討を始めれば早いほど、取れる節税対策の範囲が広がります。
まずは、相続税の経験豊富な税理士に相談することをお勧めします。