銀行口座の名義変更手続きと必要書類
銀行口座の名義変更をする機会は、結婚や離婚、相続など、意外に多くあります。中でも親から子や夫から妻などの相続による銀行口座の名義変更は、どのように遺産を分割したのかによって必要書類が異なるため、注意が必要です。
この記事では、銀行口座の名義変更に関する一般的な手続きや必要書類、注意事項を解説します。個人名義の場合は勿論、法人名が絡む変更もご紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
目次
1.本人の氏名を名義変更する場合
銀行口座で口座名義人の氏名を変更するには、基本的には、近くの本支店の窓口(なるべく取引店)で口座名義人本人が手続きをすることになります。
この手続きをすることで、通帳や預金証書(※)の名義変更をすることができます。
名義変更をしても、口座番号が変わることはなく、給与振り込みの口座であっても心配ありません。
※ 預金証書:預金をした際に、銀行が発行する証書のこと。
1-1.必要書類
名義変更に伴う必要書類は銀行によって異なりますが、必要となる書類は、主に以下のとおりです。
- 通帳・預金証書証書(口座を複数持っている場合はすべて)
- キャッシュカード(複数持っている場合はすべて)
- 届出印(口座ごとに印鑑が異なる場合はすべて)
- 新しく届け出る印鑑(現在の届出印を変更する場合)
→シャチハタ印では手続きができません。 - 新しい氏名が記載された以下の確認書類の原本(発行日から6ヵ月以内もしくは有効期限内のもの)
・運転免許証
・旅券(パスポート)
・個人番号カード
・各種健康保険証
・在留カード・特別永住者証明書(外国人登録証明書は、一定期間「在留カード」または「特別永住者証明書」とみなされます)
・住民票(住民票記載事項証明書)生年月日が記載されているもの
・戸籍謄(抄)本
・戸籍記載事項証明書
なお、次のケースでは、上記以外の書類が必要となることがあります。
- 当座預金、融資、保証取引、ローンなどの取引がある場合
- 通帳や届出印を紛失などで持参できない場合
(また、別途現在の住所が記載されている本人確認書類が必要になります) - 姓名の両方を変更する、あるいは名のみを変更する場合
1-2.注意事項
本人の氏名を名義変更する際の注意点は、以下のとおりです。
- 投資信託や債券などの証券取引、マル優・マル特、財形(年金・住宅)、などの取引がある場合は、個人番号(マイナンバー)を確認できる書類と、新氏名を確認できる本人確認書類が必要になります。
- 住所変更だけであれば、Web上で手続きが完結する銀行も多いですが、氏名変更は、Webでは難しく、手続きの負荷が大きくなります。
- 取引店以外の店舗で手続きをする場合は、その店舗から取引店に取り次ぐことになるため、日数がかかることがあります。
また、銀行口座の名義変更に、「いつまでにしなければならない」といった期限はありません。しかし、放置しておくと、いざという時に取り引きがスムーズにいかないこともあるため、早めにすましておくに越したことはありません。
手続きが済めば、名義変更済みの通帳や預金証書を返却してもらうことができます。
2.相続人への銀行口座の相続手続き
次に、口座の相続手続きについてです。
2-1.相続が発生すると口座は凍結される
銀行が相続発生を知った時点で口座は凍結され、基本的に一切の預金引き出しができなくなります。口座振替もできなくなるので、引き落とし口座の変更手続きも必要になります。
これは、銀行が口座の名義人であった被相続人の財産を守り、延いては銀行自身を守るための手段です。銀行にとって相続人が誰かを判断することは極めて困難であり、相続人への多重支払や、自称相続人などへの支払いを防ぎ、相続問題に巻き込まれるのを避けるために、一切の入出金を止めるのです。
2-2.銀行口座の相続手続き
「銀行口座の相続手続き」とは言ったものの、厳密には、銀行口座をそのまま相続することはできません。
被相続人の銀行口座の預貯金を相続人が承継するには、「被相続人の銀行口座から預金を払い出したのちに口座を解約し、相続人の口座に移し替える」ことになります。
これだけ聞くと、「名義変更の連絡せずに、勝手に口座を利用し続ければ良いのでは?」という考えも浮かびますが、名義変更手続きをせずに預貯金を勝手な使途に使ってしまうと、他の相続人に不正を疑われる原因になります。
銀行は、相続が発生した際の手続きには慣れています。相続が発生した際には、被相続人の口座がある銀行に連絡し、指示通りに対応すれば、手続きは滞りなく終了するでしょう。
2-1.必要書類
必要書類は、遺言書・遺産分割協議書があるかどうかで異なります。
遺言書・遺産分割協議書のどちらもない場合の必要書類
以下の書類の正本または謄本の原本が必要になります。
- 被相続人の除籍謄本、戸籍謄本(または全部事項証明書)
→出生から死亡までの連続したもの - 相続人全員の戸籍謄本(または全部事項証明書)
→ただし、被相続人の同一の戸籍にいる人や、被相続人の戸籍から結婚等で除籍されたが現在の姓が被相続人の戸籍から確認できる人については不要 - 相続人全員の印鑑登録証明書
- 相続の対象となる預金取引の通帳・預金証書等
遺言書がある場合の必要書類
以下の書類の正本または謄本の原本が必要になります。
- 自筆証書遺言または公正証書遺言
- 自筆証書遺言の場合は検認調書または検認証明書
- 被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本または全部事項証明書
- 相続の対象となる預金取引の通帳・預金証書等
- 遺言執行者の選任審判書謄本(遺言執行者が選任されている場合)
遺産分割協議書がある場合の必要書類
以下の書類の正本または謄本の原本が必要になります。
- 遺産分割協議書(法定相続人全員の署名・押印があり記載内容が完備したもの)
- 被相続人の戸籍謄本(または全部事項証明書)
→出生から死亡までの連続したもの - 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
- 相続人全員の印鑑登録証明書
- 相続の対象となる預金取引の通帳・預金証書等
【参考外部サイト】「預金相続の手続に必要な書類」一般社団法人全国銀行協会
2-2.相続関係手続き書類の提出
上記の書類が整ったら、その他銀行所定の書類と併せ提出します。
2-3.預金の払い戻しと移し替え(実質的な名義変更)
書類に不備がなければ、銀行は預金の払い戻しと、相続人の口座への移し替えを行います。これで実質的な名義変更が完了します。
2-4.注意事項
相続を伴う名義変更の場合は、以下の点に注意する必要があります。
- 被相続人が保有していた銀行預金の詳細を確認するためには、銀行に対して残高証明書の発行依頼を行う必要があります。残高証明書や経過利息証明書の発行には通常、発行手数料がかかります。
3.ゆうちょ銀行での相続手続きの場合
ただし、ゆうちょ銀行で行う相続での手続きの場合は、他の銀行とは異なります。
- ゆうちょ銀行に対し以下のサイトからダウンロードできる「相続確認表」を提出します(窓口でも入手可能です)。同サイトで、記載例もダウンロードできます。
- 提出後、「必要書類のご案内」が送付されてきます。
- 必要書類の提出後は、他の銀行と同様に、預金の払い戻しを受け取ります。
※ 相続手続きの流れ|ゆうちょ銀行
以上のとおり、ゆうちょ銀行での相続手続きは、他の銀行で行う預金の払い戻しと、預金の移し替えにたどり着くまでに多大な労力を要します。
特に、遺言書も遺産分割協議書もない場合には、膨大な負荷がかかります。この場合当然ながら、相続人への預金の移し替えにも相当の日数がかかることになります。
4.法人の商号・代表者の名義変更をする場合
法人口座では、商号変更や代表取締役の変更が生じる度に、銀行に届け出て手続きを行う必要があります。
変更に伴う必要書類は銀行によって異なりますが、一般的な例で見てみましょう。
4-1.必要書類
- 法人口座の通帳(証書)
- 法人キャッシュカード(商号変更の場合のみ)
- 法人口座の届出印
- 新しく届け出る印鑑(届出印変更を伴う場合)
- 印鑑証明書(法人のもので発行日から6ヵ月以内の原本)
- 登記事項証明書(発行日から6ヵ月以内の原本)
- 社判・ゴム判(使用している場合のみ)
- 来店者の本人確認資料(運転免許証、各種健康保険証など)
- 変更届
- 印鑑票
4-2.注意事項
- 融資やローンなど、預金以外の取引がある場合には、上記以外の他にも書類が必要になることがあります。
- Webで完結できる銀行もありますが、変更手続きの範囲に制限がある場合があります。
- 社名(商号)変更の際に、投資信託や債券など証券取引、定期預金、通知預金などの取引がある場合は、法人番号を確認できる書類と新住所・新社名(新商号)を確認できる書類が必要となります。
5.個人事業主が法人名義の口座を開設する場合
個人事業主として起業して、事業が拡大して、法人化(いわゆる法人成り)することもあるでしょう。
この場合は、銀行口座も変更する必要があります。個人事業主の口座はあくまでも個人口座として開設しているため、そのまま法人が使用することはできないからです。
したがって、個人事業主の口座を解約し、新しく法人口座を開設することになります。
5-1.必要書類
法人口座開設に伴う必要書類は銀行によって異なりますが、主なものは以下のとおりです。
- 履歴全部事項証明書
- 来店者の本人確認書類(運転免許証、各種健康保険証など)
- 印鑑
- 事業内容がわかる資料など(必要な場合のみ)
5-2.注意事項
法人の銀行口座開設には、その銀行の所定の審査があります。また、審査後に口座開設店舗との面談があり、事業内容や口座開設の理由、利用目的についてのヒアリングがあります。
これは、銀行口座が、マネー・ロンダリングや各種の犯罪に利用されることを未然に防ぐためです。したがって、審査の結果によっては、口座開設を断られることがあります。また、法人や代表者の住所から離れた店舗に口座開設を依頼すると、断られることもあります。
6.銀行口座の譲渡は禁じられている
銀行口座を譲渡、売買することは預金規定により禁じられています。他人による口座の利用も同様です。違反すると、刑事罰の対象となり得ます。
特に、ヤミ金融業者による違法な取り立てや、架空請求を送りつけて振り込みを請求するなど、買い取った預金口座を悪用して行われる犯罪が増加し、社会問題になっています。銀行では、これらの犯罪を未然に防止するため、口座開設時の確認や審査を特に厳しくしています。
まとめ
ここまで見てきたように、銀行口座の名義変更は、ケースによっては多大な手間を要します。相続が絡む場合はなおさらです。また、個人の場合と法人の場合では、手続きが大きく異なります。銀行口座は私たちの身近な存在ですが、名義変更に伴う各種のルールを予め理解しておけば、生活上、あるいは仕事上も多いに役に立つでしょう。