2018年、生命保険料が値下げされる理由

生命保険

 今年の4月から、多くの生命保険会社で保険料が値下げされます。一方、保険料が値上げされる商品もあります。今回の保険料改定の背景と、値下げ、値上げそれぞれの理由、各社の動きについて解説します。

1.保険料率の改定

1-1.生命保険の保険料が決まる仕組み

保険料値下げについて見る前に、生命保険の保険料が決まる仕組みについて押さえておきましょう。生命保険の保険料の構成要素は、少々複雑です。
まず、生命保険の契約者が生命保険会社に払い込む保険料(営業保険料といいます)は、大きく次の二つに分けられます。

  • 純保険料(将来の保険金支払いに充てられるもの。予定死亡率や予定利率に基づく)
  • 付加保険料(諸経費など各種の支出に充てられるもの。予定事業費率に基づく)

このうち、純保険料はさらに次の二つに分けられます。また、付加保険料は、次の三つに分けられます。

純保険料
  • 貯蓄保険料(満期保険金の財源となるもの)
  • 危険保険料(死亡保険金の財源となるもの)
付加保険料
  • 予定新契約費(新契約の締結にかかる経費)
  • 予定集金費(保険料の集金にかかる経費)
  • 予定維持費(契約の管理、維持に係る費用)

なお、生命保険の保険料は「収支相当の原則」に従って決められています。つまり、「加入者からもらう保険料と支払う保険金が同額になるように保険料を計算する」ことになっています。

1-2.配当が決まる仕組み

もう一点、生命保険の配当についてもふれておきましょう。生命保険の配当には通常配当と特別配当がありますが、重要なのは通常配当です。通常配当は、大きく次の三つに分けられます。

  • 費差配当(会社運営の経費が事前の見込みよりかからなかった場合の配当。上記の付加保険料と比較する)
  • 利差配当(実際の運用利率が、予め見込んだ運用利率を上回った場合の配当。上記の貯蓄保険料と比較する)
  • 死差配当(実際の死亡率が、予定死亡率を下回った場合の配当。上記の危険保険料と比較する)

1-3.今回の保険料改定の理由

今回の保険料改定は、前述の「1-1.生命保険の保険料が決まる仕組み」の危険保険料と関係があります。
近年、日本では長寿化が進んでいることは誰しもご存じでしょう。「長寿化=死亡率が下がっている」ということになります。ひとことでいえば、「日本の死亡率が下がっているので、今回生命保険会社各社は保険料を見直して、保険料を下げる」のです。では、その死亡率の低下についてもう少し詳しく見てみましょう。

1-4.標準生命表とは

「日本人の平均寿命が○○歳になった」とニュースで聞いたことのある人も多いでしょう。日本には、死亡率を見ることのできる「生命表」とよばれるものは、実は次のとおり3種類あります。

  1. 簡易生命表(厚生労働省)→毎年作成。
  2. 完全生命表(厚生労働省)→5年に一度作成。
  3. 標準生命表(日本アクチュアリー会)→約10年に一度作成。

生命保険会社が死亡率改定の拠りどころにしている生命表は、このうち3番目の「標準生命表」です。生命保険会社は基本的にこの標準生命表に基づき保険料を決定しています。標準生命表は日本アクチュアリー会が作成しています。なお、上記3つの生命表は作成基準がそれぞれ異なります。

1-4-1.アクチュアリーとは

日本アクチュアリー会とは、保険業法第122条の2第1項の規定に基づく指定法人で、同法第122条の2第2項第3号の規定に基づき、標準生命表の作成について、金融庁から業務を委託されています。そして、「アクチュアリー」とは保険計理の専門家のことで、難しいアクチュアリー試験に合格した同会の正会員を指します。アクチュアリーは高度な数学的知識が必要になるため、大学の理数系の学部を卒業した人の割合が非常に高くなっています。

1-4-2.標準生命表の改定

標準生命表は、前回は2007年に改定されましたが、今回2018年4月に約11年ぶりに改定されることがすでに決定しています。日本アクチュアリー会は、昨年2017年に標準生命表の改定案を作成し、金融庁に提出しており、金融庁による告示改正を経て2018年4月から新しい標準生命表(標準生命表2018)が適用されることになりました。

1-4-3.標準生命表の改定内容

では、前回2007年と今回2018年では、標準生命表はどのように変わっているのでしょうか。一例を見てみましょう。

 2007年2018年
40歳男性死亡率:0.00148
(平均余命:39.67)
死亡率:0.00118
(平均余命:41.87)
40歳女性死亡率:0.00098
(平均余命:45.87)
死亡率:0.00088
(平均余命:47.33)
50歳男性死亡率:0.00365
(平均余命:30.45)
死亡率:0.00285
(平均余命:32.52)
50歳女性0.00216
(平均余命:36.44)
死亡率:0.00197
(平均余命:37.86)

上記どの例で見ても、死亡率が大きく下がり、平均余命が延びていることがわかります。死亡率が下がると保険会社に利益が発生するため、保険料の値下げで還元することになります。

1-5.今回値下げする商品

見てきたように、死亡率が下がっているわけですから、今回各社が保険料を値下げするのは、主にいわゆる死亡保険です。定期保険、終身保険、養老保険などが中心となります。また、企業が従業員のために加入している団体保険の総合福祉団体定期保険も、多くの会社で保険料が引き下げられます。

1-6.今回値上げする商品

一方、先ほども見たとおり、「死亡率が下がっている=長寿化」でもあります。つまり、生きている間に保険金・給付金が支払われる生存保険と呼ばれるタイプの保険(医療保険、ガン保険、特定疾病保障保険、個人年金保険など)は、保険料が値上げされてもおかしくありません。実際、今回値上げに踏み切るところもあります。

しかしながら、これらの商品は現在、競争が激しくなっています。今回標準生命表が改定されても、政策的にこれらの商品の保険料を値上げせず、あえて保険料を据え置くところも数多くあります。

1-7.保険料値下げと増配

「1-1.生命保険の保険料が決まる仕組み」と「1-2.配当が決まる仕組み」で見たとおり、死亡率の低下は生命保険会社に利益をもたらします。この場合の契約者への還元方法は、保険料の値下げともうひとつ「増配(配当の増額)」があります。

一般的には、これから生命保険に加入する新契約者には保険料値下げ、すでに生命保険に加入している既契約者には増配で対応することになります。なおもちろん、無配当保険しか扱わない会社では、そもそも増配の概念はありません。

1-8.(参考)2017年の保険料率改定

一年前の今頃も、保険料率改定がニュースになったことを覚えている人も多いでしょう。昨年2017年4月には、生命保険会社が責任準備金を計算する基礎となる「標準利率」が改定(引き下げ)されたため、終身保険や個人年金保険、子ども保険(学資保険)などを中心に、多くの生命保険会社で保険料の値上げがありました。

詳細は割愛しますが、生命保険会社のなかには、去年の改定時に、先行して併せて死亡保険や医療保険の改定を行ったため、今回2018年4月は保険料を何も改定しないところもあります。

2.各社の動き

それでは、主な生命保険会社の今回の改定内容を見てみましょう。

2-1.日本生命

定期保険、終身保険、養老保険、継続サポート3第疾病保障保険、介護保障保険、就業不能保険(無解約払戻金)など10商品で保険料を改定。年金保険、学資保険、長寿生存保険などは対象外。医療保険は昨年値上げしており、今回は据え置き。
例えば、50歳男性が定期保険(10年)に2,000万円加入する場合、月払保険料は14,560円から11,840円と2,720円(▲18.7%)下がる。

2-2.朝日生命

第一分野商品(定期保険、終身保険等)で下がる傾向にある。ただし年齢によっては上がる場合も。第三分野商品(医療、ガン、介護保険等)につき、介護保険は据え置くものの、医療保険等の一部商品については契約内容によって保険料が上がる場合がある。
例えば、50歳男性が5年ごと利差配当付定期保険に100万円加入する場合、月払保険料は661円から582円と79円(▲12.0%)下がる。ただし50歳女性が同条件で加入する場合は、月払保険料は416円から427円と11円(+2.6%)上がる。

2-3.三井生命

個人保険、個人年金、団体保険(団体定期保険、総合福祉団体定期保険、団体信用生命保険等)、財形保険が改定対象。定期保険特約、終身保険特約の多くは保険料が下がるが、総合医療特約などでは保険料が上がる場合も。

2-4.富国生命

主な対象商品は、未来のとびら(特約組立型総合保険)に付加する各種特約(収入保障特約、定期保険特約、終身保険特約など6特約)、医療大臣プレミアエイト(終身タイプ)、無配当定期保険など。例えば、50歳男性が無配当定期保険(10年)に1,000万円加入する場合、月払保険料は6,790円から5,400円と1,390円(▲20.5%)下がる。

2-5.ソニー生命

家族収入保険(無配当)、平準定期保険(無配当)など7商品が改定対象。終身保険、養老保険、医療保険等は今回改定せず。例えば、30歳男性が家族収入保障保険(無配当)に年金月額20万円(保険期間:60歳満了、保険料払込期間:60歳まで、最低支払保証期間:2年)加入する場合、月払保険料は6,700円から5,820円と880円(▲13.2%)下がる。

2-6.オリックス生命

新キュア、新キュア・レディなど主力医療保険については改定なし。終身保険、定期保険、特定疾病保障保険、収入保障保険など6種類および各種特約について改定を行う。例えば、50歳男性が無解約払戻金型定期保険(無配当・10年)に1,000万円で加入(特定疾病保険料払込免除特約なし)する場合、月払保険料は5,980円から5,210円と770円(▲12.9%)下がる。

2-7.各社の動き総括

上記のように、各社により対応はまちまちです。死亡保険の分野は概ね値下げする場合が多いものの、医療保険など生存保険の分野は各社各様といえます。また死亡保険分野についても、今回は改定を行わず、今後、健康状態に応じて値下げ・還元する新商品を投入するところもあります。今後加入しようと思っている人はもちろん、現在加入している人も、生命保険会社各社のホームページなどで確認しておいたほうがよいでしょう。

3.まとめ

生命保険はどの商品も競争が激化しており、同じ商品でも商品内容や保険料、サービスに大きな違いが見られることも珍しくありません。今回の保険料改定も、商品により値下げ、値上げ、据え置きいずれに該当するかはしっかり確認しておく必要があります。
不明点があれば、生命保険会社や保険代理店、FP(ファイナンシャル・プランナー)など専門家に相談するとよいでしょう。

監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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