小規模宅地等の特例を利用するために知っておきたい申告書の書き方

皆さんご存知のように、小規模宅地等の特例を利用すれば、相続税額を大幅に減らすことができますが、その特例の適用を受けるには、少し複雑な書類を提出しなくてはいけません。
しかし、小規模宅地等の相続税評価額が算出されており、相続の遺産分割協議が良好にまとまっていれば、記入内容はそれほど難しい内容ではありません。
そこで、今回は、小規模宅地等の特例を利用するために知っておくべき書類の書き方を徹底的に解説していきます。
目次
1.小規模宅地等の特例利用のための申告書
小規模宅地等の特例を利用するためには、いくつかの申請書類を作成しないといけません。
小規模宅地等の特例を利用する大多数が「特定居住用宅地等」ですので、ここでは、 特定居住用宅地に焦点を当てて説明します。
特定居住用宅地に関する申告書は、次の2種類です。
- 第11・11の2表の付表1
小規模宅地等についての課税価格の計算明細書 - 第11・11の2表の付表1(別表)
小規模宅地等についての課税価格の計算明細書(別表)
実際のケースごとに必要な申告書は次の通りです。一般的には、下記チャートの上2つのどちらかの場合がほとんどです。
「土地を一人で取得」かつ「貸家建付地がない」場合 | 「第11・11の2表の付表1」のみ記入 |
---|---|
「土地を一人で取得」かつ「貸家建付地があるが、貸付割合が100%である」場合 | 「第11・11の2表の付表1」のみ記入 |
「土地を共有で取得」または「貸家建付地があり、かつ、貸付割合が100%でない」場合 | 「第11・11の2表の付表1」と「第11・11の2表の付表1(別表)」の両方記入 |
2.小規模宅地等についての課税価格の計算明細書「第11・11の2表の付表1」の書き方
小規模宅地等についての課税価格の計算明細書「第11・11の2表の付表1」は、小規模宅地等の特例を申請するうえで、必須の書類です。
まず、この申告書の書き方を以下の番号に従って説明します。
2-1.(1)被相続人
被相続人、つまり、今回お亡くなりになった方の名前を記入します。
2-2.(2)氏名
小規模宅地等の特例の対象になりえる宅地を取得する全ての相続人が記名する必要があります。
全ての相続人が記名して、特例適用に同意しないと、特例は受けられません。
以下の項目は、小規模宅地等の明細情報です。
2-3.(3)小規模宅地等の種類
小規模宅地等の特例が受けられる宅地とは、「その相続の開始の直前において被相続人等の事業の用に供されていた宅地等又は被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」です。
特例が受けられる宅地にはいくつかの種類があり、 小規模宅地等の種類により、次の1.~4.までの数字を記載します。
- 特定居住用宅地等:被相続人が居住していた宅地等
- 特定事業用宅地等:個人事業主などが営む小規模な事業に使っていた宅地等
- 特定同族会社事業用宅地等:一定の条件の株式会社などの事業に使っていた宅地等
- 貸付事業用宅地等:アパートや駐車場などの賃貸物件用の土地である宅地等
2-4.(4)小規模宅地等の情報
それぞれの小規模宅地等について、詳細情報を記入します。以下の事例で記入例を説明していきましょう。
事例1.
以下の不動産を1人で相続した場合
宅地面積:660㎡
宅地評価額:1億円
小規模宅地特例の申請:330㎡
①特例の適用を受ける取得者の氏名(事業内容)
特例の適用を受ける人の氏名を記入します。事業用の宅地の場合は、( )の中に事業内容も記入します。
②所在地番
特例の適用を受ける土地の地番を記入します。
③取得者の持分に応ずる宅地等の面積
小規模宅地等のうち、①の氏名の人が取得する持ち分の面積を記入します。
その土地を1人が引き継ぐ場合は、その土地の全体の面積を記入します。
記入例 660
④取得者の持分に応ずる宅地等の価額
小規模宅地等のうち、①の氏名の人が取得する持ち分の評価額を記入します。
その土地を1人が引き継ぐ場合は、 その土地の全体の評価額を記入します。
記入例 100,000,000
⑤上記③のうち小規模宅地等(「限度面積要件」を満たす宅地等)の面積
ここでは、上記③「取得者の持分に応ずる宅地の面積」のうち、小規模宅地等の特例を適用する土地の面積を記入します(「被相続人が居住していた宅地」では「330㎡まで」が「80%減額」されます。)。
記入例 330
⑥上記④のうち小規模宅地等(④×⑤÷③)の価額
特例を受ける土地には面積の限度があります。ここでは、特例が受けられる宅地の価額を計算して記入します。
記入例
④ × ⑤ ÷ ③ = 100,000,000円×330㎡/660㎡ = 50,000,000
⑦課税価格の計算にあたって減額される金額(⑥×80%※)
ここでは、特例で、宅地がいくら減額されるのかを計算して記入します。
記入例
⑥ × ⑨ = 50,000,000円 × 80/100 = 40,000,000
※ 特定居住用宅地等の場合。ただし、貸付事業用宅地等の場合は50%になります。
⑧課税価格に算入する価額(④ - ⑦)
特例を適用後の減額された評価額を計算して記入します。この金額が相続税評価額として、相続税の課税価格に加えられます。
記入例
(④- ⑦)=(100,000,000円- 40,000,000円)= 60,000,000
以上のことを特例を受ける人すべてが記入します。
2-5.(5)「限度面積要件」の判定
小規模宅地等の種類によって、「限度面積」が違います。複数の種類の小規模宅地等がある場合、特に貸付事業用宅地がある場合は、その限度面積の計算が少し複雑になります。
ここでは、申告書の指示に従い、特例を受けるそれぞれの種類ごとに土地面積を記入します。
ちなみに、「特定居住用宅地等330㎡」と「特定事業用宅地等+特定同族会社事業用宅地等400㎡」は併用が可能ですので、合計730㎡まで適用になります。
しかし、「貸付事業用宅地等」が対象の場合は、単純な併用はできず、申告書の指示に従い計算して限度面積を求めます。
3.小規模宅地等についての課税価格の計算明細書「11・11の2表の付表1(別表)」の書き方
次に、「11・11の2表の付表1(別表)」について説明します。
この計算明細書は、小規模宅地等の特例の対象となる宅地が、次のいずれかに該当する場合に、宅地ごとに作成します。
- 2人以上の相続人で取得(共有)する場合
- 貸家建付地が含まれており、かつ、貸付割合が100%でない場合
申告書のイメージは次の通りです。それぞれの記入項目について見ていきます。
次の事例を使って記入の仕方を確認していきましょう。
事例2.
AとBが以下の不動作をそれぞれ80%、20%で相続
Aが小規模宅地等の特例の適用を受ける
自宅の土地:500㎡
評価額:1億円
3-1.(1)被相続人
被相続人、つまり、お亡くなりになった方の名前を記入します。
3-2.(2)宅地等の所在地
特例の適用を受ける土地の所在地を記入します。
なお、特例を利用する土地が2つ以上ある場合は、土地ごとに11・11の2表の付表1(別表)を作成します。
3-3.(3)宅地等の面積
取得した宅地の面積を記入します。
特例の適用を受ける宅地全体の面積を記入します。持分で割る前の土地面積です。
記入例 500
3-4.(4)および(5)宅地等の利用区分ごとの面積と評価額
次の利用区分ごとの面積、および評価額を記入します。
A.被相続人の事業(個人商店)として使っていた土地
B.特定同族会社の事業(会社/法人)として使っていた土地
C.被相続人の貸付事業(賃貸マンションなど)として使っていた土地で「継続的な賃貸事業」部分
D.被相続人の貸付事業(賃貸マンションなど)として使っていた土地で「継続的な賃貸事業でない(空き室など)」部分
E.被相続人の住居に使っていた土地
F.上記に該当しない土地の面積
これ以降は、宅地の取得者ごとに、利用区分(A~F)の面積、および評価額を記入します。
記入例
E欄に、
⑥宅地等の面積 :500
⑫評価額 :100,000,000
特例の対象となる宅地を2人で相続する場合は、一枚の書類に2人分を記入します。相続人が3人以上いる場合は、もう1枚同じ書類を使って記入する必要があります。
3-5.(6)宅地等の取得者氏名と持分割合
特例の適用を受ける人(相続人)の氏名、および、その宅地の持分割合を記入します。
記入例
⑭ A の持分割合:80/100
⑭' Bの持分割合: 20/100
3-6.(7)利用区分(A~F)の面積、および評価額
宅地の取得者ごとに、利用区分(A~F)の面積、および評価額を記入します。
宅地の利用区分に対応する記入欄(A~F)に記入しますので、記入例では、「E」欄に記入します。
下記に、Aさんの記入例を記します。自宅の土地500㎡、評価額1億円、Aさん80%相続、特例適用330㎡の場合です。
「持分に応じた宅地等:面積」
⑥宅地等の面積に⑭持分割合をかける。
今回、Aさんは⑥500㎡の宅地等を⑭80%の割合で相続するので、
記入例
⑥ × ⑭ = 500㎡ × 80/100 =400
「持分に応じた宅地等:評価額」
⑫評価額に⑭持分割合をかける。
上記のように、Aさんは⑫評価額が100,000,000円の宅地等を⑭80%の割合で相続するので、
記入例
⑫ × ⑭ = 100,000,000円 × 80/100 = 80,000,000
「特例対象宅地等:面積」
特例に申請する宅地等の面積を記入する。
Aさんは、小規模宅地等の特例に330㎡の宅地等を適用させるので、
記入例 330
「特例対象宅地等:評価額」
上記の持分に応じた評価額に特例適用する対象宅地等の割合をかける。
先ほどの、Aさんの持分に応じた評価額80,000,000円に400㎡のうち330㎡宅地等をかけるので、
記入例
80,000,000円 × 330㎡/400㎡ =66,000,000
「特例の対象とならない宅地等:面積」
全体の面積から対象となる宅地等の面積を引く。
Aさんは400㎡のうち、300㎡を特例に適用させるので、
記入例
(400㎡ - 330㎡)= 70
「特例の対象とならない宅地等:評価額」
持分に応じた評価額から特例対象宅地等の評価額を引く。
Aさんの持分に応じた評価額80,000,000円から特例対象となる評価額66,000,000円を引くので、
記入例
80,000,000円 - 66,000,000円 = 14,000,000
以上が、Aさんの(7)利用区分(A~F)の面積、および評価額の書き方です。Bさんについても、同様に計算して記入します。
なお、上記は住居用宅地を例に説明しましたが、事業用宅地でも考え方は同じです。
4.最後に
小規模宅地等の特例の申告は、相続の経験豊富な税理士に相談することをお勧めします。
小規模宅地等の特例の申請以外でも、「不動産の相続税評価額をいかに下げるか」や「各種特例の活用」などは税理士の腕の見せ所です。また、税務調査が入るなど面倒なことになるリスクを下げる効果もあるようです。
ただ、税理士に依頼するにしても「丸投げ」ではだめです。皆さんも小規模宅地等の特例の申請について理解したうえで、税理士と協業できれば、スムーズに相続税手続きができるのではないでしょうか。