相続登記をするべき理由とその方法

登記

国土交通省によれば、不動産登記簿上、所有者の所在が確認できない土地は、20%程度にのぼるといいます。
「そう言えば相続したまま放っている土地がある」という人案外多いかもしれません。では、本当に放っておいても問題はないのでしょうか?

1.相続登記とは

そもそも相続登記とは一体どういうものなのでしょうか?相続登記とは、不動産を相続した者が、その名義を故人から相続人に移転する申請を法務局に対して行うことです。

「移転する」と書きましたが、相続登記とは、単なる名義変更の登記ではありません。不動産の所有権が被相続人から相続人に移転したことを登記簿によって公示するためにするのです。

相続人は、相続登記をしてはじめて他人に対して、その不動産が自分のものであると主張することができることになります。

ただし、この登記に義務はありません。今のところ、登記をしなくても違法でもなければペナルティもありません。また、いつまでにしなければならないといった期限もありません(今のところとしたのは、登記に関する法律の改正が検討されているからです)。

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2.登記をしないことによる不利益

では、登記をせず、そのままにしておいても何も不都合は生じないのでしょうか?そんなことはありません。登記がなければ、以下のような弊害が生じます。

2-1.不動産の活用が難しい

もし、その不動産を売ってほしい・貸してほしいという人物が現れても、故人名義のままであっては、売買することも、賃貸することもままなりません。そのままでは、不動産の活用が制限されることになります。

2-2.相続人間のトラブルの原因となる可能性

話し合いなどによって法定相続分と異なる持ち分を取得した場合、登記をして権利を確定しておかないと、自分の持ち分を他人に売ったり、持ち分に抵当権を設定したりする場合、それぞれの持ち分がハッキリせず他の相続人の持ち分に抵触するといったトラブルの原因となってしまう可能性も出てきます。

2-3.時間経過により、相続関係や利害関係が複雑になり、手続きが困難になる

登記をせずに何十年もそのままにしておくと、亡くなる親族も出てくるでしょう。亡くなった順番によって、相続関係や相続分が変わってくることがあります。その辺が曖昧になってくると登記することができなくなってしまいます。

3.相続登記を理解するために

それでは実際の相続登記にはどんなケースが考えられるのでしょうか。

相続登記は、以下3つのいずれかのパターンに該当します。

  1. 遺産分割協議をして相続登記をする
  2. 遺言の内容に従って相続登記をする
  3. 法定相続分により相続登記をする

3-1.遺産分割協議による相続登記

基本的に、遺言書がなく、相続人が複数ある場合には、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で遺産の分割を決定します。
このとき、遺産分割協議書を作成し、登記をする際に、提出することができるようにしておきましょう。

また、遺産分割協議が整うまで暫定的に、後述する法定相続分による登記をしておくことも可能です。
この場合、相続人全員分の登記をしなければなりません。もし、共同相続人のうちの数人の持ち分のみが登記されると、登記簿上、故人と相続人が不動産を共有していることになってしまうからです。ちなみに、この場合、他の相続人の委任状を受けなくても相続人の1人から相続人全員分の登記を申請することが可能です。

ただし、注意が必要なのは、登記識別情報(登記済証)は申請する相続人にしか通知されないということです。登記識別情報の通知を受けなくても、申請人でない相続人も登記名義人である権利者であることに変わりはありません。しかし、申請人以外の者にも登記識別情報の交付が必要だという場合には、その者の委任状を申請書に添付して登記識別情報の交付を受けます。

結局のところ、単独で申請する場合でも、他の相続人の委任状を取り付けて相続人全員で登記申請した体裁をとることが無難ということです。

また、事前に法定相続分による登記をしていない場合は、遺産分割協議による登記も、登記原因を「相続」として登記することが可能です。この場合も相続人の1人が単独で申請することができます。

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3-1-1.登記識別情報について

登記識別情報とは、登記済証に代えて発行されるアラビア数字その他の符号の組合せからなる12桁の符号です。

不動産及び登記名義人となった申請人ごとに定められ、登記名義人となった申請人のみに通知されます。通知のあった登記識別情報は、次にその不動産を売買したり、賃借権を設定したりする場合、登記所に提供しなければなりません。

重要な情報なので、目隠しシールを貼って交付されますが、剥がした場合は、第三者に見られないように通知書を封筒に入れて封をした状態で、厳重に保管する必要があります。盗まれたり、見られたりした場合は、効力を失わせる失効の申出をすることができますが、再発行や番号の変更はできません。

登記識別情報が提供できない場合は以下の手段が採られ、余計な手間暇がかかってしまいます。

  • 登記官による事前通知制度
  • 資格者代理人による本人確認制度
  • 公証人による認証制度

3-1-2.不動産の共有状態について

遺産分割協議をしても不動産を複数の相続人での共有状態にしておくと、例えば、売却する際に共有者全員の同意が必要など、不動産の処分をするときに、大きな制約が課せられてしまいます。また、そのことが原因で不動産を共有者で分割することになった場合、共有物分割という手続きをもう一度踏まなければなりません。それに、再度の相続が起きると権利関係が複雑になり、不動産を活用することが一層難しくなってしまいます。

できれば相続人の1人が不動産の所有者となる遺産分割協議をすることをお勧めします。

3-2.遺言内容に従った登記

遺言書に基づいて登記をする場合、その内容によって申請の方法を以下の3通りに分類することができます。登記申請書には、「登記原因」を記さなければなりませんが、登記原因は、この申請方式に密接に関係してきます。

3-2-1.登記原因

登記原因とは、「登記の原因となる事実又は法律行為」(不動産登記法第5条第2項)です。相続登記の場合、この登記原因は、「相続」「遺贈」「(死因)贈与」の3つのうちのいずれかになります。このうち、「相続」を原因とする場合のみ、他の相続人の委任を受けずに単独で申請することができます。

登記原因は、登記原因が発生した日付と一組で申請書に記載します。登記原因が「相続」「遺贈」「(死因)贈与」いずれの場合も、登記原因の日付は、被相続人が亡くなった日付けになります。

3-2-2.登記原因と申請の方式

原則的には、登記原因と申請の方式の関係は以下のようになります。

  • 登記原因が「相続」の場合、遺産を譲り受けた相続人が単独で申請ができる。
  • 登記原因が「遺贈」「贈与」の場合、受遺者(遺産の譲受人)と相続人全員で申請する。
  • 遺言執行者があり、登記原因が「遺贈」「贈与」の場合、受遺者と遺言執行者で申請する。

遺言が、特定の相続人に対して、遺産を「相続させる」という文言の場合、その相続人は、「相続」を原因として登記を単独で申請することができます。

しかし、遺言書の文言が「遺贈する」「贈与する」の場合には、たとえ「遺贈する」「贈与する」相手が特定の相続人であっても登記原因は「遺贈」「贈与であり、申請は、受遺者と遺言執行者、遺言執行者がいない場合は、相続人全員で行います。

ただし、「遺贈する」「贈与する」相手が相続人全員である場合は、「相続」を原因として、相続人の1人から申請することができます。例えば、遺言書に「遺言者Aは、その財産のうち3分の2を妻Bに、6分の1を子Cに、6分の1を子Dに遺贈する」とある場合の登記原因は「相続」です。

3-2-3.遺言と異なる遺産分割協議

遺言書がある場合であっても、相続人全員の同意があれば、遺産分割協議により遺言とは異なる遺産の分割をすることが可能です。

その場合には、以下の要件をクリアする必要があります。

  1. 被相続人が遺言と異なる遺産分割協議を禁じていないこと
  2. 相続人全員が、遺言の内容を知った上で、これと違う分割を行うことについて同意していること
  3. 相続人以外の人が受遺者である場合には、その受遺者の同意もあること
  4. 遺言執行者がいる場合には、遺言執行を妨げないか、もしくは、遺言執行者の同意があること

ただし、1人でも遺産分割協議によることに反対の意思を示した場合は、遺言書通りの登記をすることになるでしょう。

3-2-4.「相続させる」旨の遺言

特に、被相続人が特定の遺産について特定の相続人に相続させる」という遺言を遺した場合、被相続人が遺産分割方法の指定をしたものと解されています。そして指定された遺産は、被相続人の死亡時に直ちに相続により承継されると考えられています。

従って、遺言執行者が指定されていても、被相続人からその相続人に対する相続登記は、その相続人が単独で登記することができます。

この場合に、他の相続人が、自己名義に相続による所有権移転登記を行っているときは、遺言執行者がいる場合は遺言執行者が、遺言執行者がいない場合はその相続人が、抹消登記を請求した上で、当該相続人への所有権移転登記を改めて申請することになります。

「相続させる」旨の遺言がある場合は、遺言と異なる遺産分割協議をすることができないと解されていますが、いったん遺言書通りの相続登記をすれば、相続人全員の同意により権利を取得することになった相続人に対して、贈与や交換を原因として登記手続きをすることが可能です。

3-3.法定相続分による登記

被相続人の遺言がなく、遺産分割協議も行っていない場合、法定相続分による登記をすることができます。相続人が1人だけの場合には、遺産分割協議も必要なく、その相続に相続登記をすることになります。

ちなみに、遺産分割協議の前に法定相続分による登記をした後、遺産分割協議により確定した名義人を登記する場合の登記原因は、「遺産分割」となります。その場合には、遺産分割協議の参加者全員で申請する必要があります。

また、前述した通り、不動産を共有のままにしておくと、後々不動産の処分が制限されるので、できるだけ遺産分割協議を通して不動産の所有権の帰属を特定の相続人1人にしておくべきでしょう。

4.まとめ

相続登記の必要性とその概略を解説されていただきましたが、相続関係の判断や登記申請については、専門的な知識が必要になります。後々、親族間で争いを起こさないためにも、専門家である司法書士に依頼することをお勧めします。

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監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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