相続税申告書に添付する戸籍関係書類が簡単に
2018年度(平成30年度)税制改正で相続税申告書に添付する戸籍関係書類の範囲が広がり、書類を準備する相続人の負担が軽減されました。
何が緩和されたのか、認められるようになった書類は何か、改正前後を比較しながら詳しく解説していきます。
目次
1.改正内容
1-1.コピーでもOKに
改正前は、相続税申告書に添付する戸籍謄本は原本でなければいけませんでした。
実務上はコピーを提出しても税務署によっては黙認してくれるところもありましたが、原則はNGであるため、提出し直すように税務署から連絡があるのが通常でした。
これが改正後はコピーでも大丈夫になりました。もちろん今まで通り原本を提出しても構いません。
1-2.「法定相続情報一覧図の写し」も添付OKに
今回の改正は、戸籍謄本のコピーが提出できるようになっただけではなく、戸籍謄本の代わりに「法定相続情報一覧図の写し」を添付書類とすることができます。こちらもコピーでの提出が可能です。
書類について詳しくは、「3.法定相続情報一覧図」で解説します。
1-3.改正前後の比較
改正前 | 改正後 | |
---|---|---|
選択肢 | なし | 以下①~③のいずれか |
添付書類 | 戸籍謄本の原本 | ①戸籍謄本の原本 |
②法定相続情報一覧図の写し | ||
③①または②のコピー |
税務署に提出できる書類が増え、申告しやすくなりました。
またこの改正により添付書類のコピーが認められたことで、税務署によって対応が異なるということもなくなり、不公平感もなくなります。
1-4.適用開始時期
2018年(平成30年)4月1日以降に提出される添付書類については、コピーでも認められるようになっています。 これは相続開始日がいつであるかは関係なく、単純に提出する日で考えます。
例えば相続開始日が2018年1月1日で、相続税申告書と添付書類を2018年10月31日に提出した場合にはコピーでの添付が可能です。
2.改正理由
2-1.そもそも戸籍謄本はなぜ必要?
相続税の申告書には、被相続人と相続人の関係を確認するために戸籍謄本の添付が必須となっています。
- 被相続人の出生から死亡まで連続した戸籍謄本
- 全相続人の現在の戸籍謄本
これらの戸籍から読み取れる個人情報は、相続税申告に必要不可欠な情報であり、税務署は相続税申告書と戸籍謄本を照らし合わせて、相続計算が正しく行われているかをチェックします。
2-2.手間と費用の負担軽減のため
戸籍謄本は相続税の申告以外にも、相続登記などの相続手続きに必要となります。
ただ、戸籍謄本の原本を相続税申告書の添付書類として税務署に提出すると、他で使うからとお願いしても返してもらうことはできません。
相続手続きは申告だけでは終わらないのが通常であり、遺族は戸籍謄本一式を複数揃えなければなりませんでした。
また、被相続人の出生から死亡まで連続した戸籍謄本は数通に分かれるのが一般的であるため、交付手数料もかさみます。
このような手間と費用の負担を軽減するため、今回の改正は行われました。
3.「法定相続情報一覧図」って何?
3-1.概要
2017年5月29日から、相続登記の促進を目的として開始された法定相続情報制度で発行される証明書で、簡単には、これ1枚に相続関係が明記されている公的な証明書です。
ただし、法定相続情報一覧図は戸籍謄本のように誰にでもあるものではなく、相続人が戸籍謄本をもとに作成し、法務局登記官による証明を受ける必要があります。
証明後は、戸籍の代わりに使える公的な書類として、今回の相続税申告の添付書類をはじめとして、銀行などでも使えるところが増えてきています。
3-2.サンプル
まず、下記のような「法定相続情報」を、A4の白紙に、相続人または代理人が作成します。
図の形式でなくても、被相続人と相続人がはっきりとわかるように明記されていれば、列挙するだけでも大丈夫です。明瞭であれば、手書きでも構いません。
他の必要書類と一緒に、作成した「法定相続情報」図を法務局に提出すると、下記のような書類が発行されます。
これが、「法定相続情報一覧図の写し」です。
【出典サイト】~法定相続情報証明制度について~|法務省民事局
「法定相続情報一覧図の写し」というのは、法務局が発行する時点で「写し」です。原本が交付されて自分でコピーを取ったものを指すわけではありませんので注意しましょう。
原本は法務局で保管され、取得することはできません。
3-3.手数料0円
法定相続情報一覧図の写しの最大のメリットは、申請時も発行時も交付手数料が一切かからないということです。
一度証明を受けられれば、その後何度でも発行可能で、手数料もずっと無料です。
4.書類の取得方法と費用
最後に、具体的な取得方法を確認しましょう。
4-1.戸籍謄本
4-1-1.必要書類
被相続人の生まれたから亡くなるまでの戸籍謄本および除籍謄本と、すべての相続人の戸籍謄本が必要です。
戸籍謄本は役所交付窓口に、次の書類を提出し取得します。
被相続人の場合は、被相続人の本籍地の市区町村役場に、相続人の場合は、相続人の本籍地の市区町村役場に申請書を提出します。
書類名 | 備考 |
---|---|
戸籍謄本交付請求書 | 役所に置いてあり、書き方が分からない場合には、その場で役所職員に聞きましょう。 フォーマットは自治体ごとに若干異なります。 |
印鑑 | 交付請求書の申請者名が自書の場合には、不要です。ただ、荷物になるようなものではありませんので、認印を一応持って行くと安心です。 |
本人確認書類 | 運転免許証やパスポートなどが該当します。顔写真がない健康保険証や年金手帳などは2点必要です。 |
委任状 | 代理人の場合にのみ必要です。 |
役所以外にも、コンビニ、パスポートセンター、郵便局で取得することもできます。
コンビニの場合にはマルチコピー機を使って取得するのですが、マイナンバーカードまたは住民基本台帳カードがあれば良いので非常に簡単です。
パスポートセンターや郵便局は、戸籍謄本交付の業務委託を受けていないところもありますので、事前に確認しましょう。
4-1-2.交付手数料
書類名 | 手数料 |
---|---|
出生してから死亡するまでの連続した戸籍謄本 | 450円 |
除籍謄本、改正原戸籍 | 750円 |
全員分の戸籍謄本 | 450円 |
手数料は自治体で決めることができるようになっており、多少異なる可能性がありますので注意しましょう。
コンビニのマルチコピー機で取得する場合には、自治体によりますが450円以下という地域が結構あります。必要書類もなく、手数料も安いのでおすすめの取得方法です。
また、取得しに行く時間がなかったり、本籍地が遠方であること等などりにより、郵送で取得する場合には別途往復の郵送料が必要です。
4-1-3.戸籍抄本と間違えないように注意
戸籍謄本に似た名称で、戸籍抄本(こせきしょうほん)があります。
戸籍謄本には、戸籍原本の内容がすべて記載されており、本人以外の戸籍情報も入っています。 これに対して戸籍抄本は、本人の戸籍情報のみが記載されています。
4-2.法定相続情報一覧図の写し
4-2-1.初回の交付時の必要書類
法定相続情報一覧図の写しは、法務局に次の書類を提出し取得します。
書類名 | 詳細および取得先 | |
---|---|---|
必須書類 | ||
① | 被相続人の 戸籍・除籍謄本 | 亡くなられた方の出生から死亡までの 連続した戸籍謄本および除籍謄本。 被相続人の本籍地の市区町村役場で取得します。 |
② | 被相続人の 住民票の除票 | 亡くなられた方の住民票の除票。 被相続人が最後に住んでいた市区町村役場で取得します。 |
③ | 相続人の 戸籍謄本または抄本 | 相続人全員の戸籍謄本または抄本。 各相続人の本籍地の市区町村役場で取得します。 |
④ | 氏名・住所を 確認する書類 | 以下の書類のいずれか一つ ・運転免許証のコピー ・マイナンバーカードの表面のコピー ・住民票記載事項証明書(住民票の写し) ※上記以外の書類を要求される場合もあります。 |
場合によって必要となる書類 | ||
⑤ | 各相続人の 住民票の写し | 法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載する場合に必要です。 住所を記載するかどうかは任意です。 |
⑥ | 委任状 代理人と申出人の 関係を証明する書類 | 相続人本人ではなく親族や弁護士など代理人が 手続きをする場合に必要です。 ※詳細は法務局にお問い合わせください。 |
⑦ | 被相続人の 戸籍の附票 | 被相続⼈の住⺠票の除票が市区町村において廃棄されている などで取得することができない場合は, 被相続⼈の⼾籍の附票を用意します。 |
4-2-2.再交付時の必要書類
法定相続情報一覧図の写し交付を受けた後、追加で必要になった場合には再交付を受けることができます。
再交付は申出日の翌年から5年間で、申出をした法務局に再交付の手続きが必要ですが、初回のように多くの書類は必要ありません。
書類名 | 詳細および取得先 | |
---|---|---|
必須書類 | ||
① | 再交付申出人の 氏名・住所を 確認する書類 | 再交付を申し出る人の氏名・住所を確認するための 以下の書類のいずれか一つ ・運転免許証のコピー ・マイナンバーカードの表面のコピー ・住民票記載事項証明書(住民票の写し) ※上記以外の書類を要求される場合もあります。 |
場合によって必要となる書類 | ||
② | 委任状 代理人と申出人の 関係を証明する書類 | 相続人本人ではなく親族や弁護士など代理人が 手続きをする場合に必要です。 ※詳細は法務局にお問い合わせください。 |
【出典サイト】法定相続情報証明制度の具体的な手続について:法務局
4-2-3.交付手数料
法定相続情報一覧図の申請や、写しの取得に手数料はかかりません。
ただし、提出する戸籍謄本の取得や、郵送で交付を受ける場合にはそれらの費用が必要です。
まとめ
戸籍謄本は相続税申告書の添付書類の中でも重要な書類で、不足は許されません。
従来では「1通足りなかった!」となった場合には、また役所に申請して取得しなければなりませんでしたが、コピーで済むとなれば非常に楽になります。
また、法定相続情報一覧図の写しの添付も認められ、選択肢も広がりました。 相続人の側に立った有利な改正です。