相続税申告をしなかったら税務調査は必ず来るのか?

 税金を支払いたくないのは誰でも同じです。特に相続税は他の税金に比べて納税額が大きい場合が多く、「このまま申告しなければ…」という思いが頭をよぎる人もいるでしょう。

相続税を申告しないことは、バレルのでしょうか?無申告の場合に税務調査が入ると、申告しなかったことは見つかってしまうのでしょうか?
税務調査という観点から、相続税申告をしなかったらどうなるのかについて解説します。

1.相続税の税務調査

税務調査というものがあることは多くの人が知っていますが、実際に体験する人は少ないでしょう。特にサラリーマンは、税務調査とは無縁のまま現役を終える人がほとんどです。

しかし相続税の申告となると、税務調査は一気に身近なものになります。

1-1.相続税申告について税務調査が入る確率

平成30年発生分の相続税課税対象者は116,341人で、そのうち税務調査が入ったのは12,463件です。約10人に1人の確率で税務調査が入ることになります。

【参考外部サイト】「平成30年分相続税の申告事績の概要」、「平成30事務年度における相続税の調査等の状況」|国税庁 

1-2.相続税の税務調査に狙われやすい人

税務調査の対象は、相続税の課税対象者の中からランダムに選ばれるわけではありません。

調査官も貴重な時間を使って成果なしというわけにはいきませんから、相続税計算に誤りがありそう、申告漏れがありそうなど、ある程度の目星をつけたうえで税務調査にやって来ます。

中でも、次の人は税務調査が入りやすいようです。

  • 無申告者
    税金の大原則である課税の公平を守るため、無申告者を逃してはいけません。
  • 富裕層
    財産がたくさんあるため申告漏れや財産隠しが発生しやすく、その分、追徴課税の金額も大きくなり、調査官自身の実績も増やしやすいため、遺産総額が億単位となる人は要注意です。
  • 海外に財産がある人
    外国に財産を移すことで課税逃れをする人もいるため、海外資産の状況把握には力を入れ ています。
  • 税理士が関与していない申告
    相続税申告書の内容に間違いがある可能性が高いためです。

2.無申告での逃げ切りは許さない税務署の調査力

税務署は、相続税に関するありとあらゆる情報を手に入れることができます。

税務署は、相続税の申告をしなくても、納税が必要かどうか把握できる調査能力を有しています。

2-1.KSK(国税総合管理)システムの存在

KSKシステムとは、正式名称を「国税総合管理システム」といい、全国の国税庁と税務署をネットワークで結び、申告納税の実績や各種情報など地域や税目を越えた情報を一元的に管理するコンピューターシステムです。

税務調査にも広く利用されており、具体的には次のような使い方で相続税申告を徹底的にチェックします。

  • 過去の所得税や固定資産税の情報から、相続税が発生しそうな人を予測
  • 膨大な財産情報と照らし合わせることで申告漏れの有無を確認

2-2.税務調査の対象者は生前から狙われている

KSKシステムに照合することにより、過去の所得税情報や固定資産税情報から、死亡するまでの収入、所有する不動産情報に至るまでが簡単に分かります。

総合的に判断して、明らかに相続税が発生すると想定される場合には、生前から目を付けられているでしょう。

死亡後、何の前触れもなしに税務署から相続税申告書一式が送られてくる故人は、このような方が多いといえます。

2-3.死亡情報はすぐに把握できる

死亡届が提出される市区町村役場には、死亡届を受理した日の翌月末までに税務署に対してその死亡情報を提供する義務があります。

これにより税務署は、被相続人の死亡の事実を自動的に知ることができるのです。

2-4.税務署の強力な調査権限

税務署には本人の了解を得ずに様々な情報を得られる権利があります。代表的な相続財産の具体的な調べ方をみていきましょう。

預金や有価証券の照会

銀行や証券会社に照会をかけることで簡単に調べられます。

相続開始時点の残高だけではなく、過去にさかのぼって預金や株式の動きも把握されるので、申告すべき生前贈与が無申告であった場合など、すぐに指摘されてしまいます。

不動産情報の収集

市区町村役場からの死亡情報にあわせて、不動産情報も税務署に送られます

また遺産分割が完了した事実は、相続登記の際の登録免許税などの情報を法務局から得ることで知ることができます。

生命保険金の支払金額を把握

税務署には生命保険会社から支払調書(※)が提出されるので、保険金の支払額は明らかです。 また税制改正により平成30年1月1日以降は、支払調書に契約者変更情報も記載されるようになりました。

※支払調書:特定の支払いをした事業者が税務署に提出する書類のことで、受け取った人が漏れなく申告しているかどうかを、税務署が照らし合わせて確認するために利用されます。 生命保険金の場合には、死亡保険金や解約返戻金などが該当します。

反面調査

また税務署には反面調査を行う権利があります。
反面調査とは、税務調査の調査先だけでは情報が不確実であり真実が明らかにならないと調査官に判断された場合に、故人と関係のある取引先や銀行に向けて行われる調査のことをいいます。

実際に反面調査が行わると、調査先に迷惑をかけてしまうだけでなく、故人が事業を行っていた場合には関係先の信頼を失い、その後の後継者の取引にも影響が出る恐れがあります。
反面調査をされなくて済むように、申告書には真実を記載するとともに、税務調査には誠実に対応しましょう

その他の資料

税務署はその他にも調査をして様々な資料を入手します。

その他の資料は、所得税確定申告書、法人税申告書(調査対象者が法人役員の場合など)、各種支払調書などをはじめとする税務署に提出される資料は当然として、高額所得者名簿、ゴルフ会員権の名義変更情報、高級マンションなどの高額資産の所有者名簿など多岐に渡ります。

3.相続税の無申告がバレたときのペナルティ

では、相続税の無申告加がバレたら、どうなるのでしょうか?

税務調査によって相続税が無申告であることが明らかになったら、その申告と納税をできるだけ早く行わなければなりません。

もちろんこれで終わりではありません。申告の義務を怠ったのに、何のおとがめもなく済むわけはなく、本税にペナルティの税金が加算されます。

延滞税や加算税は、税務署が計算をして納付書等を送付してきます。自分で計算して本税と共に納付する必要はありません。
無申告であったら、まずは本税のみ納付すれば大丈夫です。

3-1.無申告によるペナルティ➀:延滞税

延滞税は、文字通り、納付が遅れたことに対する利息の意味をもつ税金です。

法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じた延滞税を納付しなければなりません。 また延滞税は本税に対してかかるものであり、加算税などにはかかりません。

延滞税の割合は次の通りです。

計算期間原則特例
法定納期限の翌日から2ヶ月を経過するまで年7.3%次のいずれか低い割合
・年7.3%
・特定基準割合(※)+1%
2ヶ月を経過した日以後年14.6%次のいずれか低い割合
・年14.6%
・特定基準割合(※)+7.3%

【出典サイト】No.9205 延滞税について|国税庁 

特定基準割合

期間割合
平成26年1月1日から平成26年12月31日1.9%
平成27年1月1日から平成27年12月31日1.8%
平成28年1月1日から平成28年12月31日1.8%
平成29年1月1日から平成29年12月31日1.7%
平成30年1月1日から平成30年12月31日1.6%
平成31年1月1日から令和元年12月31日1.6%
令和2年1月1日から令和2年12月31日1.6%

※特例基準割合とは、各年の前々年の10月から前年の9月までの各月における銀行の新規の短期貸出約定平均金利の合計を12で除して得た割合として各年の前年の12月15日までに財務大臣が告示する割合に、年1%の割合を加算した割合をいいます。

参考として、令和2年1月1日から平成2年12月31日までの期間の特定基準割合は、年1.6%です。

特例の計算式に当てはめると、

  • 法定納期限の翌日から2月を経過するまで:年2.6%
  • 2月を経過した日以後:年8.9%

となり、現行では原則を遥かに下回る割合で済みますが、利息と考えると非常に高い割合であることは変わりません。

3-2.無申告によるペナルティ②:無申告加算税

法定申告期限内に申告しなかったことに対する罰金の意味をもつ税金で、納付すべき税額に対してかかります。
税率は次の通りです。

相続税のうち申告期限から事前通知前までの期間事前通知後から更正の予知前までの期間(※)更正の予知後の期間
50万円以下の部分5%10%15%
50万円超の部分15%20%

※ 平成29年1月1日以後に法定申告期限が到来するもの(平成28年分以後)

3-3.無申告によるペナルティ③:重加算税

事実を仮装隠蔽し申告を行わなかった場合などには、重い罰金として重加算税が加算されます。

税率は納付すべき税額に対して40%です。
ただし、これは無申告加算税の代わりに課されるものです。無申告加算税と重加算税が両方かかることはありません。

なお、延滞税や加算税などのペナルティについては、是非、以下の関連記事をお読みください。

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3-4.【参考】過少申告加算税

きちんと期限内に申告はしたけれども、その内容に誤りがあった場合には修正申告を行い、追加分の相続税を納めます。

この場合には、上記延滞税と過少申告加算税または重加算税がかかります。

過少申告加算税とは、文字通り、少なく申告納税したことに対しての罰金で、追加分の税金に対してかかります。
税率は次の通りです。

50万円までの部分10%
50万円を超える部分15%

ただし、税務署から指摘を受ける前に間違いに気が付いて、自主的に修正申告を行った場合には過少申告加算税はかかりません。

また、相続財産を隠すなどして意図的に相続税を少なく申告した場合などには、無申告加算税と同様に、過少申告加算税に代えて重加算税がかかります。この場合の税率は35%です。

4.申告をしないで相続税から逃げ切ることは不可能

4-1.相続税の申告には時効がある

相続税は申告期限から5年または7年を経過すると時効となり、その申告についてのおとがめはなくなります。

5年で済むのは、自分には相続税の申告納税が必要ないと信じ切っていた人です。7年はそれ以外の人で、少しでも申告納税をしなければいけないと分かっていた人が該当します。

4-2.相続税は申告しなくても税務調査から逃れられない

そうなると、「もしかしたら、申告しなければ、逃げ切れるのでは?」と思うかもしれませんが、税務署の情報網は半端ではありません。無申告は必ず見つかります。あまりに悪質な場合には刑事罰が科されることもあるのです。

元々支払うべきだった相続税に、無申告を隠し続ける不安、税務調査に対応する手間と精神的負担、更にペナルティの税金までプラスされて何も良いことはありません。

まとめ

税務署の圧倒的な情報収集力と、ペナルティの重さをご理解いただけたでしょうか。
税務署には膨大な量の申告がありますが、申告書は、1つ1つしっかり見られており、申告していないことは、すぐに明らかになってしまいます。 相続税申告は申告期限内に必ず行いましょう。

そして申告ミスを防ぐために、可能な限り税理士に依頼することをおすすめします。

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相続税申告は税理士によって力量の差がはっきりと現れます。
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相続発生前後を問わず、相続に関連する問題に対して、税理士はあなたの味方になりますので、まずは気軽に相談されることをオススメいたします。

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監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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