新設された個人版事業承継税制について徹底解説!

個人事業主の高齢化や後継者不足が叫ばれている昨今ですが、それを税制面からも支援するため、2019年度税制改正で「個人版事業承継税制」が創設されました。

前回の2018年度税改正で法人版事業承継税制に大幅な拡充と緩和が行われ、それに続く形での措置です。 どのような税制なのでしょうか。解説します。

1.個人版事業承継税制とは?

1-1.どんな税制?

個人版事業承継税制とは、個人事業主が特定事業用資産を後継者に譲り渡した場合には、その特定事業用資産にかかる贈与税または相続税については納税が猶予される制度で、2019年1月1日から2028年12月31日までに行われた相続または贈与が対象となります。

1-2.適用を受けるために必要な手続き

後継者は「個人事業承継計画」を作成し、2019年4月1日から2024年3月31日までに都道府県知事に提出し、経営承継円滑化法の認定を受けなければなりません。
制度の対象期間は2028年12月31日までですが、個人事業承継計画の提出期限は2024年3月31日ですので注意しましょう。

そして事業承継後、贈与税または相続税の申告期限までに、贈与税申告書または相続税申告書と一定書類を税務署に提出し、担保を提供します。
納税猶予が適用された後は、贈与税または相続税の申告期限から3年毎に、「継続届出書」を税務署に提出します。

1-3.特定事業用資産って何?

この制度の対象となる特定事業用資産とは、先代事業主が事業のために使用していた資産で、贈与または相続が行われた年の前年分の確定申告書(青色申告)の貸借対照表に記載されていた資産をいいます。
具体的には次のような資産です。

  • 宅地等(400㎡まで)
  • 建物(床面積800㎡まで)
  • 建物以外で固定資産税の課税対象となっているもの
  • 車両運搬具
  • 器具備品
  • 機械装置
  • 生物(乳牛や果樹など)
  • 無形固定資産(特許権など)

2.贈与税の納税猶予

個人版事業承継税制は贈与税と相続税で要件等は少々異なります。 別々に詳しく見ていきましょう。

2-1.贈与を受ける人の要件

  • 贈与日に20歳以上であること(2022年4月1日以後の贈与では18歳以上)
  • 1-2.の手続きを経て経営承継円滑化法の認定を受けていること
  • 贈与日の3年以上前から対象となる特定事業用資産に係る事業に引き続き従事していたこと
  • 贈与税申告期限までに開業届出書を提出し、青色申告の承認を受けていること
  • 特定事業用資産に係る事業が、資産管理業(不動産などの資産運用業など)及び性風俗関連特殊営業に該当しないこと

2-2.贈与をする人の要件

【先代事業主の場合】

  • 贈与税申告期限までに廃業届出書を提出している、または提出する見込みであること
  • 贈与の年、その前年、前々年の確定申告書を青色申告で行っていること

【先代事業主以外の場合】

  • 先代事業主の贈与または相続開始の直前において、先代事業主と生計一である親族であること 
  • 先代事業主からの贈与または相続の後1年以内に、特定事業用資産を贈与していること

2-3.納税猶予される贈与税額

納税猶予される贈与税額は、特定事業用資産に係る部分の金額です。
1年間に特定事業用資産の贈与のみが行われた場合には、それにかかる贈与税額の全額が納税猶予されます。 特定事業用資産のみではなく、他にも贈与があった場合には、次の方法で納税猶予税額と納付税額を計算します。

  1. 1年間に受けたすべての贈与財産の合計(特定事業用資産を含む)にかかる贈与税額
  2. 1年間に受けた贈与が特定事業用資産のみであったと仮定した場合の贈与税額=納税猶予税額
  3. 1. -2. =納付税額

2-4.納税猶予が終了される場合

納税猶予は、その対象となった特定事業用資産を保有して事業を行っている限り続きますが、次のような事由が発生した場合には納税猶予は終了し、納税猶予税額の全部または一部を納付しなければなりません。

【全部を納付】

  • 事業を廃止した場合(※)
  • 事業内容を資産管理業及び性風俗関連特殊営業に転向した場合
  • 承継した事業の売上がなくなった場合 
  • 青色申告の承認が取り消された場合 
  • 3年毎の継続届出書の提出がない場合

    ※やむを得ない事情がある場合、破産手続きの開始の決定があった場合を除きます。

 

【一部を納付】

事業用に使わなくなった特定事業用資産がある場合には、その部分に対応する贈与税と利子税を納めなければなりません。
ただし、陳腐化したため破棄した場合や、新しいものに買い替えた場合などには納税猶予は継続されます。

2-5.納税猶予税額が免除される場合

次のような事由が発生した場合には、納税猶予を受けている贈与税額の全部または一部が免除されます。

【全部を免除】

  • 贈与者が死亡した場合
  • 受贈者が死亡した場合
  • 贈与税申告期限から5年経過後に、受贈者の後継者へその特定事業用資産を贈与し、その後継者が個人版事業承継税制の適用を受ける場合
  • 事業が継続できなくなったことについて、やむを得ない事情がある場合
  • 破産手続開始決定があった場合

【一部を免除】

  • 同族関係者以外の人へ特定事業用資産を一括譲渡する場合
  • 民事再生計画認可決定があった場合
  • 事業継続が困難となったことについて一定の事情がある場合において、特定事業用資産の一括譲渡または事業の廃止をする場合

2-6.贈与者が死亡した後の納税猶予の流れ

納税猶予を受けた贈与税額は、贈与者の死亡により全額免除となりますので、贈与税についてはここで完結します。
しかし、納税猶予の対象となった特定事業用資産は、相続により取得したものとみなして相続財産に含める必要があり、金額は贈与時の価格となる点に注意が必要です。これについて詳しくは、4-2.で解説します。

なお、相続税申告期限までに、道府県知事に経営承継円滑化法の認定を受け、税務署に一定書類の提出と担保を提供すれば、今度はその特定事業用資産について相続税の納税猶予の適用を受けることができます

3.相続税の納税猶予

基本的には贈与税と同様ですが、少々違う点があります。

3-1.相続人(後継者)の要件

  • 1-2.の手続きを経て経営承継円滑化法の認定を受けていること
  • 相続開始の直前において、特定事業用資産に係る事業に従事していたこと
  • 相続税申告期限までに開業届出書を提出し、青色申告の承認を受けていること
  • 特定事業用資産に係る事業が、資産管理業及び性風俗関連特殊営業に該当しないこと
  • 特定事業用資産について小規模宅地等の特例の適用を受けていないこと

3-2.被相続人の要件

【先代事業主の場合】

  • 相続の年、その前年、前々年の確定申告書を青色申告で行っていること

【先代事業主以外の場合】

  • 先代事業主の贈与または相続開始の直前において、先代事業主と生計一である親族であること 
  • 先代事業主からの贈与または相続の後に発生した相続の被相続人であること

3-3.納税猶予される相続税額

納税猶予される相続税額は、特定事業用資産に係る部分の金額で、次の方法により納税猶予税額と納付税額を計算します。

  1. すべての遺産(特定事業用資産を含む)にもとづいて計算した後継者の相続税額
  2. 後継者の相続財産が特定事業用資産のみであったと仮定した場合の、後継者の相続税額=納税猶予税額
  3. 1. -2. =後継者の納付税額

3-4.納税猶予が終了される場合

【全部を納付】

  • 事業を廃止した場合(※)
  • 事業内容を資産管理業及び性風俗関連特殊営業に転向した場合
  • 承継した事業の売上がなくなった場合
  • 青色申告の承認が取り消された場合
  • 青色申告の承認申請が却下された場合
  • 3年毎の継続届出書の提出がない場合

    ※やむを得ない事情がある場合、破産手続きの開始の決定があった場合を除きます。

【一部を納付】

事業用に使わなくなった特定事業用資産がある場合には、その部分に対応する相続税と利子税を納めなければなりません。
ただし、陳腐化したため破棄した場合や、新しいものに買い替えた場合などには納税猶予は継続されます。

3-5.納税猶予税額が免除される場合

【全部を免除】

  • 後継者が死亡した場合
  • 相続税申告期限から5年経過後に、次の後継者へその特定事業用資産を贈与し、その後継者が個人版事業承継税制の適用を受ける場合
  • 事業が継続できなくなったことについて、やむを得ない事情がある場合
  • 破産手続開始決定があった場合

【一部を免除】

  • 同族関係者以外の人へ特定事業用資産を一括譲渡する場合
  • 民事再生計画認可決定があった場合
  • 事業継続が困難となったことについて一定の事情がある場合において、特定事業用資産の一括譲渡または事業の廃止をする場合

4.適用を受ける際の注意点

4-1.贈与時の価格が相続税対象となる

贈与税の納税猶予を受けていた場合に贈与者が死亡すると、その特定事業用資産は相続税の対象となり、贈与時の価格が相続財産に加算されます。

ここで注意しなければならないのは、贈与時の価格という点です。
建物などの減価償却資産は、時の経過に伴って価値が減少していく資産なので、贈与時よりも相続時の方が資産価値は低くなっています。通常であれば減価した評価額が相続財産となるところ、納税猶予を受けていた場合には贈与時の高い価格で相続税が計算されるので注意しましょう。

4-2.小規模宅地等の特例とは併用不可

個人事業主の事業承継を円滑に進めるための税制には、他にも小規模宅地等の特例があります。
個人事業主が事業用に使っていた宅地等については、400㎡まで80%評価減することができる制度ですが、個人版事業承継税制との併用はできない点に注意しましょう。

小規模宅地等の特例は相続財産の総額を圧縮するので、相続人全員への減税効果があります。これに対して個人版事業承継税制は、後継者の相続税が納税猶予されますが、減税効果はありません。
相続の状況に合わせて、どちらが有利になるかのシミュレーションが重要です。

4-3.あくまでも納税猶予である

個人版事業承継税制は、小規模宅地等の特例などのように減税効果があるものではなく、特定事業用資産にかかる贈与税または相続税の納税が猶予される制度であるということを忘れないでください。 猶予されているだけなので、要件を満たさなくなった時には納税しなければなりません。

ただし、基本的に対象となった特定事業用資産を使って事業を続けていく間中は納税猶予され、更に死亡した場合には免除されますので、代々引き継いでいくことが前提の事業には有利です。
後継者に生涯その事業を続けていく決意がない場合には、いずれ納税がある可能性が高いので、小規模宅地等の特例など他の税制の利用を検討した方がよいでしょう。

5.よくあるQ&A

5-1.事業承継より先に贈与しても良い?

贈与の時点で事業承継が終わっていること(先代事業主は廃業している)が要件なので、先に贈与をしても税制の適用対象となりません。

5-2.資産が貸借対照表に載っていない

今すぐに適用を受けることはできませんが、気が付いた年にすぐ載せましょう。
その翌年には、要件である「贈与または相続が行われた年の前年分の確定申告書(青色申告)の貸借対照表に記載されていた資産」に該当し、適用を受けることができます。

5-3.事業を後継者から先代事業主へ戻した

後継者が事業を先代事業主に戻した時点で、納税猶予は終了となります。
特定事業用資産も先代事業主へ戻したとしても、先代事業主に個人版事業承継税制は適用できません。

まとめ

個人版事業承継税制は、事業用資産にかかる相続税または贈与税の納税が猶予されるので、適用を受けることで事業承継を円滑に進めることができます。

ただし、適用を受けるための要件が多いこと、免除ではなく納税猶予であること、相続発生時のことなど注意すべき点も多い制度です。 制度のメリットを最大限活用するためにも、適用を受ける場合には税理士に相談された方が良いでしょう。

【出典サイト】個人版事業承継税制)|国税庁 

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監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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