どうなる?生産緑地の2022年問題
全国の生産緑地の約8割が営農義務解除となってしまう2022年、宅地等の不動産評価額が大幅に下落することが見込まれてい…[続きを読む]
生産緑地を所有していると、その管理や運用に何かと苦労されることも少なくない思います。
生産緑地には多くの制約がありますが、一方で、相続税においては優遇措置がとられています。そこで今回は、生産緑地とは何かに加えて、相続税法上、どのように扱われるのかを解説していきます。
目次
まず、生産緑地とはどういうものかについて説明します。
積極的に整備や開発を行っていく区域を市街化区域と言います。
しかし、この市街化区域にある農地の中には、公害や災害などを予防するのに役立ち、それにより良好な生活環境を確保する役割があります。また、将来的には緑地含めた公共施設などの敷地に適しているものも多くあります。
このような農地を計画的に残し、公害や災害に強い、また将来的により良い都市作りを行うために定められた区域が生産緑地です。
つまり、生産緑地とは、一定の要件を満たす土地の中で指定され、建築行為等を許可制にすることにより規制することによって、市街化区域内にある農地を計画的に保全する制度です。
生産緑地に指定されるためには、次の要件を満たす必要があります。
生産緑地にはメリットがあると同時にデメリットもあります。
相続等で取得する生産緑地をどうするか判断する上で、このメリットやデメリットをよく理解しておくことは重要なことです。
通常、市街化区域内の農地の固定資産税は宅地並みの課税となりますが、生産緑地の固定資産税は農地に準じた課税となり、安価になります。
後段で説明します。
後段で説明します。
農業の経営をやめたいと思っても、簡単に⽣産緑地を解除することはできません。 次項以降で説明します「買取りの申出の要件」を満たす必要があります。
運よく⽣産緑地が解除されても、相続税の納税猶予は免除されず、 相続時にさかのぼって課税されます。 その場合、猶予されていた相続税に加えて利子税も支払う必要があります。
原則、生産緑地は農地以外の利用はできず、自由に⼟地を活⽤することはできません。 建築物の新築や宅地造成などを行う場合には、市区町村長の許可が必要です。 しかし、基本的には、農産物などの生産出荷施設や市民農園の施設などを設置する場合以外は、原則として許可されません。
生産緑地には、生産緑地の解除を申し出る「買取りの申出」の制度が設けられています。
生産緑地の指定から30年を経過した時、または、農業の主たる従事者が死亡した場合などには、生産緑地の所有者は、市区町村長に対してその生産緑地を時価で買取るよう、申し出ることができます。 これを「買取りの申出」と言います。
次の要件のどれか一つに該当した場合は、買取りの申し出を行うことができます。
※この場合の故障とは、農業を続けられないような重度の障害や1年以上の期間を要する入院など、農業に従事することを不可能にさせる故障のことを指します。
また、買取の申出に伴って、「生産緑地2022年問題」が起きると言われています。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
市区町村が買取る場合の買取り価格は、「時価」となります。
「時価」とは、不動産鑑定士・官公署等の公正な鑑定評価を経た近傍農地の取引価格や公示価格を考慮して算定する価格です
その結果、農地以外へ転用して、自由に土地利用することが可能となります。
生産緑地は、数々の制約がある反面、相続税評価が優遇されています。
生産緑地の価額は、
その土地が生産緑地でないものとして評価した価額×{1-(控除割合※)}
※「課税時期から買取りの申し出をすることができることとなる日までの期間」によって、控除割合が変わってきます。
控除割合については以下の表の通りです。
期間 | 控除割合 |
---|---|
5年以下 | 10% |
5年を超え、10年以下のもの | 15% |
10年を超え、15年以下のもの | 20% |
15年を超え、20年以下のもの | 25% |
20年を超え、25年以下のもの | 30% |
25年を超え、30年以下のもの | 35% |
なお、すでに買取の申し出を行うことができる場合、控除割合は5%です。 結果的には、生産緑地であった期間によって、5~35%が控除されることになります。
生産緑地の相続税評価額は通常の土地評価から、減額割合(5~35%程度)を乗じて出した金額を控除して評価します。
東京都の畑1,000㎡、相続税路線価40万円/㎡ 、「課税時期から買取りの申し出をすることができることとなる日までの期間」を12年、とした場合、控除割合は20%となり、相続税評価額は次のようにうなります。
(その土地が生産緑地でないものとして評価した価額)×{1-(控除割合)}
=(1,000×40)×(1-0.20)=32,000万円
よって、この場合の相続税評価額は、32000万円となります。
生産緑地の農地にかかる相続税の納税を猶予する制度です。該当の土地の相続税全額が猶予されます。
この特例の適⽤は、相続人が農業を続けていくことが条件になります。 しかし、「免除」ではなく「猶予」ですので、注意が必要です。
猶予の条件として「亡くなるまで農業を続けること」があり、亡くなるまで農業を続ければ納税する必要がなくなり納税免除になります。 一方で、30年経過経過した場合や途中で農業を続けられなくなった場合などで生産緑地の指定を解除した場合は納税免除とはなりません。この場合は、猶予されていた相続税に利子税を加えて納税する必要があります。 詳細は下記をご覧ください。
今回は、相続税の生産緑地について見てきました。
生産緑地を相続する場合、メリットとデメリットを十分に理解したうえで判断する必要があります。相続の場合は納税期限があり、相続発生から10ヶ月以内に相続税を納税しなくてはいけないので、その時になって焦ることが起こりがちです。
相続時の生産緑地に関する判断が、相続税納税だけでなく、今後の皆さんの人生設計に大きく影響してきます。 また、その場合は、専門知識や法律の最新情報も必要ですので、相続税の経験豊富な税理士に相談されてはいかがでしょうか?