相続税で名義預金と認定されるポイントと認定されないための対策
被相続人が子や孫の名義で積み立てていた預金など、亡くなった被相続人以外の名義の預貯金であっても、「名義預金」と認定さ…[続きを読む]
税金はできるだけ払いたくないと思うのは当然のこと。家族に財産を残すためにする生前贈与についての税金であれば尚更でしょう。
ただ、贈与税にも時効があります。では、贈与税を納めないでいれば、無事に時効をむかえることができるのでしょうか?
今回は、贈与税の時効について解説します。
目次
最初に、贈与税の時効期間と起算日について説明します。
税金の時効は原則5年ですが、贈与税の時効は、原則6年間です。
ただし、意図的に贈与税を申告しなかった場合、つまり、脱税しようとしたことが認定された場合には7年になります。
今回のテーマのように、贈与税を逃れようと申告しなかった場合は、7年間となります。
贈与税の時効の起算日は、贈与が行われた翌年の3月16日です。
贈与税の申告期限は、贈与があった翌年の3月15日までですが、時効は、申告期限の翌日である3月16日からを時効期間として計算し、6年後、又は7年後の3月15日の24時が経過した時点で成立します。
例えば、贈与を行ったのが、2020年に行われた場合は、いつ行われたかにかかわらず、時効の起算日は、2021年の3月16日であり、時効が成立するのは、2027年又は2028年の3月15日の24時を経過した3月16日ということになります。
結論から言いますと、贈与税の時効成立は困難です。下記に順を追って説明します。
贈与を行ったことが、直ちに税務署に知られてしまうことはありません。
税務署は強い調査権限を持っていますが、贈与単独で、税務調査が行われることはあまりありません。そのため、「贈与しても申告しなければ分からないので、時効で消滅する」と考えるか方がいるかもしれません。しかし、残念ながら、ばれてしまい、時効が完成しないケースがほとんどです。
それでは、なぜ、贈与がばれてしまうのでしょうか?
贈与単独での税務調査はそれほどありませんが、次のようなケースでは、調査が実施され、贈与が発覚することが非常に多いのです。
最初に、現預金の贈与についてです。
例えば、自分の子の通帳に、毎年110万ずつ贈与としてお金を振り込んでいたとします。しかし、振り込んだ本人が、子の通帳を管理していると、贈与したことになりません。
このような預金通帳の名義人と、実質的な管理者が異なる預金のことを「名義預金」といいます。「名義預金」の場合は、贈与自体が行われておらず、振り込んだ本人の財産としてみなされ、相続財産になってしまいます。
結果的には、この場合は贈与とみなされないため、贈与の時効が成立しません。
次に夫から専業主婦である妻へ2,000万円の贈与をした事例です。
このケースでは、夫が亡くなり、相続税申告のタイミングで、税務署は、働いておらず収入のない妻に2,000万円の預金があるのはおかしいと考え、税務調査に入ります。
この場合も、贈与契約書などの贈与についての証拠がなければ、夫が妻の口座を借りた「名義預金」と判断されて、この2,000万円は夫の財産となり、相続税の対象となってしまう可能性が大です。
結果として、贈与税の時効が過ぎていても贈与とみなされないため、贈与の時効が成立しません。
次に、不動産の贈与です。ここでは、不動産贈与の時効に関する悪質な事件の裁判例をご紹介します。
問題となったのは、不動産の贈与を次のように行った場合、贈与税の時効は成立するのかということです。
「1.贈与契約書を作成した時」を贈与の時点とすれば時効が成立しますが、「2.所有権移転登記をした時」を贈与の時点とすると、時効は成立しません。
判決では、「所有権移転登記をした時が贈与があった時」であるとされ、裁判所は、この贈与税の時効の成立を認めませんでした(名古屋高裁平成10年12月25日判決)。
贈与された時点で、不動産に所有権移転の登記がされていないということは、受贈者が不動産を自由に活用し収益を得たり、売却したりすることができないからというのがその理由です。
余談ですが、贈与税がかかるのを避けるために、金銭消費貸借契約を結び、贈与ではなく借金として処理するケースがあります。
ここで注意したいのは、「消滅時効が完成したから借金は返さない」と消滅時効を援用して借金をなかったことにすると、援用により取得した利益が一時所得とみなされて、援用した時点で所得税が課される可能性があります。
また、貸主が「お金は返さなくていい」と貸付金の債務を免除した場合は、贈与とみなされてしまい、贈与税が課税されてしまいます。
贈与税は、税金の中でも税率が高くなっています。
贈与税の時効が成立せず、申告漏れが判明した場合は、もともと高い贈与税に加算して、「無申告課税」「重加算税」「延滞税」といった追徴課税が課されることになります。
それぞれの税率や計算方法について詳しくは、次の関連記事をご一読ください。
ちなみに、令和元年の相続税・贈与税の税務調査の状況は、以下の通りです。
相続税 | 贈与税 | |
---|---|---|
実地調査件数 | 10,635件 | 3,383件 |
申告漏れ等の非違件数 | 9,072件 | 3,217件 |
非違割合 | 85.3% | 95.1% |
【参考サイト】令和元事務年度における相続税の調査の状況について|国税庁
ちなみに、非違とは、「違法」という意味で、見つかった場合は、前述した追徴課税がなされる可能性が大です。
以上のことより、贈与税の時効を狙って贈与をすることは脱税行為であり、また、見つかってしまう確率が非常に高いものです。
贈与税の時効を待つのではなく、贈与税が発生しないように、あるいは、税金が軽減されるように、贈与税や相続税の非課税特例などを上手く利用して節税する事を検討しましょう。
今回は、贈与税の時効について解説しました。
結果的には、贈与税を納めていないことはかなりの確率で見つかり、重い追徴課税というペナルティを支払うことになります。贈与にはいくつかの特例が設けられています。これらの特例を活用して、効率よく贈与することを検討しましょう。
贈与税の特例を検討しても、課税対象になる部分については、規則通り納税するのが無難です。
贈与については相続と一対で検討したほうが良いケースが多く、節税については、経験豊富な税理士に相談することをお勧めします。