暦年贈与のメリットと注意点:契約書作成と贈与税申告がポイント
贈与に対する課税方法には、「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」があります。暦年贈与には、相続財産を減らし相続税額を抑…[続きを読む]
「税金の納付義務には時効があるから、払わなくても逃げ切ればなんとかなるかも」
相続や贈与に関する税金の負担は決して小さなものではありませんから、ふとこんな気持ちになってしまう方も多いかもしれません。
ここでは相続税と贈与税の時効について解説させていただきます。
結論から先にいうと、日本国内に住んでいる人が相続税や贈与税の納付義務を時効によって逃れることができるケースはほとんどないといえます。
目次
まずは、時効の概念について基本的なことを説明します。
税金の時効については、個人や企業の間の一般的な時効とやや異なるところもあります。
時効とは、「一定期間同じ状態が続いている場合、法律上もその状態が適正なものと認める」というルールのことです。
例えば、本来は自分の土地ではなかったとしても、その上に建物を建てて何年も住んでいるような場合(しかも本来の権利者が立ち退くように主張しない場合)、その土地はその土地に住み続けた人のものにしてしまうというルールがあります。
この場合、土地に住んでいる人は本来自分のものではないものの所有権を取得することができて大いに得をするになりますが、逆に言うと「本来の所有者でも、権利を行使することをさぼっているとその権利を失ってしまうことがある」ということでもあります。
法律上、前者の場合(得をする場合)を取得時効、後者の場合(損をする場合)を消滅時効と呼びます。
税金(国や地方公共団体が権利者です)の場合、一般的には時効は5年間です。
ただし、刑事事件に発展するような悪質な不正行為があるような場合には、時効は7年間経つまで成立しないものとされています。
例えば、多額の脱税などによって刑事罰を受けたような場合には時効は5年間ではなく、7年間で成立することになります。
上で説明させていただいた通り、一定期間が経過すると時効が成立することになりますが、当事者間で「支払いをしてください」あるいは「支払いをします」というような意思表示が行われ場合には、時効の計算はリセットされます(これを時効の中断といいます)
たとえば、他人の土地に勝手に住み続けて9年と11か月が過ぎたとします。
「あと1か月で時効が成立してこの土地は自分のものになる」と思っていたら、本来の権利者から「この土地は私の者なので今すぐ出て行ってください」という意思表示がされた場合、時効の計算はその意思表示がされた時点からまた1日目…という形で計算がリセットされることになります。
税金の納税義務についても上記と同様に「時効の中断」が行われる可能性があります。
具体的には税務署からの税金の督促や、公示送達(役所の掲示板に通知を貼りだすことです)が行わた場合、その時点から税金の納付義務に関する時効の計算はリセットされることになります。
税金の場合、この時効の中断制度によって納税義務を免れるケースはほとんどないというのが実際のところです。
通常、時効は義務者の側から「援用する」ことによって初めて成立します。
時効の援用とは、例えば「本来は私はこの支払いをする義務がありますが、この義務はすでに時効が成立しているので払いません」という意思表示をすることをいいます。
私人間(一般個人や企業)での時効の援用は、内容証明郵便によって相手に通知したり、すでに裁判になっているような場合には裁判上の主張をしたりすることによって行われます。
ただし、時効の成立が問題となっている権利義務が税金である場合には、納税義務者の側から時効を援用しなくても、自動的に時効が成立したものとして扱われるルールがあります。
また、本来は時効が成立する場合であっても、義務者の側から「支払います」という意思表示をした場合にはその時効は成立しません(これを時効の利益の放棄といいます)。
しかし、この点でも税金債務の場合には特別なルールがあり、納税義務者は「時効の利益を放棄することができない」とされています。
つまり、納税義務者の側からうっかり「支払います」という意思表示をしてしまったとしても、時効が中断することはないということになります。
税金の時効に関する基本的なるルールは上で説明させていただいた通りですが、相続税や贈与税の場合にはどのような扱いになるのでしょうか。
相続税や贈与税の納税義務が発生していることを知らなかったという場合、相続税の時効は5年間、贈与税の時効は6年間となります
(原則的なルールは国税通則法70条、贈与税の時効については相続税法36条に規定があります)
【国税通則法第70条(抜粋)】
次の各号に掲げる更正決定等は、当該各号に定める期限又は日から5年を経過した日以後においては、することができない。
一 更正又は決定 その更正又は決定に係る国税の法定申告期限
【相続税法36条(抜粋)】
税務署長は、贈与税について、国税通則法第70条(国税の更正、決定等の期間制限)の規定にかかわらず、次の各号に掲げる更正若しくは決定又は賦課決定を当該各号に定める期限又は日から6年を経過する日まで、することができる
一 贈与税についての更正決定 その更正決定に係る贈与税の第二十八条第一項又は第二項の規定による申告書の提出期限
ただし、「そういう法律があることを知らなかった」というのは基本的に理由になりませんので注意しておきましょう(その場合は次の「故意の場合」という扱いになる可能性が高いです)
5年間の時効が適用される「納税義務があることを知らなかった場合」とは、具体的に言うと以下のような場合です。
ただし、贈与とは、贈与される側も合意のうえで成立する契約ですから、贈与されたのに贈与を受けたという事実を知らないということは通常ありえません。
たとえば、孫が知らないうちに、祖父母が孫の銀行口座に一方的に振り込んでいた場合には、贈与ではなく、名義預金(他人の名義を借りて行う預金)となります。
相続税については疎遠になっている親族などに関して、相続が発生していることを知らなかったというケースは少なからずあるでしょう。
一方で、贈与税については注意が必要です。
問題となるケースとしては、被相続人(亡くなった人)から生前贈与を受け、その贈与について7年間以上が経過し、さらに被相続人がなくなって相続税が発生するような場合が考えられます。
この場合、生前贈与については7年間以上が経過しているので、贈与税については問題とならないように思えます。
しかし、多くの場合、この生前贈与は被相続人から相続人に対しての「貸付金」とみなされ、相続財産に加算して相続税の課税対象とされてしまうのです。
結果として生前贈与を受けた財産についても相続発生時に相続税という形で税金を負担することになるというわけです。
税金の納付義務が発生していることを知りながら、故意に(つまり脱税しようという意思に基づいて)申告、納税を行わなかった場合には、時効は申告期限の翌日から起算して7年間ということになります(国税通則法70条)
故意に税金を納めなかった場合には本来の税負担額に加えて「重加算税」というペナルティが課される可能性が高く、さらに負担が大きくなることがあります。
また、脱税額が大きくなるようなケースでは、重加算税だけでなく刑事罰が科せられる可能性があります。
この場合、税金の時効とは別に刑事告発されるまでの時効(公訴時効)を考える必要がありますが、脱税の場合公訴時効は5年となるケースが多いです(国税犯則取締法250条2項:10年未満の懲役のケースは公訴時効は5年間)。
相続税・贈与税の時効については、5年、6年、7年と三つの数字が出てきましたが、整理しておきます。
善意の場合(※1) | 悪意の場合(※2) | |
---|---|---|
相続税の時効 | 5年 | 7年 |
贈与税の時効 | 6年 | 7年 |
※1 善意の場合:相続税・贈与税の申告・納税の必要性を知らなかったとき
※2 悪意の場合:相続税・贈与税の申告・納税の必要性を知っていたが申告・納税しなかったとき、または、わざと金額を偽ったとき
参考までに、相続(相続する権利)に時効はありません。
相続後、何年経っていたとしても、法的に相続する権利がある人であれば、相続することができます。故意にある特定の相続人を外して遺産分割を行ったのであれば、その遺産分割は無効となり、最初からやり直しになります。
ただし、相続人が事故や災害で亡くなっていたと思っていたのに、実は生きていて遺産分割後に発覚したというケースでは、遺産分割自体は無効にならず、それぞれの相続人が得た相続財産の中から新たに現れた相続人に対して支払うことになります。
実際に時効の期間が来たらどうしたらいいのか?についても知っておきましょう。
上でも説明させていただいた通り、税金の時効については「時効の援用」が必要ありません。
そのため、時効がきても税務署側から何も連絡がない場合には特に何もしなくとも税金の納税義務は消滅するということになります。
相続税について納税額がごく少額であるような場合には、税金の時効が成立するというケースも少なからずあるようです。
しかし、相続税については多額の税額が発生しているようなケースではまず税務署はマークしていると考えておくべきです。
マークされている場合、時効の期間が近づいてきた段階で税務調査などの形で時効の中断が行われる可能性が極めて高いです。
税務調査が行われた結果、納税義務が確認されたような場合には、重加算税などの形でペナルティが課される可能性が高くなります。
相続税の納税額が多額になる場合は基本的に時効の成立を期待するのは意味がないと考えておくべきでしょう。
納税義務があるにもかかわらず、期間内に納税を行わなかった場合には、次のようなペナルティがあります。
詳細は下記の記事で解説しています。
このように、税金の納税義務がある場合に納税を行わないと、本来は必要ない負担がペナルティとして課せられてしまいます。
「5年経てば時効が成立するから…」と消滅時効を期待することはリスクが大きいといえます。
まずは、10ヶ月という期限内に正しく申告・納税をしましょう。
仮に、申告期限を過ぎてから納税義務があることを知った…というような場合でも、税務調査が入る前に自主的に申告を行えばペナルティは最小限で済みます。
申告期限が過ぎてしまった場合でも、依頼を受けてくれる税理士がいますので、税理士に依頼して正しく税金の計算を行い申告・納税されることをお勧めします。