農業後継者が農地等の贈与を受けた場合の納税猶予の特例とは?
農地面積や農業人口は減少傾向にあるとはいえ、2019年でも170万人近い方が、農業に従事していらっしゃいます(※)。
一般的に農地は広大で面積が広いため、贈与税や相続時も税金が莫大になってしまう傾向があります。贈与税や相続税の納税のために農地を売却する手もありますが、それでは後継者が農業を続けられなくなり、本末転倒になってしまいます。
そのため、後継者が農業を続ける場合など一定の条件のもとで、農地にかかる相続税や贈与税を猶予する特例が設けられています。そこで、今回は農地の贈与税の納税猶予の特例について解説します。
目次
1.農業後継者が農地等の贈与を受けた場合の納税猶予の特例とは
1-1. 概要
農業を営んでいる人が、その農業後継者に農地等を贈与した場合、受贈者が継続して農業経営を行う限り、その贈与税の納税が猶予される制度です。
この猶予された贈与税の納税は、受贈者又は贈与者が死亡した場合には、その納税が免除されますので、贈与税を納税する必要はなくなります。ただし、贈与者が死亡した場合は、贈与税の納税が猶予されていた農地等については、贈与者から相続したものとみなされて相続税の課税対象となります。
しかし、この場合は、相続税の納税猶予特例が適用できますので、結果的には、該当の相続税も引き続き猶予されることになります。
一方で、途中で農業をやめた場合などは、贈与税の猶予が取り消されて、贈与税と利子税を納税しないといけません。
1-2. 要件
贈与者の要件
贈与の日まで3年以上引き続いて農業を営んでいた個人で、次に掲げる場合に該当しない人であることが必要です。
- 過去に、受贈者に対し相続時精算課税を適用する農地等の贈与をしている場合
- 対象年に、今回の贈与以外に農地等の贈与をしている場合
- 過去に、農地等の贈与税の納税猶予の特例に係る一括贈与をしている場合
受贈者の要件
贈与者の推定相続人のうちの1人で、次の要件の該当するものとして農業委員会が証明した個人であることが必要です。
- 贈与を受けた日において、年齢が18歳以上であること
- 贈与を受けた日まで引き続き3年以上農業に従事していたこと
- 贈与を受けた後、その農地等によって農業経営を行うこと
- 農業委員会の証明の時、認定農業者等であること
特例農地等の要件
贈与者の農業の用に供している農地等のうち
- 農地の全部
- 採草放牧地(※1)の3分の2以上の面積のもの
- 準農地(※2)の3分の2以上の面積のもの
※1…農地以外の土地で、主として耕作又は養畜の事業のための採草又は家畜の放牧の目的に供されるもの
※2…農用地区域内にある土地で農業振興地域整備計画において用途区分が農地や採草放牧地とされているもののうち、10年以内に農地や採草放牧地に開発して、農業の用に供するもの
について、一括して贈与することが必要です。
【詳細】国税庁HP №.4438 農業後継者が農地等の贈与を受けた場合の納税猶予の特例
2.農業後継者が農地等の贈与を受けた場合の納税猶予の特例の手続き
2-1. 申告の手続き
この特例の適用を受けるためには、
- 贈与税の申告書に各種書類を添付して、贈与税の申告書の提出期間内に提出すること
- 農地等納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保を提供すること
を行う必要があります。
申告に必要な主な添付書類は、次のようなものです。
- 農地等の贈与税の納税猶予税額の計算書
- 農地等の贈与に関する確認書
- 農業委員会の証明書 (農地等の贈与者及び受贈者がこの特例の適用を受ける要件に該当している旨の証明書)
- 贈与の事実を証する書類(贈与契約書など)
- 受贈者が贈与者の推定相続人であることを証する書類(戸籍の抄本など)
- 担保として提供しようとする財産の明細書その他担保の提供に関する書類
上記以外に、状況に応じて、市区町村長の証明書などが必要な場合があります。実際に申告する際には、管轄の税務署、あるいは、税理士にご相談ください。
2-2. 贈与税の納税猶予の継続届出手続き
この特例の適用を継続して受けるためには、継続届出書を提出する必要があります。
原則、贈与税の申告期限の翌日から起算して、3年ごとに提出しないといけません。
提出書類は次の通りです。
- 贈与税の納税猶予の継続届出書
- 農業を引き続き行っている旨の農業委員会の証明書
- 特例農地等の異動明細書
- 特例農地等に係る農業経営に関する明細書
なお、「特例農地等を営農困難時貸付け」、「特例農地等を特定貸付け」、「特例農地等について認定土地農地貸付け」を行っている方は、追加の書類も必要になります。継続届出書のほかに次の書類も必要となります。該当する方は、国税庁のホームページを参照ください。
また、申請書の雛形についても、該当ホームページを参照ください。
【参照】国税庁HP [手続名]贈与又は相続税の納税有用の継続届出手続き
この継続届出書の提出がないと贈与税の猶予が取り消しになり、猶予されていた贈与税と利子税を納付しなければなりません。
3.贈与税猶予が取り消しになるケース
3-1. 贈与税猶予の取り消し
納税猶予を受けている贈与税は、次に掲げる場合、贈与税猶予が取り消されます。その結果として、猶予されていた贈与税を納付しなければなりません。
- 贈与を受けた農地等について、譲渡等があった場合
- 贈与を受けた農地等について、農業経営を止めた場合
- 受贈者が贈与者の推定相続人に該当しないこととなった場合
- 継続届出書の提出がなかった場合
- 担保価値が減少したことなどにより、増担保又は担保の変更を求められた場合で、その求めに応じなかった場合
- 生産緑地法の規定による買取りの申出があった場合
- 特定生産緑地の指定の解除があった場合
- 都市計画の変更等により特例農地等が特定市街化区域農地等に該当することとなった場合
など
3-2. 納付すべき税額に係る利子税
上記に該当して猶予されていた贈与税を納付しなければならない場合には、その納付すべき贈与税に加えて、贈与税の申告期限の翌日から納税猶予の期限までの期間に応じて年3.6%の割合で利子税がかかります。
ただし、利子税の計算にあたり、各年の特例基準割合(※)が年7.3%に満たない場合は、割合が異なります。また、0.1%未満の端数は切り捨てます。
まとめると、以下の表のようになります。
特例基準割合 | 利子税の割合 |
---|---|
年7.3%以上の場合 | 3.6% |
年7.3%に満たない場合 | 3.6%×特例基準割合(※)÷7.3% |
※特別基準割合…銀行短期貸出約定平均金利+1%
詳しくは最寄りの税務署にお尋ねください。
4. 贈与税が免除になる場合
この農地等納税猶予税額は、受贈者又は贈与者のいずれかが死亡した場合には、その贈与税の納税が免除されます。
ただし、贈与者の死亡により、猶予されていた贈与税の納税が免除された場合には、特例の適用を受けて納税猶予の対象になっていた農地等は、贈与者から相続したものとみなされて相続税の課税対象となります。
しかし、この場合は、相続税の納税猶予特例が適用できますので、結果的には、該当の相続税も引き続き猶予されることになります。
5.まとめ
今回は、「農業後継者が農地等の贈与を受けた場合の納税猶予の特例」について見てきました。
この特例は、農地を次世代に早期に移転すすることを促進するために制定されています。
後継者が継続して農業経営を行っていく場合は、この特例を前提にして贈与をお考えになってはいかがでしょうか。
一方で、受贈者である後継者が途中で農業をやめる場合などは、猶予されていた贈与税に、利子税を加えて納税をしないといけません。
納税猶予の特例を利用するかしないかの判断は、今後の人生設計にも影響してきますので、十分に検討して判断することをお勧めします。