手書きが要件の自筆証書遺言をパソコンで作成できるよう検討開始!

遺言者の手書きが効力要件となっている自筆証書遺言。民法改正によって、遺言に添付する財産目録までは、パソコンでの作成が認められていました。

しかし、いくつかの報道によれば、法務省がパソコンで作成された自筆証書遺言を認める方針を打ち出しました。

そこで、ここでは国が、自筆証書遺言をパソコンで作成することを認める背景や、問題点を解説します。

1.遺言書の種類と自筆証書遺言について

まず、自筆証書遺言について簡単にまとめておきましょう。

普通方式の遺言には、以下の3つの種類があります。

  • 秘密証書遺言
  • 公正証書遺言
  • 自筆証書遺言

1-1.秘密証書遺言

秘密証書遺言を作成するには、2人の証人を用意しなければならず、公証役場での手続きが必要となり、作成後は遺言者自身が保管しなければなりません。また、公証人は、遺言書の内容をチェックすることはありません。こうしたデメリットから、秘密証書遺言はあまり利用されていないのが実態です。

1-2.公正証書遺言

公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらう遺言書です。作成前には、公証人と遺言書の内容について打ち合わせをし、公証人によって作成されるので、遺言書の内容に法律上問題が発生することはありません。

ただし、公証役場での手数料が発生します。弁護士や司法書士に遺言書の作成をサポートしてもらうと、勧められるのがこの方式です。

1-3.自筆証書遺言

3つのうちで、最も気軽に作成できるのが、自筆証書遺言です。紙とペンがさえあれば作成可能です。ただし、法律上、遺言書全文を自書することが求められます。誤記してしまった場合の訂正方法も、法律で定めれらています。

2019年の民法改正で、遺言書に添付する財産目録については、パソコンでの作成が認められましたが、自筆証書遺言自体については、パソコンでの作成が認められていません。

自筆証書遺言がどれだけ作成されているかは不明ですが、法務省での自筆証書遺言の保管制度の利用申請は、2022年には、16,802件にも達しています。

2.自筆証書遺言をパソコンで作成することを認める背景

2021年のパソコンによるインターネット利用率

以下の通り、高齢者であってもインターネットの普及を通し、パソコンを利用している時代です。

今後、デジタル化がますます進めば、遺言者に遺言書を全文自書することを求めるのは、難くなるでしょう。

そこで、法務省としては、自書に加え、パソコンだけでなくスマートフォンを使った遺言書の作成を認める方針で、10月中に有識者会議を設置して、民法改正の内容を検討する予定です。

2021年50歳以上のインターネット利用率(一部データを抜粋)

 合計
50~59歳95.2%94.7%95.7%
60~69歳84.4%86.5%82.5%
70~79歳59.4%65.8%53.9%
80歳以上27.6%37.5%21.9%

インターネットの利用機器(一部データを抜粋)

 パソコンスマートフォンタブレット型端末テレビ
50~59歳61.4%82.2%26.5%24.5%
60~69歳47.3%67.9%18.8%18.7
70~79歳27.3%39.2%8.5%9.9
80歳以上20.7%15.2%4.8%7.7

【出典】「令和3年通信利用動向調査」|総務省

3.パソコンを使った遺言書作成で問題となるポイント

パソコンで遺言書を作成することができるようになれば、便利になることは確かです。ただし、遺言書は遺言者が亡くなることで効力が生じます。遺言書の効力が生じた後には、遺言者に確認することができません。

そこで、パソコンで作成した遺言書を法律上認めると、いくつかの問題が発生します。

3-1.偽造・改竄がし易くなる

被相続人が使用していたパソコンにログインできれば、遺言書のファイルを見つけ出し、偽造・改竄をするのはそれほど難しいことではないでしょう。

本人が書いたものと確認するため、手書きによる署名や、電子署名の活用、入力する様子を録画したりする案が検討される予定です。

3-2.高齢者に代わり家族の代理入力を認めるか

高齢化によってパソコンを扱うことが難しくなった方に代わって、家族が代理でパソコンに遺言書を入力することを認めるかも重要なポイントになります。

一定のルールを定めておかないと、悪用される可能性される可能性もあります。

まとめ

自筆証書遺言をパソコンで作成することができるようなるのは、まだ先のことです。しかし、これが実現すれば、自筆証書遺言を誰でも簡単に作成することができるようになります。

今後も、追加の情報があれば、随時お伝えしていきたいと考えています。

監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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