非嫡出子に相続させないのは難しい?

放棄 拒否

結婚したパートナーと生涯添い遂げる。これは夫婦の理想ですが、現実では離婚する夫婦も多く、離婚へのマイナスイメージも少なくなっています。しかし、離婚することで後々大きな問題となってしまうのが相続です。

あなたが亡くなり、家族が相続をする際に、予期せぬ人が現れて相続することがあるのです。そこで、あなたが望まない人には相続させないようにすることができるのか、様々な観点から探ってみます。

1.子供への相続の基本

相続のときに大きなトラブルとなるケースで多いのが、一緒に生活していた家族以外にも家族がいた場合です。離婚したり、予期せぬ妊娠をしたり、配偶者ですら知らない子供がおり、相続の時に初めて知るケースもあります。そのため、一緒に生活していた家族以外には渡したくないとトラブルになってしまうことが多いです。

そこで、まずは誰がどれくらいの割合で相続するのか、基本的なことから確かめていきましょう。

1-1.相続の割合はどれくらい?

あなたが亡くなったとき相続するのは家族です。具体的には、あなたの父母や配偶者、子供などがそれぞれ相続します。亡くなったときの家族の状況によって相続する割合は変化しますが、最も多く相続するのは原則として配偶者となります。では、状況ごとに誰がどのくらい相続するのか確かめて行きましょう。

  • 配偶者のみ:配偶者が100%
  • 配偶者と子供:配偶者と子供で1/2ずつ
  • 配偶者と直系の父母:配偶者が2/3、父母が1/3
  • 配偶者と直系の兄弟姉妹:配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4

相続する割合は、このように変化していきます。ただ、配偶者は常に1人ですが、子供などは複数いることがあります。この場合は、全員の合計が決められた割合になるように相続します。ですので、子供が2人いる場合は、合わせて1/2になるように相続するため、一人あたりは1/4の相続となります。

1-2.相続の権利は誰もが平等

相続を行う場合は、亡くなった方の直系の家族が対象となります。しかし、一緒に暮らしていること重要なのではなく、戸籍や血のつながりなどで相続の対象なのかが決定します。そのため、結婚していない夫婦間で生まれた「非嫡出子」も、あるいは離婚し一緒に暮らしていない子供も相続する権利を持っています

非嫡出子が相続する割合は、以前は嫡出子(婚姻関係のある夫婦の子供)よりも少なく定められていましたが、現在では全く同じ割合です。つまり、1/2の割合で相続します。ですので、嫡出子と非嫡出子が1人ずついる場合は合計で総額の1/2となり、それぞれが1/4ずつ相続することになります。この割合は法律によって定められているため、個人の気持ちで相続させないことはできません。

2.特定の相続人に相続させない方法は?

非嫡出子の相続権は、親であっても取り上げることはできません。それは、子供が持つ大切な権利だからです。ですので、非嫡出子から請求されれば、当然に相続させる必要があります。では、非嫡出子に相続させない方法はあるのでしょうか?

2-1.遺言書で決められる?

相続する相手や金額を亡くなった方が決める方法として「遺言書」を作成する方法があります。「終活」の1つとして注目されることもあり、遺言書の書き方などを考えてる人も多いと思います。ですが、書き方以上に注意しておかなければいけないのが相続の配分です。

遺言書は亡くなった方の意思を尊重するため、配分などが最大限考慮されます。しかし、相続には「遺留分」が定められており、例え遺言書があっても遺留分を下回ることができません。この遺留分は、基本となる相続分の1/2です。

ですので、嫡出子と非嫡出子が1人ずついる場合、遺言書によって嫡出子の配分を「3/8」、非嫡出子を「1/8」に定めることが最下限となります。もし、遺言書でこの配分を下回るように記入しても、「遺留分侵害額請求権」を非嫡出子が行使すれば該当する金銭を支払わなくてはいけません。

遺言書

2-2.相続廃除はできるか?

相続の頼みの綱である遺言書でも、非嫡出子に相続させないことは非常に難しいです。しかし、特殊な手続きを行うことで相続させなくする制度があります。その制度とは、「相続の廃除」です。

これは、亡くなられた方、または遺言執行者が家庭裁判所で手続きを行うことで、特定の人の相続権を無くしてしまう制度です。つまり、非嫡出子に対して相続の廃除を行うと、その子供には相続権がありませんので、遺留分も含めて相続できなくなるのです。ただし、相続の廃除を行うためには、特定の条件を満たす必要があります。

相続の廃除ができるのは、相続人が亡くなられた方に対して虐待を行っていた場合や、重大な犯罪を犯した場合など、限られた場合のみです。ですので、実際に相続の廃除を行うことは難しいといわれており、あまり現実的な方法ではありません。

【関連】相続基礎知識:相続できなくなる場合(相続欠格と相続人の廃除)

2-3.相続放棄させられるか?

相続権は強制的なものではなく、あくまでも権利を行使するかを本人が自由に決めることができます。つまり、非嫡出子に権利を放棄させれば「相続放棄」となり、相続できなくなります。この場合、遺留分も含めた全額の相続を放棄するため、非嫡出子の相続分は0となります。

さらに、相続放棄には条件などが指定されていませんので、基本的には誰でも行なえるのが特徴です。ただし、あくまでも放棄するかは本人の意思によって決定されなければいけません。ですので、前もって相続放棄を約束していても、亡くなった後に本人が請求すれば相続することが可能です。

特に、離婚するときなどに、配偶者についていく子供が遺産の相続を行わないことを配偶者と取り決める場合があります。しかし、この場合でも最終的な決断は子供が行い、相続するかを決めますので、強制的に相続放棄させることはできません
また、生前に相続放棄させることもできません。

【関連】相続基礎知識:相続は選択できる!相続の承認と相続放棄

3.相続させないための現実的な方法

非嫡出子と嫡出子は同等の権利を持ちますので、非嫡出子だけ相続させないことは不可能に近いといわれています。いくつか相続させない方法も確認してきましたが、どれも難しいものばかりでした。そこで、嫡出子の利益が最大限となる現実的な方法を解説します。

3-1.事前に生前贈与

一般的に相続を行う場合、亡くなった後に行われます。ですが、生きているうちから相続をさせることも可能です。それが「生前贈与」です。生前贈与を行うと亡くなった後の話し合いに参加する必要がないため、非嫡出子がいきなり現れて大きなトラブルになる心配はありません。

ですが、生前贈与の場合でも税金を納めなければいけません。ですので、生前贈与の税金に関わる2つの製度についてしっかり把握しておきましょう。1つ目は、「一般贈与」と呼ばれる制度です。この制度では、贈与した金額によって「贈与税」が必要となり、1年間に贈与した金額が110万円未満の場合は贈与税の対象となりません。ただし、これは受け取った人1人あたりの金額となりますので、2人以上から贈与が行われる場合は注意が必要です。

もう1つは、「相続時精算課税制度」です。これは、贈与税の代わりに生前贈与で「相続税」を納める制度です。特に、この制度には「1人あたり2500万円」までの控除がありますので、この金額以下の生前贈与ならば贈与税は必要ありません。さらに、相続税が必要ない場合は生前贈与に関わる税金を全て省けるため、非常に便利な制度です。

しかし、相続時精算課税制度は「60歳以上の方が20歳以上の子や孫へ贈与する」場合のみ適応される制度なので注意してください。また、一般贈与と相続時精算課税制度は併用できませんので、必ずどちらが負担が減るのかを計算しておきましょう。

3-2.生命保険の特性を利用

あなたが亡くなったとき相続されるのは、その時に保有していたお金です。しかし、生命保険に加入している場合、「死亡保険金」を受取ることで相続するお金が増えてしまうのではないかと考えている人も多いそうです。実は、死亡保険金は受取人固有の財産となることが認められています。つまり、死亡保険金は相続するお金には含まれないのです。

そして、この原則を利用すると非嫡出子が相続する金額を減らすことができます。この場合、非嫡出子が相続するのは対象額の1/4ですが、嫡出子は対象額の1/4に加えて死亡保険金を受取ります。すると、嫡出子の方が確実に多く相続することになるのです。

ですので、死亡保険金の受取人を嫡出子に定めておくことで、遺言書がなくても優劣を付けられます。もちろん、遺言書があれば遺留分まで非嫡出子の相続分を減らせますので、なるべく併用しましょう。

生命保険

3-3.家族信託の利用

聞き馴染みのない有効な方法として、「家族信託」を利用することが挙げられます。家族信託とは、簡単にいうとあなたお金を家族で管理する制度のことです。お金を預ける「委託者」、お金を預かり管理する「受託者」、お金を使用し利益を受ける「受益者」の3つ立場から成り立っています。また、複数の立場を兼任できますので、委託者と受益者が同一人物になることもあります。

では、どうして家族信託が有効かというと、亡くなった方の意思を最大限尊重できるからです。例えば、遺言書を残す場合、書式など細かいルールを守らなければ効力がなくなりますが、家族信託の場合はそれがありません。遺言書のルールに関係なく指定したとおりに引き継がせることができます。

また、相続させる順番を指定できることも大きなポイントです。通常の場合は総額を等分して相続しますが、家族信託の場合は指定した人にだけ引き継がせることが可能です。利益を受ける受益者が相続することになり、第二受益者を長男、第三受益者を次男のように定めておくことで、この順番通りに相続させられるのです。さらに、定めるときに生まれていない子供も設定できますので、非常に便利な制度です。

ただし、新しい制度のため、家族信託を扱う外部会社や弁護士・税理士などの専門家に相談されたほうが良いでしょう。特に、遺留分については、信託財産には遺留分の対象にはならないという考え方と、遺留分の対象になるという両者の考え方があり、はっきりとしていないため、不安定になる可能性もあります。

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まとめ

相続させたくない子供がいたとしても、現実的には全く相続させないことは難しいと思われます。非嫡出子だとしても、あなたの実の子供ですから、できる限り良好な関係を保つように努力し、円満解決を図りたいものです。

監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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