終身建物賃貸借契約:高齢者が安心して暮らすための契約制度

高齢者 住宅

 終身建物賃貸借契約と呼ばれる契約があるのをご存知でしょうか。これは文字通り「終身」にわたって居住を許す賃貸借契約のことです。終活の一環として知っておくと良いでしょう。

終身建物賃貸借契約(制度)とは?

終身建物賃貸借契約とは「高齢者の居住の安定確保に関する法律」に基づいて成立している制度です。高齢者が終身にわたり賃貸住宅に居住できる契約で、死亡時に契約終了します

この制度が誕生する以前は高齢者の選択肢は老人ホーム等に限られていましたが、制度誕生により、高齢者でも居住先の選択肢が増えたのです。

事業者としてのメリット

入居者が死亡した場合に契約が終了するので、賃貸借契約の相続手続きが不要です。また、長期に渡って住むことが想定されるので、安定した家賃収入が得られます。

入居者としてのメリット

入居者は居住できる住宅の選択肢が広がります。立ち退き等の心配がなく終身まで安心して暮らせる点も嬉しいポイントです。また、前払いできる物件もあり、その場合は月々の支払いが不要です。

高齢者の居住の安定確保に関する法律とは?

高齢者の居住の安定確保に関する法律は2001年に成立し、2011年に全面的な改正が行われた法律です。通称「高齢者住まい法」「高齢者居住法」などと呼ばれます。

本法律は高齢者の居住の安定の確保を図って、福祉の増進に寄与するために成立されました。具体的には先に紹介した「終身建物賃貸借契約」や「サービス付き高齢者向け住宅事業」について規定しています。

終身建物賃貸借契約の概要とポイント

終身建物賃貸借契約をより理解するために、いくつかのポイントがあります。

終身建物賃貸借契約は借地借家法の特例

本来であれば賃貸借契約は「借地借家法」によって規定されています。けれども、一定要件を満たす賃貸住宅でかつ、都道府県知事の許可を受けた物件であれば終身契約を結ぶことができます。つまり、終身建物賃貸借契約は借地借家法の特例となっています。

要件は「高齢者の居住に適した住宅である」

先に紹介した一定要件とは「高齢者の居住に適した住宅である」点です。具体的にはバリアフリー化基準を満たしている等です。つまり、段差が少なかったり、手すりがあったりするといった配慮がある住宅です。このように高齢者が住みやすい住宅かを都道府県知事が確認し許可を出します。

部屋の面積の条件として、1戸あたりの床面積が原則25㎡以上である必要があります。居間、食堂、台所、浴室等、高齢者が共同して利用するために十分な面積を有する共同の設備がある場合は18㎡以上となります。

住宅提供事業者は許可申請手続きが必要

高齢者向け賃貸住宅の提供を考えている事業者は、事前に許可申請手続きを終えておく必要があります。許可の流れはあらかじめ都道府県役場で相談をして、工事着工と同時に許可申請をして、その後、許可通知をされます。

相談時点で土地・建物権利関係書類や管理業務者の概要等を提示します。もし高齢者向け賃貸住宅の提供を検討しているのであれば、一度、役場にて相談するのが一番でしょう。

入居の要件と手続きについて

初めて入居する際の要件

高齢者向け賃貸住宅に入居するには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

  • (1)入居者本人が60歳以上である
  • (2)同居者は配偶者、もしくは同居者が60歳以上の親族である

入居者死亡時に同居者が継続居住する要件

入居者が死亡した場合は、基本的には契約が終了されます。ただし、もし同居者が居住している場合には継続居住も可能です。
継続居住を希望する場合は、同居者が入居者の死亡を知ってから1ヶ月以内に事業者に申し出ることで継続居住できます。

終身建物賃貸借契約の解約要件

契約期間が入居者の終身ということもあり、様々な理由で終身建物賃貸借契約が解約されます。これは事業者、入居者の権利を守るためにあります。

事業者からの解約要件

事業者は下記のいずれかに該当する場合に限って解約されます。なお、(1)(2)の場合は知事の承認を受け、入居者に対して、最低でも6か月前に解約の申入れることで解約できます。

  • (1)損傷などにより住宅を維持できない場合、もしくは回復に過分の費用を要する場合
  • (2)入居者が長期に渡り居住せず、かつ当面居住する見込みがない場合(理由が入院等の場合は双方の合意が必要)
  • (3)入居者に債務不履行、契約違反等の不正行為があった場合、または公序良俗に反する行為・事実があった場合

入居者からの解約要件

入居者は下記のいずれかに該当する場合に限って解約が認められます。なお、(1)(2)(3)の場合は少なくとも1か月前までに事業者に解約の申し入れを行うことが必要です。

  • (1)療養、老人ホームへの入所等の理由によって継続居住が困難になった場合
  • (2)親族との同居等の理由によって居住が不要になった場合
  • (3)事業者が知事からの改善命令に違反した場合
  • (4)解約期日が解約申入日から6か月以上先にある場合

高齢者向け住宅に入居する場合の注意点

もし今後、高齢者向け住宅に入居しようと考えているのであれば、次の注意点を確認しておきましょう。

契約前に事業者から十分な説明を受ける

もし高齢者向け住宅に居住しようか迷っているのであれば、まずは住宅提供事業者から十分な説明を受けるようにしましょう。ここでも概要は説明していますが、改めてどのような制度かを確認してください。

サービス契約については確認する

高齢者向け住宅を提供する事業者は、他の事業も手掛けています。そのため、「終身建物賃貸借契約」とその他サービスを混合しないようにしましょう。その他サービスは任意契約になるので、このサービス内容についても確認が必要です。

保全される前払家賃には限度額があります

高齢者向け住宅提供事業者は、支払方法を「毎月払い」「分割前払い」「一括前払い」などから選べます。ただし、「前払い」の場合には注意が必要です。もし途中退去等をする場合には精算され、過払い金が返還されます。そのために事業者は前払家賃を保全する義務がありますが、その限度額は最高で「500万円」までとなっています。500万円を超える家賃の前払いをした場合、最悪のケースでは500万円超の部分は戻ってこない可能性がありますので、ご注意ください。

監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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