相続税の障害者控除とは?相続税ゼロなら申告不要

相続税には障害のある方を対象とした「障害者控除」の制度が設けられています。この制度は障害のある本人だけでなく、その家族も利用できる節税には欠かせない制度です。

ただ、適用条件や控除額など細かな取り決めがあり複雑です。そこで今回は、障害者控除の基本から活用のポイントまでを分かりやすく解説していきます。

1.相続税の障害者控除とは

1-1.障害者控除の概要

障害者控除とは、85歳未満の障害者が相続人となる場合に相続税が一定金額控除される制度です。遺産額から控除される基礎控除などととは異なり、実際の納税額から直接控除することができます。

この制度は、相続で障害者が残された場合に、少なくとも金銭的な生活の不安を抱かなくてもすむように設けられた制度です。障害のある相続人にとっては、少しでも多くの遺産を取得することができるので重要な節税制度の1つとなっています。

1-2.障害者控除の適用要件

障害者控除の適用を受けるためには、次の4つの要件をすべて満たす必要があります。

  • 相続または遺贈により財産を取得していること
  • 財産取得時において「日本国内」に住所があること
  • 財産取得時において「障害者」であること
  • 財産を取得した人が「法定相続人」であること

つまり、日本国内に住所がある障害者の法定相続人が相続財産を取得した場合に、障害者控除の適用対象となるということです。

ひと言に障害者といっても、どのような人が障害者として認められるのでしょうか? 実は税法には、適用対象となる障害者の要件まで定められています。

一般障害者
  • 精神保健指定医などにより知的障害者(軽度・中度)と判定された人
  • 精神障害者保健福祉手帳(2級・3級)の交付を受けている人
  • 身体障害者手帳(3級~6級)の交付を受けている人
  • 戦傷病者手帳の交付(軽度・中度)を受けている人
  • 6か月以上寝たきりで重い介護を要する人で、一般障害者と同等な障害を持つ者として市町村長等の認定を受けている人
  • 精神または身体に障害のある65歳以上の人で、一般障害者と同等な障害を持つ者として市町村長等の認定を受けている人
特別障害者
  • 精神保健指定医などにより知的障害者(重度)と判定された人
  • 精神障害者保健福祉手帳(1級)の交付を受けている人
  • 身体障害者手帳(1級・2級)の交付を受けている人
  • 戦傷病者手帳の交付(重度)を受けている人
  • 原子爆弾被爆者で厚生労働大臣の認定を受けている人
  • 6か月以上寝たきりで重い介護を要する人で、特別障害者と同等な障害を持つ者として市町村長等の認定を受けている人
  • 精神または身体に障害のある65歳以上の人で、特別障害者と同等な障害を持つ者として市町村長等の認定を受けている人

1-3.障害者控除の控除額

控除額の計算式における特別障害者の基準額は、障害の重さにより一般障害者より高く設定されています。

障害者控除における控除額の計算式

一般障害者の控除額(85歳 - 相続した時の年齢)× 10万円
特別障害者の控除額(85歳 - 相続した時の年齢)× 20万円

控除額を決める大きなポイントは年齢です。85歳を基準に相続時の年齢が若いほど控除額が高くなります。相続時の年齢は満年齢(一年未満の期間があるときは切り捨て)で計算します。例えば、35歳8ヶ月の場合は35歳、36歳1ヶ月の場合は36歳として扱われます。

1-4.障害者控除の必要書類

障害者控除を利用するためには、相続税申告書の第6表「未成年者控除・障害者控除額の計算書」を作成して提出します。さらに、提出時には障害者手帳戦傷病者手帳医師の診断書など、障害者に該当することを証明する書類が必要になります。

相続税申告書 令和4年分 障害者控除

個人でもこれらの書類の作成や用意は可能ですが、どこかに不備があると正しく制度を利用できません。不安があるときには税理士などに依頼して、遺産分割協議から控除の適用までをスムーズに終えるのがおすすめです。

相続税の申告自体に必要な書類については、以下の関連記事をご覧ください。

関連記事
相続税申告に必要な添付書類まとめ【チェックリストつき】
相続税の申告には様々な添付書類が必要となり、条件によって書類が異なります。添付書類について入手先や、手数料、取得にか…[続きを読む]

2.相続税で障害者控除を利用する場合の計算例

それでは、実際に計算しながらどれだけ節税効果があるのか比較していきましょう。

事例1.1億円の遺産を30歳の相続人が1人で相続する場合
課税対象額課税価格 = 相続財産額 - (3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)
1億円 - (3,000万円 + 600万円) = 6,400万円
 相続税額相続税支払い後の手取り額
障害者控除なし6,400万円 ×30% - 700万円 = 1,220万円1億円 - 1,220万円 = 8,780万円
一般障害者の場合6,400万円 × 30% - 700万円 -{(85歳 - 30歳)×10万円 }= 670万円1億円 - 670万円 = 9,330万円
特別障害者の場合6,400万円 × 30% - 700万円  -{(85歳 - 30歳)×20万円}= 120万円1億円 - 120万円 = 9,880万円

障害者控除を適用しない場合との相続税額の差は、一般障害者では2倍弱、特別障害者では10倍強もあります。

基礎控除は遺産額から控除されますが、障害者控除は相続税額から直接控除されるので、障害者控除は節税効果が高く、非課税になる可能性も高くなります。

3.相続税で障害者控除を利用する際のポイント

3-1.障害者控除で相続税が0のときは申告不要

相続税では、相続財産が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えていれば申告が必要です。

ただし、障害者控除を適用した結果、相続税が0円になるときは、申告する必要はありません

3-2.2回目以降の相続で、障害者控除できる額は減少する

基礎控除などとは異なり、障害者は常に一定額を控除できるわけではありません。年齢によって変わるだけでなく、最初の相続時の控除額を上限に控除額が決定されるためです。

2回目以降の相続では、次のように控除額が決定されます。

2回目以降の相続における障害者控除の控除額

1.か2.いずれか安い金額が控除額となる

一般障害者の場合

  1. (85歳 - 相続した時の年齢)× 10万円
  2. (85歳 - 最初に相続した時の年齢)× 10万円 - 前回の控除額の合計

特別障害者の場合

  1. (85歳 - 相続した時の年齢)× 20万円
  2. (85歳 - 最初に相続した時の年齢)× 20万円 - 前回の控除額の合計

それでは、次の事例で、実際に控除額の計算をしてみましょう。

事例2.50歳の時に最初の相続で200万円を控除した場合

相続人:一般障害者
2回目の相続時の相続人の年齢:60歳

  1. (85歳 - 60歳)× 10万円 = 250万円
  2. (85歳 - 50歳)× 10万円 - 200万円 = 150万円

この場合は、1.より2.のほうが安いので、150万円が60歳の相続時に控除に使用できる額となります。障害者控除は最初に控除を受けた金額を上限に、複数回の控除に利用できると覚えておきましょう。

3-2.残った控除額を扶養義務者と分け合える

障害者控除は障害者本人が相続をする場合に利用できる控除制度です。しかし、若いときに相続するなど、控除額が余ってしまうことがあります。この場合には、扶養義務者と残った控除額を分け合うことができます

扶養義務者

  • 配偶者
  • 直系血族(祖父母・父母・子・孫など)
  • 兄弟姉妹
  • 直系血族及び兄弟姉妹を除く3親等内の親族で家庭裁判所が扶養義務者と認めた者

ただし、この控除の枠は障害者本人が生涯受けられる枠でもあります。1度目の相続時に全ての控除額を分け合ってしまうと、2回目の相続時には控除が受けられなくなります。

そのため、扶養義務者に分配するにしても控除の枠を残しておくなど、慎重に検討する必要があります。

3-4.要介護認定だけでは障害者控除の適用はできない

身体や精神の障害を表すものに要介護認定があります。要介護認定は身体機能などが低下したことが原因で、介護保険によるサポートを受ける必要があるかどうかを判断するものです。しかし、要介護認定と障害の認定は全く別の制度なので、要介護認定だけでは障害者控除を受けられません。

ただ、心身の状態が障害と同じレベルのものだと認められれば、障害者控除の対象となります。障害者控除を利用したい場合は、要介護認定とは別に「障害者控除対象者認定書の発行申請を役所に行いましょう。介護レベルや診断書などによって審査され、この認定証が発行されれば要介護認定を受けている人も障害者控除を受けられます。

3-5.障害者控除の判定時期

障害者控除の対象となるのは、相続が開始された時点で一般または特別障害者であることが要件となります。そのため、相続の開始時に要件を満たさない場合には、障害者控除が受けられません。

では、障害者手帳などの発行申請中に相続が発生した場合には、障害者控除は受けられないのでしょうか?

このような場合には、以下のいずれにも該当する場合は、障害者控除の対象として扱われます。

相続税基本通達19の4-3より
(1)相続税の申告時に手帳の交付を受けていること又はこれらの手帳の交付を申請中であること
(2)医師の診断書から相続開始の時の現況において、明らかにこれらの手帳に記載される程度の障害があると認められる者であること

ここからわかる通り、あくまでも診断書の内容によって認定されるか否かが決まるので、場合によっては利用できないこともあり得ます。市役所や税理士などと連携しながら、適切な方法で控除の要件を満たせるように手続きしてください。

まとめ

障害者控除は、障害があることで不自由な思いをしている障害者のために設けられた相続税の控除制度であり、障害者が少しでも多くの遺産で支援できるように作られた背景があります。

また、障害のある相続人をサポートする扶養義務者にも控除額を分配することができるので、他の相続人も節税になる、全員が得をする制度です。

制度の基本事項や申請方法などをしっかりとチェックしておき、確実に障害者控除を利用できるように準備を始めておきましょう。

相続税に強い税理士が問題を解決いたします

相続税申告は税理士によって力量の差がはっきりと現れます。
相続税について、下記のような不安・課題を抱えている方は、相続税に強い税理士にご相談ください。

  1. 相続税をなるべく安くしたい
  2. 税務調査が怖い
  3. 評価が難しい土地がある
  4. 相続関連のいろいろな手続きが面倒で困っている
  5. 生前対策をしたいが、何をしたら良いかわからない

相続発生前後を問わず、相続に関連する問題に対して、税理士はあなたの味方になりますので、まずは気軽に相談されることをオススメいたします。

この記事が役に立ったらシェアしてください!
服部
執筆
服部 貞昭
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関する記事を1000本以上、執筆・監修。
FPメンバーで構成する「遺言・相続・成年後見研究会」勉強会に参加中。
プロフィール この執筆者の記事一覧