お腹の中の胎児(赤ちゃん)も相続できる?
親が亡くなると、子どもなら誰もが相続権を与えられ、財産を相続できます。しかし、命はあっても生まれていない子ども、つまり胎児の場合にも相続権が与えられ、財産を相続できるのでしょうか?今回は、相続時に悩んでしまうことが多い、胎児の相続について確かめていきましょう。
目次
1.胎児は相続人に該当する?
誰かが亡くなると、その子どもには相続権が与えられ亡くなった財産などを引き継ぐことができます。しかし、困ってしまうのが、母親が妊娠中の場合です。妊娠中の子どもがまだ生まれる前、胎児のときにも相続権は与えられるのでしょうか?
1-1.民法による取り決め
胎児といってもすでにこの世に授かった命には代わりありません。ですが、まだ生まれてもいません。この場合、自分だけで考えていても答えは出てきませんので、相続に関わる全てを取り決めている、民法を確認してみましょう。
民法第886条(相続に関する胎児の権利能力)
1 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
民法では、このように定められており、胎児であっても生まれたものとみなすため、相続権が与えられます。つまり、夫が妊娠中の妻を残して亡くなった場合、配偶者の妻と胎児が相続人となり、夫の両親(祖父母)は相続人とはならないのです。
1-2.胎児の相続権は生まれてから
民法第866条によって、胎児の相続権は認められていますが、民法にはこのような条文があります。
民法第3条(私権の享有)
1 私権の享有は、出生に始まる。
これがどういうことかというと、民法などに記載されている権利は、生まれなければ発生しないと決めているのです。つまり、胎児の相続権に関しても、実際に相続が開始されるのは出産後であり、それまでは遺産分割協議などは行なえません。ですので、実際に遺産を相続するまでにはタイムラグができてしまいます。
また、胎児の相続権を定めた第866条には、次のような条文も加えられています。
民法第886条(相続に関する胎児の権利能力)
2 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。
民法第866条では、胎児の相続権が保証されていました。ですが、出産時に必ず元気で生まれてくることが確定しているわけではありません。もし、遺産分割協議を出産前に行ってしまった時に死産となった場合、新たなトラブルや法律上の矛盾が生じてしまいます。
そこで、この第2項で死産についての取り決めを決定しているのです。民法第3条の規定を元に、元気に生まれなかった場合は、相続権が適用されず、新たに相続人が決定されます。
上記の例のように、夫が妊娠中の妻を残して亡くなった場合、妊娠中は胎児の相続権が認められています。ですが、死産となった場合には、配偶者と夫の両親が改めて相続人としての権利を与えられ、実際に相続が開始されます。この例のように、生まれてくる胎児の状態によって誰が、いくら相続するか変化するため、出産前の遺産分割協議は行われません。
参考までに、胎児が相続権を持つケースとして次の図のような場合もあります。母親が妊娠してお腹の中に赤ちゃんができましたが、その後、不幸なことに父親が事故で亡くなってしまいました。その後、祖父も亡くなりました。
父親の子であるお腹の中の赤ちゃんは、もし生まれたとしたら、代襲相続により相続人となります。
2.遺産相続に必須な特別代理人とは
無事に出産を終え、元気に生まれてくると、正式に相続権が与えられ相続が開始されます。ただし、自動的に相続が始まり、終わるわけではありません。必ず「特別代理人」と呼ばれる人物を選んでから、相続が始まります。では、特別代理人とは、どのような人物、制度なのかを確認していきましょう。
2-1.子どもの利益と特別代理人の選任
胎児の時に相続権が与えられたといっても、出産後は未成年者が相続する場合と同じように扱われます。ですので、他の子どもと同じように、「特別代理人」を設けて遺産分割協議を行います。
ここで少し疑問に感じるかもしれません。子どもの遺産相続といってもお金の管理をするのは親であるため、協議は必要ないのではないか、という疑問です。確かに、現実的にはその通りなのですが、相続する金額や内容は、子どもであっても親と公平に取り決めなければいけません。子どもだからという理由で、一方的に親が決めることはできないのです。
ですので、判断能力がない未成年者に代わって、特別代理人を設けて親との対等に話し合って、遺産分割を行います。ちょっと面倒な気もしますが、適切な相続のためにも、しっかり覚えておきましょう。
2-2.特別代理人として母親を選べない
未成年が相続人となる場合、特別代理人を選定する必要がありますが、誰でも良いわけではありません。上記でも触れましたが、そもそも特別代理人を設ける理由は、親が相続を独占してしまうのを防ぐためです。
ですので、出産後の遺産分割では母親は子どもの特別代理人になることはできません。これは、「利益相反の関係」といわれ、子どもの損益が親の利益となってしまう関係だからです。つまり、子どもの利益を守り、母親が利益を独占しないために設けられた制限なのです。
また、もし胎児が双子だった場合、特別代理人が2人必要とはなりません。あくまでも子どもの代理人となりますので、子どもが2人いる場合でも特別代理人は1人で問題ありません。
2-3.特別代理人にふさわしい人とは
特別代理人として認められる人とはどのような人なのかというと、利益のない第三者であれば特別代理人に選任することができます。重要なのが、親戚であっても特別代理人になれない場合があるのです。
例えば、相続権がある親戚の場合は母親と同じく、自分の利益を優先させる可能性がありますので、相続権がないことが大前提となっています。
また、特別代理人を務める場合、その子どもが不利益となることを避けなければいけません。そこで、何が不利益になるのかを見極めるためにも、相続や法律に関してある程度の知識を持っていることが望ましいとされています。