賃貸アパート経営による相続対策では賃貸割合に要注意!

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平成27年1月の相続税改正前後から、各地で相続税対策を始める資産家の方が増えてきましたが、中でも以前から盛んに行なわれているのが「賃貸アパート経営」です。
ただ、この賃貸アパート経営による相続税対策、実は空き室が多いとかえって逆効果になる可能性もあり注意が必要です。

1.首都圏で賃貸アパートの空室率が急増中!

不動産調査会社タスの調査結果によると、2015年夏ごろから、首都圏で賃貸アパートの空室率が急増していることが判明しました。2015年5月時点では空室率が平均的に30%前後でしたが、2016年3月には、神奈川県の空室率は35.54%と最高値を更新、東京23区でも33.68%、千葉県では34.12%と過去最悪の水準を更新しました。埼玉県は30.90%、23区以外の都内は31.44%ですので、東京23区、神奈川県、千葉県での増加が際立っています。これは、2015年(平成27年)1月の相続税増税に伴い、相続税対策としてのアパート建設が増え空室率が増加したのが原因とされています

現在は空前の低金利状態が続いており、2016年2月にはマイナス金利が導入され、融資を受けやすくなっています。銀行としても、日銀にお金を預けておいたら一部がマイナス金利ですので、融資に回したいところですが、大企業は内部利益が留保されて借り手も少ないため、個人向け融資を強化しており、2015年の新規貸出額は前年比11%増の約3.1兆円で過去最高を更新しました。そして、アパート開発事業者は建設需要の増加に押されて営業を強化しており、さらにアパート建設を推し進めています。

一方で、平均的な国民の可処分所得は増えておらず、少子高齢化もあり、賃貸需要はほとんど増えていません。需要は同じまま供給だけが急増したため、空室率が急上昇してしまったのです。

都心部での空室率が増加すれば家賃が下がりしばらく経てば都心に人口が流入してきますが、郊外の人口が減少し空洞化を招きます。専門家によると、都市の荒廃を防ぐための空室率の限界水準は30%とされていますので、それを上回る状態が続くと街の荒廃を招くおそれがあります。

2.賃貸経営と相続税の関係

2-1.賃貸アパート経営が相続税対策になる理由

そもそもなぜ賃貸アパート経営が相続税対策になるのでしょうか。それは、賃貸アパートがあると、土地と建物それぞれ評価額が減額されるからです。

土地の評価額は次式で計算されますが、賃貸割合100%(空室率0%)であれば、平均的に2割程度減額されます。

土地の評価額=自用地評価額×(1-借地権割合60~70%×借家権割合30%×賃貸割合)

また、建物の評価額は次式で表されますが、賃貸割合100%(空室率0%)であれば、3割減額されます。

建物の評価額=固定資産税評価額×(1-借家権割合30%×賃貸割合)

たとえば、1億円の評価額の土地を持っている場合、何もしなければ課税価格1億円として相続税がかかります。
そこで、さらに1億円のローンを利用してアパート建築をした場合、土地の評価額は約8,000万円、アパートの評価額は約5,000万円、そしてローン1億円の債務控除があり、最終的な課税価格は約3,000万円になります。
具体的な計算については下記を参照ください。

【参照】アパートローンを活用した相続税の節税対策

2-2.空室があると、その分は減額されない

ところで、上記の土地と建物の評価額の式で非常に重要なのが、「賃貸割合」です。
賃貸割合100%(空室率0%)であればフルで減額されますが、逆に賃貸割合0%(空室率100%)だと全く減額されなくなってしまうのです。全室が空き室という極端なケースはあまりないかもしれませんが、なかなか部屋が埋まらず半分しか借り手がなければ、減額効果も半分になってしまいます。

たとえば、ある賃貸アパート(総戸数:10、各戸の面積:20㎡)で、相続が開始した時点で10部屋中4部屋が空室だったとします。すると賃貸割合は次のようになります。
(6部屋×20㎡)÷(10部屋×20㎡)=0.6
つまり、賃貸割合は60%となります。

相続税の評価額は相続発生時に不動産がどんな状態であったかで決まりますので、現在は部屋が埋まっていても、何十年かして実際に相続が発生した時に、部屋が埋まっていなければ、予想したほどの減額効果は期待できなくなります。

ただし、ちょうど入居者が変わるタイミングで空き室になっていたという場合は、賃貸されているものとして評価されます。
「継続的に賃貸されてきたもので、相続があったときに一時的に賃貸されていなかったと認められる」ときは、賃貸されているものとして相続税評価を行うことができます。

このとき、一時的に賃貸されていなかったと認められるかどうかは、次のような項目から総合的に判断されます。

  • (1)各独立部分が相続があった前から継続的に賃貸されてきたものかどうか
  • (2)賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われたかどうか
  • (3)空室の期間、他の用途に供されていないかどうか
  • (4)空室の期間が相続があった前後1ヶ月程度であるなど一時的な期間かどうか
  • (5)相続があった後の賃貸が一時的なものではないかどうか

空き部屋 空き家

3.節税対策ではなく事業という認識を

3-1.需給バランスを無視した節税対策の結果

このアパート経営による相続税対策は、当初お金を貸したい銀行と、アパートを建てさせたいハウスメーカーがタッグを組んで地主を中心に営業に回ったことによって、あっという間に広がっていきました。確かに、説明だけ聞くと非常に有効な節税対策だと感じますから、実際に多くの地主がこのアパート経営に乗り出しました。

今考えると、そもそもここが一番の問題点でした。
というのも、地主の多くは農家の人も多く、不動産については全くの素人でした。つまり、不動産投資の経験も知識もないまま、ハウスメーカーと銀行から言われるがままにアパートを建ててしまったのです。

通常、不動産投資家がアパートを購入する際には、周辺の賃貸相場や供給状況を念入りに調査し、利回り計算を行なって綿密な事業計画を立てた上で購入します。つまり、賃貸経営を一つの「事業」として捉えてしっかりとした計画を立てています。
けれども、相続税対策目的でアパート経営を始めた地主の多くは、事業という意識はなく、単なる「節税」としか考えていないため、更地にアパートを建築する際に、本当に賃貸の需要があるのか、という点をほとんど無視しているのです。

このように、需給状態を無視した賃貸アパートが全国各地に乱立したため、あっという間に供給過多の状態になってしまいました。空室率の状況は冒頭で述べたとおりです。

では、このような供給過多の状況が続くと、どのようなリスクが考えられるのでしょうか。

3-2.アパート経営は利益を出してこその事業

このような供給過多の状況が続くと、当然アパートに空室が目立つようになり、滅多に満室の状態にならなくなります。地主の中には銀行から借金をしてアパートを建築しているケースもあるため、予定収益が減少すれば返済にも影響が出てきます。

さらに、アパートやマンションは一定周期で、屋上防水や鉄部塗装、外壁タイルの張替えなどの「大規模修繕」を実施していかなければなりません。そしてその原資となるのが家賃収入です。けれども、十分な収益が上がらなければ、大規模修繕に必要な費用を積み立てることができず、結果として大規模修繕の時期に止む無くアパートやマンションを売却せざるを得なくなる場合もあります。

3-3.将来インフレかデフレかも重要な指標

あとは、今後の経済の先行き次第でもありますが、インフレに傾くかデフレに傾くかでアパート経営の意味も大きく変わってきます。

アベノミクスがデフレ脱却・インフレ率2%の達成を宣言して、黒田バズーカとして知られる「異次元の金融緩和」を何度も行いました。さらに2020年の東京オリンピックによる経済効果を考えると、今後は今よりデフレになることは考えにくいです。
むしろ、一定の経済成長率が確保できれば、日銀は今のように国債を買わなくなるでしょうから、オリンピック閉幕後に金利が上昇しインフレになる可能性もあります
不動産資産はインフレ対策としては非常に有効なため、今後日本経済がインフレに向かうのであれば、現金を不動産化して所有しておく事は、非常に有効な対策となります

アップダウン

一方で、2016年6月23日にイギリスで国民投票によりEU離脱が決定されましたが、このように想定しえないイベントにより世界中の景気が低迷し再び円高が進行しデフレ傾向が強まる可能性もあります。そうなると、せっかく購入した土地や建物の価格が下がり、損をしてしまうかもしれません。

【参照】空き家の3大リスクと相続に向けた対策:売る、貸す、維持管理

まとめ

このように、アパート経営による相続税対策は、「節税」をメインに考えてしまうと、失敗するリスクが非常に高くなります。そのため、もしもアパート経営による相続税対策を検討する際には、必ずその場所において、あとどの程度の賃貸需要が残っているのかを綿密に調査確認した上で実施するよう心がけましょう。また、将来の景気動向を判断し、不動産価格が上昇するのかどうか見極めることも大切です。

相続税が発生する方で、賃貸経営をしており賃貸アパートや賃貸マンションが相続財産に含まれている場合があります。これらも自宅などと同様に、適正な相続税評価額としての金額を算出し納税しなければなりませんが、アパートやマンションなどの賃貸物件は、特例のようなものがあり、その評価の際に一定の金額を通常の評価額から引き下げられるようになっています。
これらの計算は税理士に任せれば処理してくれますが、減額される要素を予め知っておかないと、最悪の場合評価が引き下げられないこともありますので、事前に注意が必要です。

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