贈与契約書の書き方と記載例、収入印紙・印鑑などの疑問も解決

1.はじめに
平成27年に相続税法の改正により相続税の課税が拡大されました。それに伴い、生前贈与を行い、相続財産を減額する方策が注目を集めています。
しかしながら、贈与の際に用いる契約書はどのようにして記載するのかついては具体的なことは法律には規定されていません。
そこで、贈与契約書の書き方についてサンプルを示しながら解説します。
2.贈与契約書の実例①通常パターン
文例 | 注 | |
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| ||
贈与契約書 | ※贈与契約書の用紙はどのような紙でも構いません。またサイズも同様です。 ←表題は発揮と贈与契約書とします。 | |
甲野一郎(以下「甲」という。)と甲野次郎(以下「乙」という。)は、本日以下の内容の合意を締結した。 | ←書き易さからすると甲が贈与者、乙を受贈者とするのがお勧め | |
記 | ||
第1条 甲は、乙に対し、別紙物件目録記載の財産を贈与することを約し、乙はこれを受諾する(以下「本件贈与契約」という。)。【※2】 . 第2条 甲は、本契約書調印後速やかに、別紙物件目録2の記載の預金又は貯金について、乙名義に変更する手続きを行う。 . 第3条 本条に定めなき事項については甲乙協議してこれを決する。以上のとおり本契約書が真正に成立したことを証するため、甲と乙は、本契約書を記名押印の上、2通作成し、1通づつ所持するものとする。 【※3】 平成○○年○月○日 甲 甲 野 一 郎 印 | ||
乙 . 甲野次郎法定代理人親権者父 甲 野 太 郎 印 甲野次郎法定代理人親権者母 甲 野 花 子 印 | ||
(別紙) | ||
物 件 目 録【※4】 | ||
1 現 金 金100万円 . 2 預 金 銀 行 名 ×× 支 店 名 ×× 種 別 普通預金 口 座 番 号 1234567 口 座 名 義 人 甲野一郎 . 3 郵 便 貯 金 種 別 通常貯金 記 号 番 号 123-45678 |
2-1.贈与契約書を作成する意味
2-1-1.贈与契約の撤回
贈与契約の撤回とは、各当事者が贈与契約後に一定の期間においては事由に契約を白紙撤回できる行為のことをいいます。
そして、民法上、贈与の撤回が認められているのは、書面によらない贈与の場合には、履行が終わった時までと規定されています。この履行が終わったとは、不動産の贈与の場合には引渡し又は登記が終了した時点とされ、それ以外の財産の場合には引渡しが終了した時点とされています。
2-1-2.撤回されないために贈与契約書を作成する。
書面による贈与の場合には契約書の取交し以後は、撤回はできません。したがって、契約書を取り交わすことで、贈与行為の不安定さを払しょくする効果を生じさせる必要があるのです。
2-2.収入印紙【※1】
2-2-1.いくらの印紙を貼付するのか
金銭の贈与の場合には、印紙税は非課税ですので、不要です。
2-2-2.各贈与と収入印紙
なお収入印紙と贈与の対象物との関係は以下の表のとおりです。
贈与対象 | 収入印紙 | 備考 |
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現金・預金 | 不要 | 印紙税非課税 |
不動産 | 200円 | 不動産の価格を契約書に書かないこと |
株式等有価証券 | 不要 | 印紙税非課税 |
2-3.条項【※2】
贈与契約書の条項は、本例でいれば、贈与者が現預金を贈与することと、受贈者がこれを受け入れることを書きます。なお、必要があれば、その後に贈与の履行方法を記載します。
2-4.成立年月日、署名押印欄【※3】
2-4-1.署名押印欄について
成立立年月日は贈与契約書の署名押印日を記載します。また印鑑については、特に認印でも問題はありませんが、後日の証拠価値を高めるために実印で行うのも一案です。
2-4-2.受贈者が未成年者の場合
受贈者が未成年者の場合には、基本的には法定代理人である親権者が署名押印をすることになります。そして、親権同時行使の原則の下、通常は父と母を両名の署名押印を入れます。その際には、以下のとおり記載します。
(未成年者氏名)法定代理人親権者父
×× ×× 印
(未成年者氏名)法定代理人親権者母
×× ×× 印
2-5.物件目録の記載(現金・預貯金)【※4】
まずは、現金から記載します(通常「1,000,000円」ではなく、「100万円」のような表記を行います)。
次に銀行預金ですが、
①銀行名
②支店名
③種別(普通預金、当座貯金など)
④口座番号
⑤口座名義人の順に記載します。
最後に、郵便貯金ですが、
①種別
②記号番号
③口座名義人の順に記載します。
3.贈与契約書の文例②《負担付贈与》
文例 | 注 | |
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贈与契約書 | ||
甲野一郎(以下「甲」という。)と甲野次郎(以下「乙」という。)は、本日以下の内容の合意を締結した。 | ||
記 | ||
第1条 甲は、乙に対し、別紙物件目録記載の不動産を贈与することを約し、乙はこれを受諾する(以下「本件贈与契約」という。)。【※2】 | ← 登記原因(売買なのか、贈与なのか、交換なのか)は明確に書きます。(登記申請のため) | |
第3条 乙は、第1条の贈与を受けた負担として甲が債務者である債権者〇〇金融公庫(現独立行政法人××機構)に対する金銭消消費貸借契約(平成○○年〇月○日付、平成○年〇月○日時点での残債務額××××円)について債権者の同意が得られることを条件として、甲の代わりに支払うものとする。【※3】 | ←この条項が「負担」です。 住宅ローンについては、第三者弁済をしようと思うと銀行等の同意が必要ですので、その旨を加えております。 | |
第4条 甲は、乙が第3条の債務の履行を怠ったときは、本件贈与契約を解除することができる。 | ←受贈者が負担を履行しなかった場合の解除条項です。 | |
甲 甲 野 一 郎 印 | ||
(別紙) | ||
物 件 目 録【※4】 | ||
1 土 地 |
文例②は負担付贈与です。負担付贈与とは、受贈者が負担を履行することを条件として贈与する契約です。
3-1.収入印紙について【※1】
3-1-1.印紙税の貼付額について
収入印紙の貼付額は、不動産の価額を記載しないのであれば、200円で足ります。この場合に注意すべきは、不動産の価額を記載すると、その額が印紙税の基準となってしまいますので、書かないようにご注意ください
3-1-2.印紙税の貼付方法(消印の方法も含む)について
印紙の貼付方法は印紙税法で定められています。具体的には下記のとおりです。
①が正しいです。印紙の上に押印をするというのが正しい消印の仕方です。
なお、契約当事者のどちらか一方が押印していれば足ります(双方の押印は不要です。)。
②は、誤りです。印紙の上に「○印」と書くのみでは不十分です。
また、③も誤りです。印紙の上に押印してください。
さらに、④のように印紙の上に斜線を引くことも誤りです。印紙の上に、「押印」してください。
3-2.贈与の記載【※2】
不動産の場合には登記することが求められておりますので、登記原因をはっきりと書く必要があります。登記手続ができなくなります。
3-3.負担付贈与の負担について【※3】
この条項が負担付贈与の「負担」部分です。
なお、「負担」については、特に定めはありませんので、例えば、特定人を扶養するといった内容でも可能です。
この場合には、
という条項になります。
3-4.物件目録の記載(不動産)【※4】
不動産の物件目録は、不動産登記申請手続の添付書類となるので、登記事項証明書の甲欄のとおり書き写します。したがって、登記事項証明書は取得しておく必要がある書類です。
土地であれば、
①所在 ○○市○○町△丁目
②地番 〇〇番
③地目 ○○
④地積 456・78平方メートル のような順番に記載します。
建物であれば、
①所在 ○○市○○町△丁目〇〇番地
②家屋番号〇〇番
③種類 居宅
④構造 鉄筋コンクリート2階建
⑤床面積 1階 34・00平方メートル
2階 12・34平方メートル のような順番で書きます。
なお、2階以上の建物の場合には階数ごと床面積を忘れないようにしてください。
4.贈与契約書の文例③《死因贈与》
分例 | 注 |
---|---|
死因贈与契約書 | ←印紙不要です。 ←表題は「死因贈与契約書」が一般的です。 |
甲野一郎(以下「甲」という。)と甲野次郎(以下「乙」という。)は、本日以下の内容の合意を締結した。 | |
記 | |
第1条 甲は、乙に対し、甲の死亡を停止条件として、別紙物件目録記載の株式(以下「本件株式」という。)を乙に贈与することを約し、乙はこれを受諾する(以下「本件贈与契約」という。)。【※1】 | ← 登記原因(売買なのか、贈与なのか、交換なのか)は明確に書きます。(登記申請のため) |
甲 甲 野 一 郎 印 | |
(別紙) | |
物 件 目 録【※3】 | |
1.株 式 |
【文例3】は死因贈与です。
4-1.死因贈与について
死因贈与とは、贈与者が死亡したことを条件として贈与の効力が生じる贈与契約をいいます。同じような制度として遺贈(遺言者が遺言者の死亡を条件として財産の移転の効力が生じる行為)があります。
遺贈との違いは、遺贈が遺言者の一方的な行為であるのに対し、死因贈与は、贈与者と受贈者との間の契約である点て大きく異なります。
4-2.死因贈与条項【※1】
死因贈与の効力発生の時期は、贈与者の死亡時ですので、「贈与者の死亡により」とか「贈与者の死亡を停止条件として」などという表現で死因贈与条項を構成します。
4-3.執行者条項【※2】
民法上、死因贈与は遺贈の規定を準用しており、遺贈の場合には執行者(遺言執行者)を選定することができることから、死因贈与の場合にも執行者を選定することができます。なお、執行者の指定がないと、死因贈与により実際に財産の名義を変更する場合には、相続人全員の名義で移すことになり、非常に手間がかかります。したがって、死因贈与の場合には執行者を選定しておくべきです。
4-4.財産目録【※3】
4-4-1.株式
株式(上場株式)の場合には、最低限、銘柄と株式数を特定すれば十分です。
4-4-2.ゴルフ会員
ゴルフ会員権の場合には、管理会社名、権利の種類、証券番号で特定します。
5.贈与税対策
贈与をする場合にとって、贈与税を回避しつつ、相続税を圧縮する目的でなされることが多いため、贈与税対策も十分に行っておく必要があります。
そのための方策として
- 基礎控除以下又は基礎控除ギリギリで贈与を行うこと
- 定期贈与を判断されないこと
- 相続税の相続開始前3年間の贈与加算に注意すること
が挙げられます。
5-1.対策①基礎控除以下又は基礎控除ギリギリで贈与を行うこと
贈与税の基礎控除は受贈者一人あたり年間1,100,000円です。
相続税との関係で、例えば、相続人4人で、各人に対し1,100,000円を5年間にわたり贈与した場合(このような贈与を「暦年贈与」といいます。)には、1,100,000円×4人×5年間=22,000,000円の相続財産を無税で配分できます。10年ならば、1,100,000円×4人×10年間=44,000,000円となり、非常に大きな相続税対策となります。
しかし、このような贈与も証拠がなければ、後で税務署に対し贈与の事実を証明できなくなります。そこで、贈与契約書を毎年作成して、両当事者で保管しておくのです。
また、贈与の事実が税務署から否認されるケースとして、贈与した金銭を受贈者が実質的に支配していなかったという場合が多々あります。
贈与契約書のみで、実際には財産を動かしていなかった場合です。このような指摘を受けることと回避するためには、現金の手交ではなく、口座間の取引にして、しっかりと記録しておくことを有用です。
なお、贈与契約書の完備と口座間取引に加えて、基礎控除をかすかに超える贈与額の贈与を行い、毎年贈与税の申告を行うことで、税務署に対し贈与の事実を既成事実化しておく方法もあります。
5-2.対策②定期贈与と判断されないこと
定期贈与とは、毎年など定期的に贈与を行うことを約する贈与契約のことです。贈与税との関係では、暦年贈与として行っていたものが定期贈与であると認定されてしまうことがあります。
例えば、先ほどの、相続人4人で、各人に対し1,100,000円を5年間にわたり贈与した場合には、1,100,000円×4人×5年間=22,000,000円を配分したとします。この場合に定期贈与と認定されてしまうと、受贈者一人当たり1,100,000円×5年間=5,500,000円の贈与受ける権利を初年度(贈与を初めて受けた年)に贈与受けたと認定されてしまい、5,500,000円より若干少ない金額で課税されてしまうことになるのです。
このような認定がなされるケースとして初年度は贈与税の契約書を作成したものの、次年度以降は作成指定なかった場合があります。贈与税の契約書は毎年作成しましょう。
5-3.対策③相続税の相続開始前3年間の贈与加算に注意すること
相続税法上、相続開始前3年間において贈与によって財産を取得した者が相続又は遺贈により財産を取得した場合には、その者の相続税の計算上、相続開始前3年間の贈与額を加算するという制度があります。
この規定の注意すべきところは、加算される贈与額は贈与税の基礎控除以下の贈与額であったとしても加算されるというところにあります。したがって、先ほどの相続人4人で、各人に対し1,100,000円を4人に5年間にわたり、合計22,000,000円贈与した場合には、贈与開始時から5年後に相続が発生し、これらの相続人が相続により財産を取得したとすれば、相続人一人当たり1,100,000円×3年間=3,300,000円分の贈与が加算されることになります。
これを回避するためには、例えば、暦年贈与を行うのは、子ではなく孫(相続人ではありません。)に対し行い、相続が発生した場合、その孫は相続財産を受け取らず、また遺贈も受けないということにしておけば、加算されることはなくなるのです。
5-4.その他注意点
贈与は無償で贈与者が受贈者に与えるものですので、他の利害関係人(例えば、贈与を受けない子供)に対し十分な説明し、理解してもらうことが必要です。贈与はその後の相続と密接に関連していますので、贈与でこじれると相続でもその問題は必ず、円滑な遺産分割の障害になります。この点にもご配慮いただければと思います。
6.まとめ
以上が贈与契約書の書き方の解説でした。贈与は贈与税との関係や、その後の相続の対策と密接に関連しています。
したがって、税理士・弁護士など税法や法律の専門家のアドバイスを受けながら進めることを強くお勧めします。