小規模宅地等の特例の要件、相続税評価など基本を徹底解説!
小規模宅地等の特例は、大きな節税効果がある制度で、宅地の評価額を最大8割減額することができます。特例の対象となる宅地…[続きを読む]
税金に関する法律は社会の変化や時代の流れなどに合わせて毎年改正されています。
2019年度においては、税制改正法が3月27日に可決、成立しました。これにより相続税・贈与税がどう変わっていくのか解説します。
目次
今年の税制の改正点は主に次の通りです。
それでは改正内容と適用開始時期をそれぞれ確認していきましょう。 相続税と贈与税のどちらにも関係するもの、相続税または贈与税のみに関係するものに分けて解説します。
まずは、相続税、贈与税どちらにも関係する改正のポイントから解説します。
2018年度にできた、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(通称:円滑化法)」の個人事業者バージョンができました。
個人事業者が事業用に使用していた財産を、相続または贈与により譲り受けた人が、事業を承継する場合には事業用資産にかかる相続税または贈与税の納税が猶予されます。
中小企業の場合に対象となる財産は株式でしたが、個人事業者の場合には事業用資産が対象(※)となっており、詳しくは次に該当する財産です。
※ただし、不動産貸付業で使われていた土地や建物は対象外
2019年1月1日~2028年12月31日に相続または贈与される事業用資産について適用されます。
納税猶予を受けるための要件となっている承継計画の提出は、2019年4月1日~2024年3月31日に都道府県に対して行います。
2018年6月に公布された民法改正により、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられることになりました。
これにより相続税、贈与税に設けられている成人年齢が関係する各種制度や特例などの適用要件が改正されます。
いずれも20歳と定められている箇所が18歳に変更されます。
2022年4月1日以後の相続または贈与について適用されます。
次に、相続税の改正ポイントについて見てみましょう。
小規模宅地等の特例は、適用を受けることができれば評価額を最大8割減額することができる節税効果の高い制度です。
これが今回の改正により、相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地等が適用要件から除外されます。
ただし、その宅地等の上にある減価償却資産の額が、その宅地等の相続時の価額の15%以上である場合には、相続開始前3年以内であっても適用可能です。
これは節税目的で、相続開始直前に駆け込みで事業用宅地等を購入することを防止するための改正です。
2019年4月1日以後の相続について適用されます。
ただし、同日前より事業用として使用されている宅地等については適用されません。
2018年7月に公布された民法改正により、配偶者居住権という権利ができました。
これは被相続人が所有していた建物に一緒に住んでいた配偶者が、被相続人が死亡した後も、一生その建物を無償で使用することができる権利です。 それに伴い、相続税における財産評価の方法も定められました。
配偶者居住権に関する評価方法は以下の通りです。
現時点では未定ですが、民法改正の施行日が2020年4月1日であることから、税制についても同日からの適用が想定されます。
制度の2年間延長と、今まではなかった受贈者の所得制限が設けられました。 受贈者の前年の合計所得金額が1,000万円を超える場合には、適用を受けることができなくなります。
また、受贈者が30歳に達した場合でも一定の要件を満たす場合には、教育資金管理契約は終了しないものとされ、30歳以上の就学継続にも配慮されるようになりました。
2019年4月1日以後の贈与について適用されます。
30歳以上就学継続の要件については、2019年7月1日以後に受贈者が 30 歳に達する場合について適用されます。
教育資金の一括贈与と同様に、制度の2年間延長と、受贈者の前年の合計所得金額が1,000万円を超える場合には、適用を受けることができなくなります。
2019年4月1日以後の贈与について適用されます。
これは譲渡所得に関する改正ですが、相続を起因としている制度なのであわせて解説します。
通称、空き家特例と呼ばれている「被相続人の居住用財産を売ったときの特例」の適用要件が緩和されます。
この特例は、被相続人の居住用財産を相続した相続人が、その居住用財産を売った場合において一定要件に該当する場合には、その譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除できる制度です。
この被相続人の居住用財産に該当するのは、被相続人が死亡の直前まで住んでいた場合であり、老人ホームに入所してそのまま死亡した場合などには、空き家特例は適用できませんでした。
しかし現実的には、死亡直前は老人ホームに住んでいることも多いことから、今回の改正では一定要件に該当する場合には、老人ホームに入所していて住んでいなかった居住用財産であっても、空き家特例が適用できるようになります。
【適用時期】
2019年4月1日以後の譲渡について適用されます。
最後に、今回行の改正は、納税者にとって有利なのでしょうか不利なのでしょうか?一覧で見てみましょう。
改正前の制度で相続シミュレーションをしている人、相続対策をこれから考える人は特に必見です。
改正事項 | 有利 or 不利 |
---|---|
個人事業者の事業用資産に係る納税猶予制度の創設 | 有利 |
成人年齢が18歳に引き下げられたことへの措置 | 有利 |
小規模宅地等の特例の適用要件の見直し | 不利 |
配偶者居住権の評価方法の新設 | 有利 |
教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与非課税措置の見直し | 不利 |
空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の見直し | 有利 |
成人年齢引き下げへの措置、配偶者居住権については、他の制度のように直接税額に関係するわけではありません。
しかし、相続時精算課税制度が使える年齢が2年早まる点や、配偶者居住権ができることで遺産分割の選択肢が増える点など、納税者に有利な点の方が多いと考えられます。
今回解説した様々な改正の中でも「個人事業者の事業用資産に係る納税猶予制度の創設」は、2019年度税制改正の柱となっているものです。事業用資産にかかる相続税、贈与税が100%納税猶予されるので、要件に合う場合には利用したい制度です。
近年、事業承継に関する税制改正が盛んに行われており、これもその流れに沿った1つといえるでしょう。
税制は毎年変わります。相続税・贈与税対策は最新の税制を使いこなせる、知識と経験を持った税理士に依頼しましょう。