サブリース問題が急増中!安易な相続税対策に注意を

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 最近、サブリース形態の不動産運営についてトラブルが増加しています。新聞やテレビで報道されることも増えており、目にした人も多いでしょう。サブリースについて、メリットやその問題点、利用にあたっての注意点などを解説します。

1.サブリースとは?

1-1.サブリースの概要

サブリースとは、ひとことでいえば、「又(また)貸し」、「転貸」です。

アパート建築会社や不動産管理会社(以下、「事業者」といいます)が、住宅のオーナー(所有者)から物件を借り上げ、入居者に転貸する方式のことをいいます。
住宅のオーナーは事業者と賃貸契約を結び、入居者が支払う賃料から、管理費や維持費などのコストを差し引いた残額を受け取ります。事業者は運営管理全般および入居者募集も行います。アパート建築会社が事業者を兼ね運営管理も行うケースや、アパート建築会社の子会社が事業者となり運営管理を行うケースなどが、比較的よく見られます。

1-2.サブリースと「一括借り上げ」との違い

サブリースと一括借り上げは同じ意味で使われることが多いですが、一括借り上げは、事業者がオーナーから物件を全室借り上げることのみを指します。
しかしながら、実際のサブリース契約では、「事業者が全室借り上げたうえで、転貸する」ことが多くなっています。またそもそも、「全室借り上げることがサブリース契約の前提」となっているケースも多いため、一括借り上げをサブリースと同義ととらえる傾向が強くなっています。

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1-3.オーナーにとってのメリット

サブリースの、オーナーにとってのメリットには、主に次のようなものがあります。

1-3-1.一定期間の家賃保証がある

まず何といっても、事業者による一定期間の家賃保証がある点が挙げられます。サブリース契約を結ぶオーナーの多くは、この家賃保証に魅力を感じているのではないでしょうか。
不動産オーナーのメリットは「何もしなくても家賃が入ってくる」点にありますが、さらに、家賃が「長期間に渡って減らずに安定的に入ってくる(ことが保証されている)」のであれば、「始めてみよう」と思う人が多くなるのもうなずけます。

1-3-2.オーナー自身の管理の負担が小さい

そしてもうひとつ、オーナー自身が、賃貸管理や入居者管理などの煩わしい作業を行う必要がなく、運営管理全般を事業者に「お任せ」できることも大きなメリットといえます。

例えば、会社員や公務員であれば、平日は本業があるため、本来オーナーがなすべき運営管理業務を行うことは難しいでしょう。しかし、サブリースでは、煩わしい運営管理業務はすべて事業者がやってくれます。入居者同士のトラブルや家賃滞納などへの対応も、事業者にお任せできます。忙しい会社員や公務員にとっては、サブリースは「ラクして儲かる」魅力的な運営管理方式に見えるかもしれません。

1-4.どんな人が契約している?その目的は?

サブリース契約を結んでいる人の多くは、「相続税対策が目的」といわれています。特に、2015年1月に相続税の基礎控除が引き上げられてから、相続税対策でアパートを建てるオーナーが急増しましたが、そのアパートの管理をサブリース方式にしているケースが多くなっています。
もちろん、若い人では、単純に副収入目的で契約している人もいます。なお、同じ不動産投資でも、アパート経営と投資用マンション経営とは趣が少し異なります。

そして、サブリース契約を結んでいる人の多くが、不動産投資の初心者といわれています。「親の土地を相続したけれど、対応に困り、アパート建築会社の提案のままにアパートを建て、運営管理をサブリース方式にした」というケースが多いようです。そのため、トラブルが多く発生しています。次で詳しく見ていきます。

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2.サブリース問題

サブリースに関するトラブルは、近年急増しています。具体的には、次のような事例が見られます。

  • 高齢単身の親が、営業マンが何度もしつこく家に来たため、半ば強引に契約されてしまった。
  • 家賃保証があると聞いていたのに、家賃が減額された。
  • 家賃入金が何カ月も遅れている。
  • 空室を理由に家賃をゼロにされた。
  • 家賃保証期間を短縮された。
  • 突然、サブリース契約を打ち切られた。
  • 入居者募集を一生懸命してくれず、空室が続いている。
  • 事業者が倒産してしまった。

サブリース問題は、2013年には国会で取り上げられるなど、次第に知られるようになってきました。このため国土交通省も解決に向け乗り出し、一昨年2016年9月に、各業界団体の長宛に「サブリースに関するトラブルの防止に向けて」という通達を出しています。しかしながら、十分に改善したとは言い切れないのが現状です。

3.サブリースの問題点

サブリースには多くの問題点があります。詳しく見てみましょう。

3-1.勧誘時の説明が不十分

最も多いのが、勧誘時の説明が不十分であることでしょう。通常、サブリースにおける家賃保証期間は5年や10年など有期で、その後は「経済情勢の変動等に応じて見直す」と明記されているケースがほとんどです。

しかしながらこの後段の部分を説明せず、あたかも「家賃保証がずっと続く」のようにオーナーに思わせる営業マンもいます。このため、家賃保証期間はトラブルが起きないものの、5年や10年が経過して、事業者から賃料減額請求があって初めてトラブルが発生するケースも多いです。

3-2.宅建業法の適用を受けない

賃貸住宅に入居するとき、マンションを買ったときなど、不動産業者から宅建業法(宅地建物取引業法)に基づく重要事項の説明を受けた人も多いでしょう。

しかしながら、建築提携型サブリースの場合、宅建業法は適用されません。サブリースは、「宅地建物の売買・交換または売買・交換・賃借の代理もしくは媒介」のいずれにも該当しないからです(ただし、購入勧誘型サブリースの場合には宅建業法の適用はあります)。

3-3.賃料減額がある

サブリースには賃料減額があります。「30年一括借り上げ」と謳っていても、「=30年間減額なしの家賃保証ではない」と思っていなければなりません。

先ほどのとおり、契約書のどこかに必ず「一定期間経過後の家賃見直し」について書かれています。加えて、サブリースの事業者は、借地借家法に基づき家賃の減額請求をすることができます。なぜなら事業者は借主だからです。残念ながら、賃料減額に関するトラブルは、多くのオーナーがこの点を勘違いしていることが原因となっています。

3-4.一方的な契約解除も

事業者からの唐突な契約解除も多く見られるトラブルです。事業者の採算を考えると、実はアパート建築の時点でかなりの利益が出ているため、その後のサブリース契約は事業者にとってはさほど重要ではなく、中途解約しても収支にはさほど影響はありません。

加えて、これも賃料減額と同じですが、「事業者側からの中途解約が可能」であることについても、契約書のどこかに必ず書かれています。また、普通建物賃貸借契約の面からも、事業者側からの契約解除は法的には何ら問題はありません。オーナーは、このことを認識しておく必要があります。

3-5.原状回復費用や修繕費用の発生

もう一点、サブリース契約時に見込んでいなかった原状回復費用や修繕費用(そもそも不要なものを請求される場合もある)が発生し、オーナー負担となることがあります。
親切な営業マンであればこの点についても契約時に説明してくれますが、説明を省いていたり、この費用を反映せずに収支計画表を作成していた場合などは、収支が当初予定どおりに推移せず、トラブルに発展することになります。

3-6.サブリース形式が抱える構造的な問題点

しかしながら、サブリースの問題点は、事業者や被害を受けたオーナーだけにあるわけではありません。不動産投資においてサブリース方式を用いる人が多いのは、現在の日本をとりまくさまざまな問題が背景にあるからです。例えば、次のようなものが考えられます。

3-6-1.2015年からの相続税基礎控除引き上げと、根強い相続税対策ニーズ

先ほども触れましたが、サブリース問題の根幹にはやはり相続税対策ニーズがあります。そして、相続税対策としてのアパート経営には一定の潜在的ニーズが根強くあるため、サブリース問題自体もなかなか鎮静化しないかもしれません。

3-6-2.超低金利による運用難

2016年2月からのマイナス金利政策導入による超低金利および運用難も見逃せません。預金利息に代わる収入をアパート経営など不動産投資に求める傾向が強まっています。

3-6-3.超高齢社会到来と、公的年金不安

日本人の平均寿命が延び、すでに超高齢社会が到来していますが、一方、公的年金財政への不安は根強くあり、「年金代わり・年金代替」を求めて不動産投資に走る人が増えています。

3-6-4.正規非正規格差拡大と、副収入への期待(副業認可拡大傾向)

正規非正規格差拡大や副業認可の拡大傾向で、家賃収入を副収入として期待する人も多くなっています。

3-6-5.金融機関の不動産融資拡大姿勢

近年の金融機関の不動産融資の拡大姿勢も不動産投資を後押しし、結果としてサブリーストラブルが増加する要因となっています。

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4.契約する上での注意点

4-1.契約書の確認

まず何よりも、契約書をしっかり確認することです。重要なことはたいてい小さな字で書かれていますが、一字一句逃さずチェックしなければなりません。
契約書には専門用語も多いので、理解することが難しいという場合は、事前に契約書を専門家に見てもらうのもよいでしょう。国土交通省の「サブリース住宅原賃貸借標準契約書」も確認しておきましょう。

【参照サイト】国土交通省:『サブリース住宅原賃貸借標準契約書』について

4-2.保証料の更新や解約に関する事項

保証料の更新および見直し期間、解約に関する事項(予告期間や違約機関の有無など)、賃料免責期間にも注意する必要があります。敷金や礼金の取扱いも確認しておきましょう。

4-3.収支計画表の作成

収支計画表は通常、事業者が作成しオーナーに提示しますが、問題はその精度です。ほとんどの場合、甘い見積もりで作成されています。空室率想定が甘かったり、後で必要になる費用が反映されていなかったりします。

条件を精査し、事業者に遠慮なく再作成を依頼しましょう。自分で作り直すのがベストですが、物理的に難しい場合は、契約書同様、事前に専門家に見てもらうのもよいでしょう。

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4-4.そもそも入居者が見込める物件・地域なのか

現在、日本では空き家が急増しています。人口減少が続くなか、空き家が増えるのは当たり前の現象といえます。地域によっては、「入居者募集中」の新築アパートが、駅から少し離れた場所に乱立しているところさえあります。

よって、サブリース契約の締結以前に、「そもそもアパート経営が成立する場所・物件なのか」を精査する必要があります。どんな場所でも入居者が来るわけではありません。また入居者を増やす目的で物件価値を高めるために設備を充実させたり、内装に手をかける場合は、その分費用がかさむことにも留意しましょう。

4-5.契約する会社の経営状態や評判

「2.サブリース問題」でも触れましたが、事業者が倒産してしまったらオーナーは大きな被害を受けます。家賃は入ってこなくなり、ローンだけ残ります。これだけは絶対に避けなければなりません。

現在、サブリース事業者は乱立状態にあり、今後淘汰が進む可能性があります。事業者の選別はなかなか難しいですが、最低でも経営状態(特に財務内容)の分析や評判の確認は行いましょう

4-6.専門家への事前の相談も

サブリースのトラブルは、不動産投資初心者のオーナーにおいて特に多く発生しています。契約を考えている場合は、事前に弁護士や不動産関係の専門家(不動産鑑定士、一級建築士、FPなど)に相談するとよいでしょう。

税金が関わる場合は、税理士にご相談ください。

5.解約したいとき、不利益な状況をなんとかしたいときは

最後に、解約したいとき、あるいは不利益な状況をなんとかしたいときは、以下の対応を検討してみてください。

5-1.クーリング・オフ可能期間なら契約解除も

サブリースを契約したものの、後悔して「やっぱり止めたい」と思ったときは、クーリング・オフを主張できる場合があります。焦らず冷静に考えて対応しましょう。

5-2.損害賠償をすれば解除できる可能性も

民法第641条(請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。)を拠りどころに、損害賠償をして契約を解除できる場合もあります。

5-3.弁護士や国民生活センターに相談も

先ほども触れましたが、近年サブリースに関するトラブルは急増しています。悩んでいるのは自分だけではないかもしれません。取り返しのつかない事態になる前に、弁護士や国民生活センター、法務大臣認証ADR機関提携団体などへ相談することも考えましょう。

まとめ

サブリース自体は、決して悪いものではありません。しかしながら、契約時には注意すべきことがたくさんあります。このご時世、「楽して儲けるはあり得ない」ということを肝に銘じておくべきでしょう。

大家業はそもそも負荷が大きく大変なものですし、成功している大家さんはみな工夫したり、苦労もしています。
サブリースは長期間の契約になりますし、ライフプランにも大きな影響を与えます。サブリースを契約する場合は、メリット・デメリットを十分に確認したうえで、慎重に対応することをお勧めします。

監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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