生命保険は本当にお得な資産運用手段なのか?
積立型の生命保険に加入することで、最終的に自分が払った保険料よりも多く受け取れる場合があります。保険会社も熱心に勧めてきますが、株式や投資信託など他の手段で資産運用するよりも本当にお得なのでしょうか?
保険料や積立の仕組みなどを解説しながら、資産運用として有効なのかどうか、加入する場合のポイントなどを解説します。
目次
1.生命保険の種類と貯蓄性の有無
1-1.生命保険の分類
生命保険を、「保障と運用」の観点で見た場合、主に次のように分類できます。
保障に重点を置く保険 | 定期保険(死亡保険)、終身保険、収入保障保険など |
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貯蓄性のある保険 | こども保険(学資保険)、個人年金保険、一部の終身保険など |
保障性も貯蓄性もある保険 | 養老保険 |
投資性の強い保険 | 変額保険、変額個人年金保険、外貨建て保険など |
その他の保険 | 医療保険、ガン保険、特定疾病保障保険、介護保険など |
上記はあくまでも一般的な分類であって、商品によってはガン保険や介護保険でも貯蓄性がある場合や、こども保険(学資保険)でも貯蓄性が低い商品もあります。
では、これらのなかからいくつかの商品を取り出し、積み立ての仕組みを見てみましょう。
1-2.終身保険
終身保険は、死亡した場合に死亡保険金(高度障害状態になった場合は高度障害保険金)を受け取れます。この点は定期保険と同じですが、定期保険と異なるのは「一生涯保障がある」ことと、「途中で解約した場合、戻ってくるお金(解約返戻金)がある」点です。
大事なのは後者で、終身保険では、保険料のうちかなりの部分が積み立てに回されますので、途中で解約してもお金が戻ってくるのです。ただし、その分定期保険よりは保険料は高く設定されています。
1-3.個人年金保険
個人年金保険は、契約時に決めた年齢から年金を受け取ることができる保険です。年金の受け取り方により、確定年金(5年、10年、15年など)、終身年金(死亡するまで支払われる)、保証期間付終身年金(支払いの最低保証期間がある終身年金)などに分かれます。
年金の受取開始前に死亡した場合、それまでに払い込んだ保険料相当額が戻ってきます。また、年金の総受取額は通常、払込保険料総額を上回ります。個人年金は、保険料のうち積み立てに回る部分は終身保険よりさらに多いため、「保障性は低いが、貯蓄性は高い商品」といえます。
1-4.変額保険
変額保険の概念は、先ほどの終身保険や個人年金保険とは全く異なります。
変額保険とは、加入後の運用状況により保険金額が増減するタイプの保険です。通常、死亡保険金の基本保険金額は保証されていますが、解約返戻金や満期保険金(満期時に戻ってくるお金)は保証されておらず、大きく増えることもあれば大きく減ることもあります。
そしてもう一つ重要なことは、通常の生命保険は、生命保険会社の「一般勘定」とよばれる区分で運用されていますが、変額保険は一般勘定とは分離した「特別勘定」とよばれる区分で運用されているのが特徴です。特別勘定で運用されている保険の運用リスクはすべて保険の契約者が負うことになります。従って、変額保険には「積み立て」という概念はありません。
1-5.返戻率について
生命保険を資産運用手段として考える場合、「返戻率(へんれいりつ)」という概念を覚えておく必要があります。
返戻率は、「(受け取る保険金・給付金の総額/払込保険料総額)×100」で表され、100%を超える(つまり、払った保険料以上に保険金・給付金が支払われる)商品を通常、「返戻率が高い」といいます。
返戻率が100%を超える(=100%を超えることが契約時に約束されている)代表的な商品は、子ども保険(学資保険)、個人年金保険、一部の終身保険、養老保険などです。
運用がうまく行った場合、変額保険や外貨建て保険でも返戻率が100%を超えることがあります。ただし学資保険などは、保障性の特約をつけるとその分保険料が上がるため、返戻率が下がります。
2.貯蓄性保険の実際
では、先ほどの、貯蓄性の高い保険の積み立ての仕組みはどうなっているのでしょうか。
実は生命保険の保険料の構成はかなり複雑です。まず、生命保険の契約者が生命保険会社に払い込む保険料のことを営業保険料といいますが、この営業保険料は、以下のように構成されています。
2-1.営業保険料の構成
2-1-1.純保険料(将来の保険金支払いに充てられるもの。予定死亡率と予定利率で算出される)
純保険料はさらに、次の二つに分けられます。
- 貯蓄保険料(満期保険金の財源となるもの)
- 危険保険料(死亡保険金の財源となるもの)
2-1-2.付加保険料(諸経費など各種の支出に充てられるもの。予定事業費率で算出される)
付加保険料はさらに、次の三つに分けられます。
- 予定新契約費(新契約の締結にかかる経費のこと)
- 予定集金費(保険料の集金にかかる経費のこと)
- 予定維持費(契約の管理、維持に係る費用のこと)
つまり、「契約者が払い込んだ保険料は全額が積み立てに回るわけではなく、生命保険会社の経費に回る部分がある」のです。このことは非常に重要です。
そしてもう一点、営業保険料における「純保険料と付加保険料の比率」は、重要な経営機密であり、一部の生命保険会社を除きほとんどのところは公表していません。加えて、この比率は生命保険ごとに異なるため、前述のとおり、貯蓄性が高い商品や保障性が高い商品などさまざまな保険商品が存在するのです。
2-2.予定利率=運用利回りではない
先ほど出てきた「予定利率」ですが、2016年2月からの日本銀行のマイナス金利政策導入を受けた、「生命保険会社の予定利率引き下げ」のニュースを耳にした人も多いでしょう。
予定利率とは、「契約時に見込んだ資産運用における収益率」のことです。この予定利率は、先ほども見たとおり、「イコール利回り」ではないので注意しましょう。
予定利率は高いのにこしたことはないですが、コストの分が差し引かれますので、実際の生命保険商品の利回りは予定利率よりも低くなります(ただし、有配当商品の場合、配当が加えられることにより予定利率を上回ることもあります)。
2-3.予定死亡率と予定事業率
最後に、予定死亡率と予定事業費率についてもふれておきましょう。
予定死亡率とは、「契約時に見込んだ死亡率のことで、期待死亡率ともいう」で、予定事業費率とは、「契約時に見込んだ経費率のことで、保険金比例や定額などの決め方がある」です。
貯蓄性保険に加入する場合には、上記の保険料の構成を覚えておく必要があります。
3.保険の選び方と実際の商品の返戻率
3-1.保険を選ぶ基準
では、実際に保険を選ぶ場合、何を基準にすればよいのでしょうか。
3-1-1.加入目的
最も重要なことは加入目的です。保障なのか、資産運用なのか、その両方なのかをあらかじめしっかり決めておかなければなりません。
3-1-2.保険料
保険料も重要です。これまで見てきたとおり、貯蓄性のある保険は総じて保険料が高いです。一方、保障性のある保険は総じて保険料は安いです。生命保険は通常、中途解約をすると損をしてしまいますので、「どのくらいの保険料であれば、無理なく払い続けられるのか」を契約時にしっかり確認しておく必要があります。
3-1-3.保険期間と加入年齢
保険期間(終身なのか、定期なのか)と加入年齢もしっかり決めておく必要があります。終身保障であれば安心ではありますが、その分保険料は高くなります。また生命保険の保険料は通常、年齢を経るにつれ高くなります。加えて、健康状態に問題があると加入できない場合もあるため、十分注意する必要があります。
3-1-4.保険種類と保険会社
これまで見てきたとおり、生命保険にはたくさんの種類があります。保障内容をしっかり確認し、保険種類を間違えないようにしましょう。また、貯蓄性のある保険に加入する場合、生命保険会社の選別、つまり経営状態を確認しておく必要があります。
万一生命保険会社が経営破たんした場合、生命保険契約者保護機構というセーフティネットはあるものの、その後の破たん処理によっては、貯蓄性のある保険は一般的に戻ってくるお金がかなり少なくなります。平成になってから生命保険会社は8社破綻していますが、いわゆる高利率契約の保険は削減率が大きく、契約者には大きな不利益が生じました。この点にも注意しましょう。
【関連】生命保険会社が破綻したらどうなる?生命保険契約者保護機構について
3-2.実際の商品の例
では、貯蓄性のある保険について、払込保険料と受け取る保険金・給付金の実際の例を二つほど見てみましょう。
3-2-1.明治安田生命:つみたて学資(無配当こども保険)
契約者:30歳男性、被保険者:0歳(こども)、保険料払込期間(被保険者が)15歳まで、受け取り総額200万円(A)の場合
月払保険料(口座振替料率)10,814円
払込保険料総額(B):10,814円×12×15年=1,946,520円
返戻率<(A)÷(B)×100>:102.74%
3-2-2.ソニー生命:個人年金保険(5年ごと利差配当付)
契約者:35歳男性、保険料払込期間60歳まで、年金支払期間:60歳から10年、年金額100万円(総受取額(A)=100万円×10年=1,000万円)の場合
月払保険料(個別扱料率)32,010円
払込保険料総額(B):32,010円×12×25年=9,603,000円
返戻率<(A)÷(B)×100>:104.13%
どちらの保険も返戻率は100%を超えており、貯蓄性があることがわかります。
4.結局、生命保険はお得な資産運用手段なのか?
では、結局生命保険はお得な資産運用手段なのでしょうか。これは、FP(ファイナンシャル・プランナー)など専門家のなかでも意見が分かれており、難しいです。しかしながら、以下についてははっきり言えるでしょう。
- 生命保険は、加入目的や保険料など条件が合致した一部の人にとっては資産運用手段としては有効。
- ただし、多くの人(特に資産運用初心者)は、保障と運用は切り離したほうがコストパフォーマンスが上がる。
- 加えて、超低金利の昨今、生命保険で資産を増やすことは難しくなってきている。
平成バブル前後までは、高金利もあり、多くの人(資産運用初心者であっても)が生命保険を活用して資産を増やすことができました。しかしながら、超低金利時代が続き予定利率が下がり続けている現状では、生命保険のコストが重く効いてきて、生命保険で資産を増やすことは難しくなってきています。
もちろん今でも、加入目的や保険料など条件が合致した一部に人にとっては生命保険による資産運用は有効ではありますが、一般的にはできれば、保障と運用は切り離して考えたほうがよいでしょう。
また例えば、変額保険や外貨建て保険は、「生命保険会社に頼んで、投資信託を買ってもらっている」のとほとんど変わりません。それであれば、無駄な中間コストを省くため、NISAやつみたてNISA、iDeCo(イデコ=個人型確定拠出年金)など税制優遇のあるハコ(=制度)を使って自分で運用したほうがコストパフォーマンスがよいといえます。
5.まとめ
生命保険がお得な資産運用手段かどうかは、最終的にはその人の属性によって決まります。周りに流されず、加入目的を冷静に考えて判断するようにしましょう。加入にあたり迷うようなことがあれば、FPなど専門家に相談するとよいでしょう。