相続税と贈与税の一体化の議論とは|暦年贈与の非課税枠が無くなる?
昨年の2021年度税制改正大綱に、「相続税と贈与税をより一体的に捉え、中立的な税制の構築に向けて本格的な検討を進める…[続きを読む]
2021年12月10日、2022年度税制改正大綱が公表されました。
「相続税と贈与税の一体化」によって、暦年贈与による相続税対策ができなくなると一部で話題になっていましたが、一体どうなったのでしょうか。
今年の税制改正大綱によって相続税と贈与税が受ける影響を解説します。
目次
税制改正大綱とは、翌年度以降の増税や減税、新制度の導入などの内容をまとめた文書のことをいい、毎年12月のこの時期に決定されます。そしてその翌年頭の通常国会で議論が行われ、可決されれば法制化される流れになります。
税制改正大綱自体はまだ案の状態ではありますが、12月の決定内容に織り込まれた時点で、ほぼ100%が法制化されると理解して良いものになります。
相続税と贈与税について何が変わるのか、まずは関係する項目をピックアップします。
- 相続税と贈与税の一体化は先送り
- 住宅取得等資金の一括贈与
- 相続登記の促進のための登録免許税の特例措置の拡充及び延長
- 非上場株式等に係る納税猶予の特例制度
- 添付書面等記載事項の提供方法の見直し
昨年、2021年度の税制改正では、「資産移転を公平にすべき」の観点から「相続税と贈与税の一体化」の可能性が示唆されていましたが、結局は行われませんでした。
そのため、今年2022年度の改正では相続時精算課税や贈与税の暦年課税制度の在り方が見直されるものと考えられており、相続発生から10年あるいは15年など、今よりはるかに長い期間の贈与を相続扱いとされるなど、今年こそは生前贈与による相続税対策が封じられると懸念されていましたが、今回の改正でも実施されませんでした。
しかし近い将来、暦年贈与が廃止される可能性や生前贈与の課税対象が相続発生から長期間遡って相続税を計算するようになる可能性は高く、今後は駆け込み贈与や資産替えを行う人が増えることになるでしょう。
住宅取得資金の一括贈与の非課税制度は非常に人気の制度であり、多くの人が活用しています。今回の改正において、一般の人が最も大きな影響を受ける点になるでしょう。
住宅を購入する際、両親や祖父母などの直系尊属から資金の援助を受けた場合に、住宅取得資金の一括贈与の特例の適用を受けることで、贈与税負担を軽減することができる制度です。
今回の改正で予定されている点は、適用期限の延長、中古住宅の場合の適用要件緩和、18歳まで適用対象となることは納税者有利な点です。非課税限度額については反対に縮小される予定です。
改正点 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
適用期限 | 2021年12月31日 | 2023年12月31日 |
非課税限度額 | 耐震、省エネ又はバリアフリーの住宅用家屋 1,500万円 それ以外の住宅 1,000万円 | 耐震、省エネ又はバリアフリーの住宅用家屋 1,000万円 それ以外の住宅 500万円 |
中古住宅の家屋要件 | 建築後使用されたことのある住宅用の家屋で、その取得の日以前20年以内(耐火建築物の場合は25年以内)に建築されたもの | 廃止 |
受贈者の年齢要件 | 20歳以上 | 18歳以上 |
所有者不明土地の解消に向けて、2021年4月に不動産登記法が改正され、これまで義務のなかった相続登記が義務化される予定です。
それに伴って今回の税制改正大綱によって、登録免許税の免税措置の延長と適用範囲の拡大が予定されています。
相続登記のハードルが下がるよう、登録免許税の負担も今以上に軽減される予定になりした。
相続に係る所有権の移転登記等に対する登録免許税の免税措置の範囲について、次のように拡大したうえ、さらにその適用期限が3年延長されます。
改正点 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
土地の範囲 | 市街化区域内は対象外 | 市街化区域内も対象 |
土地の価額の上限 | 10万円 | 100万円 |
非上場株式等に係る納税猶予の特例制度とは、非上場会社の自社株式を相続する際にかかる相続税の納税を、猶予または免除できる制度で、中小企業の円滑な事業承継を支援するために設けられています。
適用を受けるためには特例承継計画を提出する必要がありますが、その提出期限について現行2023年3月31日から2024年3月31日に延長される予定です。
相続税申告を電子申告で行う場合であっても、実務上では添付書面については送信データ量の問題などから、わざわざ紙に印刷して郵送するケースが多いのが現状となっています。
書面での提出は納税者側、税務署側双方にとってデメリットが大きいことから、添付書面等記載事項の提出方法に、光ディスク又は磁気ディスクで提出する方法が加えられる予定となっています。
【参考サイト】令和4年度税制改正大綱
2022年度の税制改正が相続税と贈与税に大きく影響する点は、「住宅取得等資金の一括贈与」と「相続登記の義務化」でしょう。
特に住宅取得等資金の一括贈与は、元々細かい要件があるうえでの改正であるため、一般の方が混乱するのは当然です。適用を検討する場合には税理士への相談をおすすめします。
また相続税と贈与税の一体化については今回の改正では免れることとなりましたが、不可避な改正であると考えられます。そこへ向けてどう相続税対策をしていくかも重要な課題になるため、相続税が課される可能性のある方は、一度は税理士へ相談しておきましょう。