簡単にできる相続税の計算
相続税の計算方法は少しややこしく、一覧にすると上記のようになります。 しかし、手順を一つ一つ分解し、計算方法を理解す…[続きを読む]
2015年に相続税の基礎控除額が引き下げられて以来、相続税の負担は富裕層だけの問題ではなくなりました。いわゆる中流家庭の方からも、「親が遺してくれた財産を相続したいが、相続税を支払うことができるか心配」といったご相談が多く寄せられています。
相続税の節税策として、生前贈与を活用することや、「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額の軽減」などの各種特例規定を活用することは広く知られていますが、ふるさと納税を行うことで相続税を節税できることは意外と知られていません。
この記事では、「相続税はふるさと納税で節税できるの?」という疑問をお持ちの方向けに、ふるさと納税で節税できる税金の種類及び金額と、ふるさと納税で相続税を節税しようとする場合の注意点及び手続きについて解説します。
目次
結論から言うと、ふるさと納税で相続税を節税できるのは、本当です。
この記事をお読みいただいている方の中には、「ふるさと納税って所得税と住民税を節税できる制度じゃないの?」という疑問をお持ちの方や、「ふるさと納税で相続税を節税できるのはうれしいけど、それって合法なの?後で税務署から指摘を受けることはないの?」」といったご心配をお持ちの方もいるかと思いますので、まずはふるさと納税で相続税を節税できる仕組みを解説します。
各種税法の特例規定を集めた法律である租税特別措置法の第70条第1項に、「相続または遺贈によって財産を取得した人がその財産を国や地方公共団体など公共性の高い法人に寄附した場合、その寄附をした財産は相続税の対象としない」ということが規定されています。
つまり、相続などによって財産を取得した相続人が、その財産を都道府県または市区町村(地方公共団体)へ寄附した(以下、この寄附を「ふるさと納税」といいます)場合、その寄附した財産は相続税の課税対象から除外されることとなります。これが、ふるさと納税で相続税を節税できる仕組みです。
より、具体的にイメージしていただくため、相続税額の計算過程に沿って解説します。
まず、相続税額は次のステップで計算します(事例をシンプルにするため、法定相続人及び相続人が一人であることを前提にします)。
ここで、3.の「非課税財産」について、先ほど紹介したとおり、相続または遺贈によって財産を取得した人がその財産を国や地方公共団体など公共性の高い法人に寄附した場合、その寄附をした財産は相続税の対象としない特例があるため、この寄附をした財産は「非課税財産」に該当します。
たとえば、1.の財産を取得した相続人が、1.の財産から現金1,000万円を寄附した場合、3.の相続税の課税価格及び4.の課税遺産総額も1,000万円減ります。その結果、5.の相続税額も減ることになります(相続税額は4.の課税遺産総額に相続税の税率を乗じて計算するため、「相続税額が1,000万円減る」わけではないことに注意してください)。
以上、ふるさと納税をすることによって相続税を節税できる仕組みを解説しました。ふるさと納税をすることで相続税を節税できることと、この節税方法は合法であることがお分かりいただけましたでしょうか。
次に、ふるさと納税をすることによって節税できる相続税額を、具体的な事例に基づいてシミュレーションします。
では、ここで、実際に事例を挙げて、ふるさと納税でどのくらい相続税が節税できるのかを見てみましょう。
被相続人(A氏)の唯一の法定相続人であるB氏が、A氏の財産の全てを相続するものとします。
相続税の基礎控除額は3,000万円と法定相続人の数に600万円を乗じた金額の合計ですから、上記の場合は3,600万円です。
また、A氏が遺したプラスの財産は現金9,100万円のみ、マイナスの財産は0円、葬式費用は100万円とします。
B氏が相続する財産額
- 現金:9,100万円
- マイナス財産:0円
- 葬式費用:100万円
まず、B氏がふるさと納税を行わない場合の相続税額を計算します。
A氏が遺したプラスの財産は9,100万円、マイナスの財産と葬式費用の合計額は100万円で、非課税財産の金額は0円ですから、相続税の課税価格は9,000万円です。
ここから、相続税の基礎控除額である3,600万円を引いた金額(5,400万円)が課税遺産総額で、この金額に対する相続税額を速算表で計算すると920万円となります。
【平成27年1月1日以後の場合】相続税の速算表
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
【出典】「相続税の速算表」|国税庁
一方、B氏が相続財産の中から1,000万円をふるさと納税した場合はどうなるでしょうか。
この場合、この1,000万円は「非課税財産」として扱われるため、相続税の課税価格は、9,000万円から1,000万円を引いた8,000万円と計算されます。
ここから、相続税の基礎控除額(3,600万円)を引いた金額(4,400万円)が課税遺産総額で、この金額に対する相続税額を速算表で計算すると680万円となります。
シミュレーションの結果、B氏が相続財産の中から1,000万円をふるさと納税した場合は、相続税額を240万円節税できるという結果が出ました。
ただし、B氏の手元に残る金額としては、下表のとおり、ふるさと納税しない場合の方が760万円多いという結果になりました。
ふるさと納税しない場合 | ふるさと納税する場合 | 差し引き | |
---|---|---|---|
プラスの財産 | 9,100万円 | 9,100万円 | 0円 |
葬式費用 | ▲100万円 | ▲100万円 | 0円 |
ふるさと納税 | 0円 | ▲1,000万円 | ▲1,000万円 |
相続税額 | ▲920万円 | ▲680万円 | 240万円 |
B氏に残る金額 | 8,080万円 | 7,320万円 | ▲760万円 |
先に解説したとおり、ふるさと納税による相続税の減少額は課税遺産総額の減少額に相続税の税率を乗じて計算するため、相続税の減少額がふるさと納税した金額を上回ることはありません。
それでは、相続財産からふるさと納税をすると常に損をすることになるのでしょうか。実は、ふるさと納税の場合は寄附金控除の適用を受けることが可能で、これによって損をする金額の一部を取り戻すことができます。
上記の通り、相続人が取得した相続財産からふるさと納税をした場合は寄附金控除との併用が可能で、寄附金控除の適用を受けることによって寄附をした年の所得税額と、その翌年の住民税額を減らすことができます。
相続財産からふるさと納税をした場合は寄附金控除との併用が可能である旨は、以下の国税庁のホームページにも記載されています。
【参考外部サイト】質疑応答事例|国税庁ホームページ
たとえば、ふるさと納税をした年における相続人B氏の給与収入額が2,300万円だった場合、1,000万円のふるさと納税をすることによって、その年における所得税額が約290万円減り、その年の翌年における住民税額が約100万円減るため、合わせておよそ400万円前後の節税効果があります。
この節税効果は、相続税の課税価格が高ければ高いほど、また相続人の所得金額が大きければ大きいほど高まります。
たとえば、相続人B氏の給与収入額が1億円だったときの節税効果は所得税と住民税合わせて約750万円です。
さらに、地方公共団体へふるさと納税すると、特産物などの返礼品を受け取ることも可能です(居住地の地方公共団体などへのふるさと納税をしても、通常のふるさと納税と同じく返礼品を受け取ることができない点にはご注意ください)。
返礼品はふるさと納税額の最大3割ですから、相続人B氏の給与収入額が1億円だったときは、1,000万円のふるさと納税をすることによって、750万円の節税と300万円の返礼品の計1,050万円相当のリターンがあるため、このようなケースの場合はふるさと納税した方がお得です。
なお、相続人の給与収入の金額が上記ほど多くなくても、相続財産からふるさと納税する金額を控えめにすれば、一般的な給与収入の方でもこの制度を十分活用できます。
たとえば、B氏が相続財産の中からふるさと納税した金額が10万円で、B氏の給与収入額が500万円だとします。
この場合、相続税の節税額は3万円、所得税と住民税を合わせた節税額は約7万円となるため、ふるさと納税した金額である10万円と同額の節税効果があります。このケースでは、返礼品(3万円相当)を加味すると、ふるさと納税することによって3万円お得になる計算です。
相続税をふるさと納税を使って節税するためのの注意点は次の3点です。
- ふるさと納税が遺言に基づくものは、ふるさと納税の金額を非課税財産として扱う特例の対象外となる
- 相続税の申告書の提出期限までにふるさと納税しなければ特例の対象外
- 各種特例の適用を受けて相続税額が少なくなると節税効果は薄くなる
1点目について、ふるさと納税した金額を非課税財産として扱う特例は、相続または遺贈によって財産を取得した人がその財産を国や地方公共団体など公共性の高い法人に寄附した場合に適用されるため、遺言に基づく寄附は特例の適用対象になりません。
2点目について、ふるさと納税した金額を非課税財産として扱う特例は、相続税の申告書の提出期限(原則として、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内)までにふるさと納税をした場合に限って適用されるため、必ず申告期限までにふるさと納税するようにしましょう。
たとえば、被相続人が2022年1月16日に亡くなった場合は、2022年11月16日までにふるさと納税を完了する必要があります。
3点目について、相続税には「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額の軽減」といった節税効果の大きい特例がいくつか存在します。
これらの特例の適用を受けることで相続税額が0円となることも珍しくないので、このような場合には、ふるさと納税をしても相続税の節税効果は得られません。
ふるさと納税をする前に、特例を使ってもある程度の相続税額が生じるかどうか確認することをおすすめします。
所得税・住民税における注意点は、相続人の所得金額が小さい場合は、節税効果が薄くなる点です。
たとえば、ふるさと納税をした年の相続人の所得金額が0円の場合は、ふるさと納税をしても節税効果はないので注意が必要です。
相続税の手続きは、相続税の申告書に租税特別措置法第70条第1項の特例の適用を受ける旨を記載した上で、次の書類とともに相続税の申告期限までに被相続人の住所地を所轄する税務署へ提出することにより行います。
- 相続税申告書第14表(寄附または支出した財産の明細書)
- 地方公共団体の寄附金受領証
相続税申告書第14表で記載すべき箇所は、次の3の明細です。
たとえば、2022年9月1日にB氏(相続人)が横浜市に現金1,000万円をふるさと納税した場合は、次のように記載します(被相続人A氏の住所地は大阪府だとします)。
所得税・住民税の手続きは、寄附金控除に関する事項を記載した所得税の確定申告書に、地方公共団体から受けた寄附金の受領証を添付して、相続人の住所地を所轄する税務署へ提出することにより行います。
なお、e-Taxにより申告する場合は、寄附先や寄附金額などの内容を入力して電子申告することにより、これらの書類の税務署への提出または提示を省略することができます(申告期限から5年間は書類を保管する必要があります)。
以上、「相続税はふるさと納税で節税できる?」をテーマに、ふるさと納税で節税できる税金の種類及び金額と、ふるさと納税で相続税を節税しようとする場合の注意点及び手続きについて解説しました。
相続税はふるさと納税で節税できる上、寄附金控除との併用も可能ですが、細かい適用要件や手続きがある上、「相続財産からふるさと納税すること」が本当にお得かどうか慎重に判断しないと、かえって損をしてしまう可能性もあります。
「相続財産からふるさと納税すること」が本当にお得かどうかの検討は専門的な知見が必要です。ぜひ、お近くの相続税に強い税理士にご相談ください。