遺産分割が未了(未分割)の時の相続税の申告方法、デメリット
遺産が未分割であると特例を利用できないデメリットがありますが、後でから適用できる特例もあります。遺産分割未了の時の相…[続きを読む]
平成27年の相続税の基礎控除が改正以降、相続税の申告が必要になる人が約2倍に増加しています。今までは相続税とは無関係だと思っていた人でも、自身の財産や家族の財産を調べてみると相続税の申告が必要になるケースが多々あります。
しかし、「相続税の配偶者控除」を利用することで、相続税の納税を回避できる場合があります。ただし、遺産の分割方法によっては「相続税の配偶者控除」を効率的に利用できない場合があります。
今回は、知らないと損する相続税の配偶者控除についてご紹介します。
目次
「相続税の配偶者控除」は、正式には「配偶者の税額の軽減」という相続税の制度です。亡くなった方の配偶者(夫婦どちらとも)が、遺産の中から相続した財産の一定額について相続税が非課税となります。
なぜ配偶者のみ相続税の軽減制度が存在するのでしょうか。相続税の配偶者控除が制定されたのは以下の理由によると言われています。
配偶者控除の非課税限度額は、次の金額のどちらか多い金額になります。
2.の配偶者の法定相続分相当額とは、相続財産全体の相続評価額に配偶者の法定相続分1/2を乗じた金額を言います。相続財産全体の相続評価額が2億円であれば1億円、4億円あれば2億円となります。
つまり、相続財産全体の相続評価額が3億2千万円以下であれば1.の1億6千万円になります。相続財産全体の相続評価額が1億6千万円以下の場合で、配偶者が全ての財産を相続すれば相続税の納付額が0円になります。
遺産分割次第では、最低でも1億6千万円まで相続税が非課税になる「配偶者控除」ですが、「配偶者控除」の適用を受けるにはいくつか条件があります。
「配偶者控除」なので当たり前の要件です。しかし、この要件は「戸籍上の配偶者」となっており、内縁関係や事実婚など、法律上の配偶者でなければ「配偶者控除」の適用を受けることができません。
相続税の申告期限は相続発生日(被相続人が亡くなった日)から10ヶ月となっています。つまり、誰がどの財産を相続するかを被相続人の死亡後10ヶ月以内に決めなければ「配偶者控除」の適用を受けることができません。遺産分割が問題なく進めば、「遺産分割協議書」に相続人全員の署名押印のうえ相続税申告書と共に税務署へ提出しなければなりません。
遺産分割協議が間に合わない場合の対処法について、詳しくは以下の関連記事を是非お読みください。
相続税の申告書を税務署に提出しなければ「配偶者控除」の適用が受けられません。相続税申告書「第5表 配偶者の税額軽減額の計算書」が配偶者控除適用する旨を記載して提出しなければなりません。
添付書類として、以下のものが必要です。
相続税の配偶者控除の適用により、どのくらい相続税額は軽減されるのでしょうか。具体例をあげてご紹介します。
計算方法を解説する前に、基礎控除について確認しておきます。
相続財産全体の額が、基礎控除より少なければ相続税の申告納税が必要ありません。相続財産全体の額が基礎控除を上回ったとしても、相続財産全体の額から基礎控除を差引いて相続税の計算を行います。
基礎控除の算式
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
相続財産全体の額が4,800万円未満であれば相続税の申告納付が必要ありません。
相続税の算出方法は、まず法定相続分で遺産分割したものとして相続税の総額を計算します。
事例1:2億円の相続財産を以下の法定相続人で、以下の通り遺産分割した場合
法定相続人:配偶者、子2人
遺産総額:2億円
相続人 | 遺産分割協議による取得金額 |
---|---|
配偶者 | 1億2,000万円 |
子A | 6,000万円 |
子B | 2,000万円 |
手順① 相続税の総額の計算
相続人 | 計算式 | 相続税額 |
---|---|---|
配偶者 | 2億円 ×1/2(法定相続分) × 30% (取得金額に応じた税率)- 700万円 (取得金額に応じた控除額) | 2,300万円 |
子A・B | 2億円 × 1/4(法定相続分) × 20%(取得金額に応じた税率)- 200万円(取得金額に応じた控除額) | 800万円 |
合計 | 2,300万円 + 800万円 + 800万円 | 3,900万円 |
手順② 実際に遺産分割により相続した財産をもとに相続税の総額を分配し、各相続人の相続税の納付額を計算
相続人 | 計算式 | 実際に納付する相続税額 |
---|---|---|
配偶者 | 相続税の総額3,900万円 × 実際に相続した財産1億2,000万円 ÷ 相続財産合計2億円 | 2,340万円 |
子A | 相続税の総額3,900万円 × 実際に相続した財産6,000万円 ÷ 相続財産合計2億円 | 1,170万円 |
子B | 相続税の総額3,900万円 × 実際に相続した財産2,000万円 ÷ 相続財産合計2億円 | 390万円 |
相続税の配偶者控除の適用を受けていない相続税の計算をご紹介しましたが、配偶者控除の適用を受けるとどれだけ相続税の納付が抑えられるのでしょうか。計算していきましょう。
相続財産、法定相続人などは全て同じ条件です。
手順①相続税の総額の計算
配偶者控除適用前と同様で3,900万円になります。
手順② 各法定相続人の納付額の計算
相続人 | 計算式 | 実際に納付する相続税額 |
---|---|---|
配偶者 | 実際に相続した財産1億2,000万円 ≦ 1億6,000万円 | 0万円 |
子A | 相続税の総額3,900万円 × 実際に相続した財産6,000万円 ÷ 相続財産合計2億円 | 1,170万円 |
子B | 相続税の総額3,900万円 × 実際に相続した財産2,000万円 ÷ 相続財産合計2億円 | 390万円 |
合計 | 0円 + 1,170万円 + 390円 | 1,560円 |
配偶者控除1億6千万円までは非課税になるため、配偶者が相続した1億2,000万円は全て非課税になります。
子どもAおよびBは配偶者控除の影響を受けないため同額です。
法定相続人が支払う相続税の合計額1,560万円となり、配偶者控除の適用前の3,900万円より6割も税額が減額になる結果となりました。
このように、相続税の配偶者控除の適用を上手に利用することにより家族全体の相続税額を大幅に減額することができます。相続財産合計額や遺産分割の状況により、配偶者控除で減額できる相続税額は大きく変わってきます。相続税の計算は専門的な知識が必要になるので、専門家に相談することを強くおすすめします。
ご紹介したとおり、配偶者控除を利用することによって大幅に相続税額を減額することができます。しかし、配偶者控除には思わぬ落とし穴があり、結果的に相続税の納税額が高額になってしまう場合があります。
配偶者控除の注意点とは、その配偶者の相続が発生した時のことです。1度目の相続(一次相続)で、配偶者が配偶者控除を利用して多くの遺産を相続した場合、その配偶者が亡くなった場合(二次相続)に高額な相続税が発生する可能性が高くなります。
要因は2つ考えられます。
1つ目は、配偶者が多くの財産を保有している状態になってしまうからです。もともと配偶者が保有している財産に、一次相続により相続した財産が加わりますので、二次相続の相続財産が膨れ上がります。相続財産が増えると相続税の税率が高くなってしまいます。
2つ目は、二次相続時の法定相続人の人数です。単純に考えて一次相続より法定相続人の数は1人減っています。法定相続人の数は、基礎控除を計算する際に影響が出てきます。また、配偶者控除は利用できないため、二次相続では高額の相続税の支払いが必要になる可能性があります。
相続税の計算には、「小規模宅地等の特例」という土地の相続評価額を一定の面積分減額する制度があります。この「小規模宅地等の特例」は通常、1㎡あたりの評価額が高い土地を選択した方が有利になるのですが、その「小規模宅地等の特例」の適用を受けた土地を「配偶者控除」を受ける配偶者が相続すると不利になる場合があります。
1㎡あたりの評価額が低くても、配偶者以外の法定相続人が相続する土地に「小規模宅地等の特例」を適用させた方が有利になる場合があるので、よく検討が必要です。
どの土地に「小規模宅地等の特例」を適用させた方が有利になるのかは状況によって異なりますので、税理士などの専門家に相談していただくことをおすすめします。
今回は相続税の「配偶者控除」についてご紹介しました。「配偶者控除」は、相続税の納付額を大幅に減額できる制度です。
しかし、将来的に起こる二次相続を視野に入れて配偶者が相続する財産を決めておかないと、二次相続で高額な相続税の納税が発生する可能性があります。配偶者の年齢や、健康状態、生活コスト、医療費などを考慮して配偶者が相続する財産を決める必要があります。