贈与税の非課税制度の1つに、住宅取得等資金贈与の非課税制度があります。この制度が、令和6年度税制改正で、3年間延長さ…[続きを読む]
相続時精算課税制度で土地を贈与するとデメリットが大きいかも!
相続時精算課税制度を使うと、2,500万円まで非課税ですし、それを超えても20%の税率ですみます。
宅地などの土地は評価額が高額になりがちですので、相続時精算課税制度を使えば、贈与税を抑えて贈与できますが、実は、相続のときまで含めて考えるとデメリットのほうが大きい可能性があります。
どんなデメリットがあるのか、それでも向いているのはどんなケースかも解説します。
目次
1.相続時精算課税制度は節税ではなく課税先送り
相続時精算課税制度は贈与税の非課税制度の一つとして数えられていますが、どちらかというと、節税ではなく課税送りの制度です。
どういうことかというと、確かに贈与したときには、2,500万円まで贈与税が非課税となります。2,500万円を超えても、一律20%の税率ですので、贈与税は少なくてすみます。しかし、相続のときに、過去に贈与した分を相続財産に加えますので、相続税がかかります。
結局、まったく贈与しなかったときと、同じ金額の税金がかかるのです。
一般的な状況では、節税効果はありません。
2.相続時精算課税制度で土地を贈与するデメリット
相続時精算課税制度で土地を贈与することに、決定的なデメリットがいくつかあります。
2-1.土地に小規模宅地等の特例を利用できない
小規模宅地等の特例では、マイホームが建っている土地について、330㎡まで評価額が80%減額されます。
仮に評価額1億円の土地であれば、80%減額して、2,000万円となります。他に相続財産がなければ、相続税がかからなくなります。
しかし、相続時精算課税制度を利用すると、小規模宅地等の特例を適用できなくなります。なぜなら、小規模宅地等の特例は、相続または遺贈で取得した土地に対して利用するものだからです。生前に贈与した土地は、すでに相続人の所有物ですので、適用できません。
そうなると、評価額1億円の土地だけでも、相続人が子供1人なら、1,220万円の相続税がかかってしまいます。
これは非常に痛手です。
2-2.不動産所得税と登録免許税がかかる
土地を相続したときには、不動産取得税がかからず、登録免許税も固定資産税評価額の0.4%ですみます。
しかし、土地を贈与したときには、固定資産税評価額の4%の不動産取得税がかかり、さらに、2%の登録免許税がかかります。
(2024年(令和6年)3月31日までに取得した住宅用の土地については、評価額が2分の1になり、さらに税率が3%になります。)
相続 | 贈与 | |
---|---|---|
不動産取得税 | (なし) | 固定資産税評価額の4% (2024年3月31日まで評価額を1/2にして3%) |
登録免許税 | 固定資産税評価額の0.4% | 固定資産税評価額の2.0% |
仮に1億円の固定資産税評価額の土地の場合、相続なら、40万円の登録免税だけです。
ところが、贈与なら、不動産取得税が150万円、登録免許税が200万円、合わせて350万円をかかってしまいます。
税金面で、贈与は相続より圧倒的に不利です。
2-3.土地の価格が値下がりしても、贈与時の価格で、相続税がかかる
相続時精算課税制度では、相続時に、贈与した財産を相続財産に加算するのですが、このとき、相続時ではなく贈与時の評価額で加算して相続税がかかります。
もし土地の価格が値下がりしていても、贈与した時の高い価格のまま、相続税を計算することになってしまいます。
3.土地は贈与せず、使用貸借で
そもそも土地を贈与する理由は何でしょうか?
子供が自宅を建てるための土地をあげたいとか、賃貸不動産を建物と土地まるごと贈与したいとか、そういう理由かもしれません。
親子や家族で円満な間柄であれば、土地は贈与せず、無償で貸せば良いのです(「使用貸借」といいます)。
土地は親の名義で、その上に建てる自宅だけ子供の名義にします。「住宅取得等資金の贈与税の非課税特例」を利用して、建築のための資金を贈与することもできます。
土地は相続時に相続するようにすれば、小規模宅地等の特例を適用できますので、相続税を大幅に節税できます。
3-1.土地を渡したい相続人には遺言書を作成
相続財産は、基本的に、法定相続分で分けることになりますが、土地が共有名義になると、いろいろ問題が生じえます。
そこで、土地を渡したい相続人が決まっていれば、遺言書を作成しておくことで、土地をまるごと渡すことができます。
ただし、他の相続人の遺留分(最低限、権利を主張できる財産の分け前)を侵害していると、遺留分侵害額請求をされる可能性がありますので、生命保険金を残すなどして、遺留分侵害が起きないようにしておきます。
4.相続時精算課税制度で土地を贈与してもメリットがあるケース
ここまで、どちらかというと、相続時精算課税制度で土地を贈与するとデメリットが多いと述べてきましたが、メリットとなるケースもあります。
4-1.土地の価格が値上がりしそうな場合
デメリットの箇所で、「相続時ではなく贈与時の評価額で相続財産に加算する」と述べましたが、ということは、将来的に、土地の価格が値上がりしそうであれば、贈与する意味があります。
新たに開発される地区や、鉄道・幹線道路などが建設される地区は、土地の価格が値上りすることが期待できます。
しかし、日本はバブル以降、経済停滞が長く続いており、少子高齢化も重なって今後、大幅な経済成長は望めない状況です。安倍政権に移行して2013年くらいから、都市部では土地の価格が上昇してきましたが、これ以上、上がるかどうかは不透明な状況です。
相続がいつ発生する(被相続人がいつ死亡する)かはわかりませんので、判断は難しいところです。専門家に相談しながら十分に試算したほうが良いでしょう。
4-2.賃貸物件(土地)がある場合
土地を賃貸借している場合、または、駐車場・コインパーキングなどを経営している場合は、土地を子供などの推定相続人に贈与すると、その土地から得られる収益が推定相続人のものとなります。そうすれば、相続財産を増やさずに相続税を節税することができます。
土地を贈与すると、不動産取得税と登録免許税がかかりますので、それを払ったとしても、獲得する収益のほうが大きければ、土地を贈与するメリットはあるでしょう。
ただし、賃貸マンション・賃貸アパートの場合は、土地を贈与せずとも、建物だけ贈与すれば、収益を推定相続人のものにできます。
この場合、相続時に「貸付事業用宅地」として、小規模宅地等の特例を利用でき、200㎡まで評価額が50%減額されます。また、賃貸物件が建っている土地は「貸家建付地」として、一般的な土地よりも評価額が低くなります。
4-3.相続トラブルが発生しそうな場合
推定相続人どうしで仲が悪く、相続トラブルが発生しそうな場合は、生前贈与で、あらかじめ土地を贈与しておくのも一つの手でしょう。
贈与してあれば土地の所有権はすでに推定相続人のものになっていますので、相続が発生したとき、手続き上のトラブルを防ぐことができます。
ただし、土地の贈与は「特別受益」として持戻される可能性があります。それも考慮して、他の相続人が不利にならないように、遺言書で財産の分配をしっかり考えておきましょう。
まとめ
相続時精算課税制度で土地を贈与するのは、一般的にはデメリットのほうが多いですが、一部、メリットがあるケースもあります。その場合でも、慎重な検討が必要です。
土地の贈与は、税金面や法律面で複雑な要素が多いですので、相続税に強い税理士などの専門家と相談して進めるのも良い手段でしょう。