家族信託は認知症になってからでも可能?信託契約と認知症との関係

せっかく家族信託を始めようとしても、親が認知症になって判断能力を失ってしまっては、家族信託はできません。

しかし、認知症になる前の初期症状の段階では、家族信託をできる可能性があります。

そこで、本稿では、家族信託契約と認知症の関係についてご説明します。

なお、家族信託自体については、以下の記事をご一読ください。

高齢化がどんどん進んでいる現代社会では、財産をお持ちの方が病気や事故、認知症などで判断力を失ってしまい、財産管理がで…[続きを読む]

1.認知症になるとなぜ家族信託ができないか

そもそもなぜ認知症になり、判断能力を失うと家族信託ができないのでしょうか?

家族信託を始める際には、委託者・受託者・受益者を定めて契約をしなければなりません。

契約をするには、判断能力(意思能力)が必要で、判断能力がない人が契約をしても無効になってしまうのです(民法3条の2)。

認知症になると家族信託契約ができなくなる

認知症は脳の病気であり、原因には脳血管障害やアルツハイマーなどが挙げられ、一度患ってしまうと、現在の医療では回復の見込みはありません。

家族信託は、委託者・受益者・委託者に判断能力があるうちに契約をしておかなければならないのです。

2.家族信託契約ができる可能性があるケース

では、認知症になってしまったら、家族信託をすることはできないのでしょうか?

2-1.軽度認知障害(MCI)の場合

軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment)は、認知症を発症する前段階にあり、年間10~30%が認知症に進行すると言われています(※)。認知症になる前の初期症状と言えるでしょう。

物忘れが主たる症状で、日常生活には支障がなく、まだ認知症とは診断されない状態を指します。認知症になった親をお持ちの方は、経験したことがあるかもしれません。

厚生労働省によれば、軽度認知障害の定義は次の通りです。

軽度認知障害の定義

  1. 年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する。
  2. 本人または家族による物忘れの訴えがある。
  3. 全般的な認知機能は正常範囲である。
  4. 日常生活動作は自立している。
  5. 認知症ではない。

厚生労働省e-ヘルスネット「軽度認知障害」より

この段階なら、契約の締結が可能性なケースがあります。

認知症施策の総合的な推進について(参考資料)|厚生労働省老健局

2-2.認知症との誤診がなされている場合

心因性精神疾患や、せん妄、うつ病、持病の薬の副作用などの症状が似ているために、認知症と誤診されることが多く問題になっています。

軽度認知障害を患った方をお持ちのご家族が、認知症と誤解して、家族信託契約ができないと判断している可能性もあります。

こうしたケースでも、家族信託契約を締結できる可能性があります。判断能力が低下していても、失われていなければ契約することが可能と判断されるケースがあるからです。

もっとも、認知症との診断を下すのは医師ですが、家族信託契約の締結が可能か否かを判断するのは、医師ではありません。

3.家族信託契約できるかどうかは公証人の判断

信託財産を受託者個人の財産と区別するための信託口口座を開設する際に、金融機関から公正証書化した家族信託契約を求められることが多いことなどから、家族信託の契約は、公正証書にすることが勧められています。

さらに、家族信託契約を公正証書にする際には、認知症であっても、契約能力の有無を公証人に確認してもらうことができます。

3-1.公証人が契約可能かどうかを判断できる理由

公証人は公証人法26条により、法令に違反した事項や、無効な法律行為行為能力の制限により取り消し得べき法律行為については、証書を作成することができません

また、公証人施行規則13条には、「公証人は、法律行為につき証書を作成し、又は認証を与える場合に、その法律行為が有効であるかどうか、当事者が相当の考慮をしたかどうか又はその法律行為をする能力があるかどうかについて疑があるときは、関係人に注意をし、且つ、その者に必要な説明をさせなければならない。」とあり、審査の結果如何によっては、公正証書の作成を拒否できます。

そのため、例えば公証人が、委託者となった親が家族信託契約の内容を理解していると判断すれば契約を締結することができ、法律行為をする能力がないと判断すれば、作成を拒否することができます。

家族信託契約自体は、私文書であっても有効ではありますが、こうした場合には、当事者の契約能力を第三者によって証明するためにも、家族信託契約は、公正証書により作成することが必須です。

3-2.判断能力のチェックポイント

では、公証人はどのように判断能力をチェックするのでしょうか?

契約作成時にチェックされるポイントは、次の通りです。

  • 氏名、生年月日、住所を言えること
  • 契約書に自分で署名できること(身体的な問題で難しい場合を除く)
  • 契約の内容を理解していること
  • 誰にどの財産をいくら託そうとしているのか理解していること

4.認知症と家族信託についてのよくある質問(FAQ)

認知症になったら家族信託に代わる制度はないの?

認知症になってしまった場合に利用できる制度に、成年後見制度があります。

成年後見制度は、家庭裁判所への申立てにより、成年後見人が選任されると、成年後見人が本人の行為全般について、本人を代理することができ、本人がした行為を取り消すこともできる制度です。

ただし、この制度には、次のようなデメリットがあり、家族信託の代替となる制度とは言えません。

  • 積極的な財産運用ができない
  • 相続対策ができない
  • 特別な理由がない限り途中解任ができない

家族信託は認知症になってからはできない?

家族信託は、認知症になり、判断能力を失ってしまうと行うことはできません。しかし、認知症になる前の初期症状の場合や、認知症と誤診されている場合には、契約することが可能なこともあります。

しかし、堅実に家族信託をするなら、認知症になる前に専門家に相談し、契約を締結することをお勧めします。

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監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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