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「一次相続」「二次相続」という言葉をご存じでしょうか?
例えば、高齢のある夫婦に長男/次男がいるとします。夫が亡くなったら、妻/長男/次男の3人が相続人となります。これが一次相続です。そして、妻も高齢であるため、それほど長く経たないうちに亡くなり、長男/次男の2人が相続人となります。これが二次相続です。
一次相続、二次相続どちらも相続財産に対して相続税がかかります。つまり、一次相続で夫から妻に対して遺産相続をする際に相続税がかかり、さらに二次相続で妻から子供に対して遺産相続をする際にも相続税がかかります。2回も相続税をとられますのでトータルでの相続税を減らすために、二次相続まで考慮した相続税の節税対策が重要となります。
「夫→妻」の相続では、配偶者控除(配偶者の税額軽減)の特例を利用できますので、妻が取得する相続分については、1億6000万円以下または法定相続分以下であれば相続税がゼロになります。一次相続では、子供の相続分の相続税だけですみます。しかし、「妻→子供」の二次相続では、配偶者控除の特例を利用できませんので、多額の相続税を負担しなければならなくなります。一次相続で相続税を低く抑えたとしても、二次相続で相続税が高くなる可能性があるわけです。
また、宅地の評価額を最大80%カットできる小規模宅地等の特例について、配偶者であれば無条件に適用できますが、子供に適用する場合は同居などの要件が必要になってきます。子供が親とは別の場所で暮らしている場合には、二次相続で適用できない可能性もあります。
それではどうしたらトータルの相続税が安くなるかですが、相続財産がいくらか、相続人が何人か、それぞれの相続割合をどうするかによって、対策方法が変わってきます。下手な二次相続の対策をするくらいなら、普通に法定相続分で相続したほうが、トータルで有利になる場合もあります。
実際の計算例をもとに考察してみます。
仮に、上記の夫婦、長男/次男の4人家庭で、夫に2億円の財産があり、妻には財産が全くないとします。
一次相続について、夫が亡くなった場合、相続人は妻/長男/次男の3人です。
二次相続について、妻が亡くなった場合、相続人は長男/次男の2人です。
妻(配偶者)には配偶者控除の特例を適用し、その他の特例(小規模宅地等の特例など)や相次相続控除は考慮しないものとします。長男/次男の相続分は同じとします。
相続税の計算を簡略化するために、相続税の早見表を活用します。
一次相続について、「配偶者がいる場合、子2人」「課税価格:2億円」に該当しますので、相続税額は1,350万円です。
二次相続について、妻の遺産は夫から相続した1億円です。「配偶者がいない場合、子2人」「課税価格:1億円」に該当しますので、相続税額は770万円です。
一次相続と二次相続のそれぞれの相続税を合計すると、1,350+770=2,120万円です。
【参考】相続税の早見表
相続税の計算は、まず全員が法定相続したものとして計算しますので、相続税の早見表で「配偶者がいる場合、子2人」「課税価格:2億円」に該当します。全額を子供が相続したら、配偶者控除を利用できませんので、早見表の相続税額を2倍すれば求められます。つまり、1,350×2=2,700万円です。
一次相続で全額を子供が取得していますので、二次相続はありません。
一次相続で、まず、配偶者控除を適用しない場合も相続税額は2,700万円です。
妻が全額2億円を相続した場合、法定相続分も1億6000万円も超えていますので、相続税がゼロになるのは、1億6000万円の部分までです。つまり、減額分は、2,700万円×(1億6000万円/2億円)=2,160万円。この分を引いて、相続税額は540万円となります。
二次相続では、早見表で「配偶者がいない場合、子2人」「課税価格:2億円」に該当しますので、相続税額は3,340万円です。
一次相続と二次相続のそれぞれの相続税を合計すると、540+3,340=3,880万円です。
一次相続での パターン | 法定相続 | 子供が全額 | 妻が全額 | |
---|---|---|---|---|
相続分 | 一次相続 | 妻:1億円 長男:5,000万円 次男:5,000万円 | 妻:0円 長男:1億円 次男:1億円 | 妻:2億円 長男:0円 次男:0円 |
二次相続 | 長男:5,000万円 次男:5,000万円 | (なし) | 長男:1億円 次男:1億円 | |
相続税額 | 一次相続 | 1,350万円 | 2,700万円 | 540万円 |
二次相続 | 770万円 | - | 3,340万円 | |
合計 | 2,120万円 | 2,700万円 | 3,880万円 | |
差分 | +540万円 | +1,760万円 |
上記の結果を比較すると、一次相続で法定相続分で相続するパターンが最も相続税額が小さくなります。
一次相続で全額を子供が相続する場合と比較して580万円低く、一次相続で全額を妻が相続する場合と比較して1,760万円低いです。
この理由は、基礎控除と相続税率にあります。
まず基礎控除ですが、2回相続すれば基礎控除もそれぞれ適用できます。例では、一次相続の基礎控除額が4,800万円、二次相続の基礎控除額が4,200万円ですので、後者の基礎控除4,200万円が大きく影響しています。
また、相続税率は、財産の金額が小さいほど税率が低く有利です。多額を1回で相続するよりも、2回に分けて相続したほうが相続税が低くなります。
【参考】相続税率
それでは、次に、上記の例に一つだけ条件を加えてみます。妻の財産がもともと1億円あるとします。
一次相続について、早見表から、「配偶者がいる場合、子2人」「課税価格:2億円」に該当しますので、相続税額は1,350万円です。
二次相続について、妻の遺産は夫から相続した1億円ともともと所有している1億円を合わせて2億円です。「配偶者がいない場合、子2人」「課税価格:2億円」に該当しますので、相続税額は3,340万円です。
一次相続と二次相続のそれぞれの相続税を合計すると、1,350+3,340=4,890万円です。
一次相続について、早見表から「配偶者がいる場合、子2人」「課税価格:2億円」に該当します。全額を子供が相続したら、配偶者控除を利用できませんので、早見表の相続税額を2倍して、1,350×2=2,700万円です。
さて、妻が亡くなるとき、妻の財産はもともと自分の財産ですので、二次相続とは言わないかもしれませんが、ここでは仮に二次相続とします。早見表で「配偶者がいない場合、子2人」「課税価格:1億円」に該当しますので、相続税額は770万円です。
一次相続と二次相続のそれぞれの相続税を合計すると、2,700+770=3,470万円です。
一次相続での相続税額は、すでに前の例で計算したとおり、540万円です。
二次相続では、妻の遺産は夫から相続した2億円ともともと所有している1億円を合わせて3億円です。早見表で「配偶者がいない場合、子2人」「課税価格:3億円」に該当しますので、相続税額は6,920万円です。
一次相続と二次相続のそれぞれの相続税を合計すると、540+6,920=7,460万円です。
一次相続での パターン | 法定相続 | 子供が全額 | 妻が全額 | |
---|---|---|---|---|
相続分 | 一次相続 | 妻:1億円 長男:5,000万円 次男:5,000万円 | 妻:0円 長男:1億円 次男:1億円 | 妻:2億円 長男:0円 次男:0円 |
二次相続 | 長男:1億円 次男:1億円 | 長男:5,000万円 次男:5,000万円 | 長男:1億5000万円 次男:1億5000万円 | |
相続税額 | 一次相続 | 1,350万円 | 2,700万円 | 540万円 |
二次相続 | 3,340万円 | 770万円 | 6,920万円 | |
合計 | 4,890万円 | 3,470万円 | 7,460万円 | |
差分 | +1,420万円 | +3,990万円 |
上記の結果を比較すると、一次相続で全額を子供が相続するパターンが最も相続税額が小さくなります。
一次相続で法定相続分で相続する場合と比較して1,420万円低いです。
この理由は、相続税率にあります。
相続税率は、財産の金額が大きいほど税率が高く不利になります。二次相続での財産金額が大きいと相続税もその分大きくなってしまいます。
配偶者に財産がなければ、一次相続で法定相続が有利であったのに対して、配偶者にある程度財産があれば、一次相続で全額を子供が相続する場合が有利であることがわかりました。
夫、妻それぞれの財産状況に応じて、とるべき対策が変わってくるといえます。ポイントは以下の点です。
今回は、小規模宅地等の特例を考慮していませんが、実際には重要なポイントになります。個々の状況に応じて二次相続対策が必要ですので、税理士などの専門家に相談してじっくりと検討されることをオススメします。
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