相続対策で加入すべき保険のポイント

保険

 相続対策として多くの生命保険会社がさまざまな商品を発売していますが、種類も多いため、初心者にはわかりづらいかもしれません。相続対策に生命保険が有効な理由や、生命保険加入を検討する場合のポイントについて、解説します。

1.相続対策商品としての生命保険

1-1.なぜ今生命保険が注目されるの?

生命保険が相続対策商品として有効なことは、昔からよく知られています。生命保険を活用して節税を図る資産家は多く、また、主にそういった資産家に節税対策用の生命保険を販売する保険代理店を兼ねている税理士もいます。

さて、相続対策商品としての生命保険は、2015年1月の相続税の基礎控除引下げおよび税率の引き上げを受け、改めて注目されるようになりました。これまで相続税と無縁であった家庭が、相続を意識せざるを得なくなり、比較的手軽な相続対策として生命保険を活用する人が増えたからです。生命保険会社もこれに対応し、相続対策に適した保険商品の販売を強化しています。

1-2.相続対策に生命保険を利用するメリット

相続対策で生命保険を利用するメリットには、主に次の三点です。

  • 節税対策に有効
    (死亡保険金の非課税金額「500万円×法定相続人の人数」の活用。保険料の生前贈与による生命保険加入も。)
  • 円滑な資産分割に役立つ
    (生命保険の死亡保険金は保険金受取人の固有の財産となり、代償分割の原資にも活用できる。死亡保険金を遺留分侵害額請求への対応原資にすることも可能。)
  • 納税資金の確保が容易
    (死亡保険金を納税資金の原資にすることも可能。)

上記3つ以外にも、

  • 遺産分割協議を経ることなく、すぐに死亡保険金が入ってくる。
    (書類に不備がなければ、保険会社に書類が到着後4~5営業日、早いところでは2~3営業日で保険金が振り込まれます。)
  • 他の相続人に知られることなく相続対策ができ、高齢になってからの相続対策や、2次相続にも利用できる。
  • 契約者貸付制度を利用して、生前の資金効率を良くし、同時に相続財産を圧縮することも可能。

等のメリットがあります。

生命保険

2.相続対策で生命保険に加入する場合のポイント

ではここからは、相続対策で生命保険に加入する場合のポイントについて見てみましょう。なお今回は、50歳~70歳くらいの人が相続対策で生命保険に加入する場合を想定しています。

2-1.生命保険の種類(商品内容)

相続対策で生命保険に加入する場合、当然ながら死亡保障がついていなければ意味がありません。そのため、医療保険のような生前給付型保険は向いていません。がん保険や特定疾病保障保険も同様に不向きです。このうちがん保険については、がんで死亡する人は多いので相続対策には有効と思われるかもしれませんが、がん保険で死亡保険金がついている商品はそもそも少なく、死亡保険金自体も小さいためやはり不向きです。

相続対策に適した生命保険は、何といっても終身保険です。終身保険は保険期間が終身のため、いつ相続が発生しても対応することが可能だからです。終身保険の保険料の払い方は月払いや年払いでもよいですが、保険料を契約時に一時払いで払う「一時払終身保険」も有力な商品です。一時払終身保険は通常の終身保険よりも加入対象年齢が広く、なかには90歳まで加入可能な商品もあります。

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また、保険期間が長期にわたる定期保険(長期平準定期保険とよばれるタイプ)でも構いません。保険期間が長期にわたる養老保険も同じです。ただし養老保険については、近年の超低金利で、保険期間が長い商品はほとんど販売されていないことに注意しましょう。

なお、個人年金保険を活用できる場合もあります。相続財産を年金受給権に組み替えるイメージです。この場合の課税関係はやや複雑になりますが、被相続人が若い場合は、選択肢になるといえるでしょう。

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このように、実際に商品を選ぶ場合は、保険期間の長さが重要なポイントになります。もちろん、被相続人の年齢と平均余命を勘案して、保険料節約のために保険期間の短い商品(例えば、保険期間10年の短期の定期保険など)に加入する選択肢もありますが、確実性を考えるとあまりお勧めできません。

2-2.契約形態

次に、生命保険に加入する場合の契約形態を検討します。

2-2-1.一般的な契約形態

例えば、父親を被保険者として加入する場合、次の4パターンが考えられますが、それぞれの場合の死亡保険金にかかる課税関係は次の表のようになります。

契約形態保険契約者保険料負担者被保険者保険金受取人税金の種類
父親父親父親母親または子相続税(死亡保険金非課税枠あり)
父親父親父親相続人以外相続税(死亡保険金非課税枠なし)
父親所得税(一時所得)
母親母親父親贈与税

契約形態は、上記①の「契約者(保険料負担者)および被保険者=被相続人、保険金受取人=相続人」とするのが一般的です。
これは、「1-2.相続対策に生命保険を利用するメリット」で説明した死亡保険金の非課税金額の適用を受けるためです。例えば②のように、「保険金受取人=相続人以外」としてしまうと、死亡保険金の非課税金額の適用がありません。

2-2-2.生前贈与を行う場合の契約形態

「1-2.相続対策に生命保険を利用するメリット」でも触れましたが、生前贈与を行う場合は、「保険料を贈与税の基礎控除の範囲内で生前贈与し、その保険料で相続人を契約者および保険金受取人、被相続人を被保険者とする」形が一般的です。上の表の契約形態でいえば③にあたります。この場合、受け取る死亡保険金は一時所得として所得税(および住民税)の課税対象となりますが、相続税との比較において有利になる場合があります。

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2-3.保険金額と保険料

保険金額は、慎重に設定する必要があります。なぜならこれは遺産分割の一部であり、相続そのものであるからです。不動産など流動性・換金性に乏しい資産も含め相続財産をすべて洗い出し財産評価を行い、家族構成(相続人構成)も確認したうえで、保険金受取人に残す死亡保険金をいくらにするか決める必要があります。

そして、生命保険だけで相続対策を完結させるのであれば、「相続財産完全防衛額」(相続税をゼロにすることができる生命保険の加入金額)のシミュレーションも行いましょう。これにより、適正な保険金額を知ることができます。

支払う保険料についても、慎重に検討する必要があります。相続対策に力を入れるあまり、手元の資金が枯渇して日々の生活に困ってしまうと本末転倒だからです。現在の金融資産をベースに、老後の基本生活費や住宅関連費用、保険料、臨時支出などの支出額と、公的年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金)および企業年金や確定拠出年金の受取額などの収入額を合わせて検討しましょう。ファイナンシャル・プランナーに「キャッシュフロー表」を作ってもらい、支払保険料が家計へ与える影響を検証してもよいかもしれません。また、「支払う保険料の分だけ相続財産が減る(圧縮できる)」ということにもご留意ください。

ただし実際には、死亡保険金額を設定すれば保険料はだいたい決まってしまいます。ですので、保険金額の設定と保険料の設定は表裏一体であることに注意しましょう。

2-4.利率(返戻率)

利率については、保険期間中の死亡保険金額が一定のタイプの商品であれば、さほど気にする必要はないでしょう。ただし、例えば終身保険の場合、予定利率が低ければ支払う保険料は増え、返戻率(受け取る死亡保険金/支払う保険料の総額)は下がってしまいます。予定利率が高いほうが、より効率的に相続対策ができることになります。一時払終身保険であれば、この予定利率が保険料に与える影響は特に大きくなります。

なお、保険期間中の死亡保険金額が変動する(基本保険金額は保証されている場合が多い)タイプの商品、例えば変額終身保険などであれば、利率や運用実績に注意が必要ですが、このタイプの商品はそもそも相続には適していないため、相続対策には用いないほうがよいでしょう。

2-5.各種特約について

相続対策で生命保険に加入する場合、保障系の特約は一切不要です。保険料が高くなるだけですので、付加は避けましょう。ただしもちろん、保険料がかからない次の特約は必要です。

  • リビング・ニーズ特約
    (余命半年以内と判断されたときに、死亡保険金の全部または一部を受け取ることができる特約)
  • 指定代理請求特約
    (被保険者本人が保険金請求できないときに、あらかじめ指定した代理人が被保険者に代わって請求できる特約)

特にリビング・ニーズ特約は重要です。自動付加の場合が多いですが、例えば「がんで余命半年以内」などと宣告されたときに、保険金を生前に受けとることができるからです。生命保険加入時に決めた相続の内容を変えたいような場合、この生前給付金を原資に相続内容を調整することも可能です。

なお、保険料払込免除特約の要否はケースバイケースといえます。付加していれば、生命保険会社の定める所定の状態になったときに以降の保険料の払込がすべて免除されるため、相続の効果が上がりますが、特約料が別途必要な場合が多いからです。

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2-6.新規加入する場合の注意点

生命保険に新規加入する場合、上記の2-1.~2-5.以外の注意点としては、次のようなことが挙げられます。

  • 生命保険に加入している事実を、どの範囲まで(どの相続人まで)伝えるか。
  • 保険に入りすぎない。

生命保険の死亡保険金は、前述のとおり保険金受取人の固有財産です。しかし、受取人に指定されていない他の相続人が契約の存在をもし知ってしまったら不快に思うことも考えられます。加入の事実をどの範囲(誰に)まで伝えるかは、重要といえます。

また、高額契約にも注意が必要です。死亡保険金の非課税金額を超えた部分は相続財産に上乗せされますので、保険に入りすぎてしまうと、結果として相続税が増えてしまうこともあります。

2-7.注意点(他の契約から切り替える場合)

他の生命保険を解約し、その分の保険料や解約返戻金を原資に新たに入り直す場合には、次のような注意点があります。

  • 中途解約すると損失が発生する場合が多い。
  • 解約を先にせず、新規契約が成立してから解約する。

生命保険はそもそも、中途解約すると損失が発生する場合が多いです。それを承知の上で切り替えるのであれば構いませんが、旧契約の払込保険料総額と解約返戻金は事前にしっかりチェックしましょう。また、生命保険を切り替える場合は、必ず「新規契約が成立してから、現契約を解約する」ことを心がけましょう。

なぜなら、以前に生命保険に加入できたとしても、今度は加入できるとは限らないからです。健康状態によっては診査に通らないこともあります。被相続人が高齢であればなおさらです。ですので、新規契約が成立してから現契約を解約するようにしましょう。この場合、1か月分の保険料が重複してしまうこともありますが、そこは相続対策コストと割り切ることも必要です。

3.まとめ

以上、見てきたように、相続対策で生命保険に加入するメリットは大きいですが、加入時に気をつけるべき点は多いです。家計のキャッシュッフローに与える影響も大きいので、親族へ通知せざるを得ない場合もあるでしょう。

実際に加入する場合は、税理士やファイナンシャル・プランナー、生命保険会社や保険代理店など専門家に相談し、保障内容や保険料、保険金額をしっかり確認しましょう。具体的な節税効果も把握しておきたいところです。生命保険を上手に活用して、相続対策を効率的に行いたいものですね。

監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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