遺産相続の分け前・取り分(法定相続分の計算方法)
おじさん 「ところで、おじいちゃんが亡くなったら、俺たち、いくらもらえるんだい。」 おばあちゃん 「あ…[続きを読む]
兄弟姉妹は被相続人とは横のつながりであり、親や子などの縦のつながりに比べて、2割加算など相続税のうえでは不利となることが多くなります。また兄弟姉妹での相続は、相続トラブルの可能性が高くなります。
これを読んで兄弟姉妹の相続税について知っていただき、事前対策が行われるきっかけになれば幸いです。
目次
兄弟姉妹は法定相続人に該当しますが、法定相続分はどのくらいあるのでしょうか。
民法に定められた相続人になれる人のことを「法定相続人」といい、法定相続人が相続できる遺産の取り分のことを「法定相続分」といいます。
法定相続人には次の順位が定められており、子と父母がいない場合に限って兄弟姉妹が法定相続人となります。配偶者は常に法定相続人です。
第1順位 | 子(直系血族) |
---|---|
第2順位 | 父母(直系血族) |
第3順位 | 兄弟姉妹 |
被相続人に配偶者がおらず兄弟姉妹だけが法定相続人になる場合には、遺産すべてが法定相続分となります。
兄弟姉妹が1人ではなく複数いる場合には、遺産すべてを人数で割った割合が法定相続分となります。
例えば3人兄弟の法定相続分は各1/3であり、遺産が6,000万円ある場合には各2,000万円となります。
配偶者がいる場合の法定相続分は、法定相続人の順位が高いほど多くなっており、次のように定められています(民法900条)。
第1順位 | 子 | 1/2 | 配偶者 | 1/2 |
---|---|---|---|---|
第2順位 | 父母 | 1/3 | 2/3 | |
第3順位 | 兄弟姉妹 | 1/4 | 3/4 |
相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合には、兄弟姉妹には1/4の、配偶者には3/4の取り分があります。
例えば、遺産が4,000万円あったとすると、3,000万円は配偶者、残りの1,000万円が兄弟姉妹ということになります。
兄弟姉妹が4人いるとすると、1,000万円を更に4人で分けるので各250万円となります。
代襲相続とは、相続人が既に死亡している場合には、代わりにその相続人の子が相続する仕組みのことをいいます。父母が死亡している場合には、祖父母へ代襲相続されます。
子や父母の場合の代襲相続は、子の子も死亡している場合には子の子の子と、この世に存在している限りはどこまでも続くのですが、兄弟姉妹の場合には1代限りとなっているので注意しましょう。被相続人から見た場合の甥姪までしか代襲相続はありません。
次に遺留分についてです。
遺留分とは最低限の遺産の取り分のことで、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められています。
基本的には配偶者、子、親となり、これらの代襲相続人にも遺留分が認められます。代襲相続人は、被代襲相続人の地位をそのまま引き継ぐことになるためです。よって兄弟姉妹の場合には、代襲相続人にも遺留分はないということになります。
特定の相続人が遺産のすべてを相続するなど、他の相続人の遺留分が侵害された場合には、侵害した相続人に対して遺留分侵害額請求を行うことで、侵害額分の遺産を取り戻すことができます。
法定相続人が兄弟姉妹のみである場合、兄弟姉妹には遺留分がないため遺留分を請求できる人はいません。
例えば、被相続人の愛人が遺言により遺産のすべてを相続したとしても、泣き寝入りになってしまいます。
法定相続人が配偶者と兄弟姉妹である場合には、配偶者には1/2の遺留分があります。兄弟姉妹にはありません。
よって、愛人が遺産のすべてを相続したとしても、配偶者はその1/2を遺留分侵害額請求で取り戻すことができます。
兄弟姉妹が相続する場合の相続税計算について、具体的に解説します。
相続税の計算には「相続税額の2割加算」という制度があり、配偶者と1親等の血族(子または父母)以外の人の相続税については1.2倍になります。
子であれば100万円の相続税が、単に兄弟姉妹が相続したというだけで120万円になるのです。
相続は親から子へと行われるのが通常の形であり、その子の相続が発生した時にまた子へ相続税が発生するというのが流れです。
そのため、配偶者と1親等の血族以外については、相続税の調整として2割加算されることになっています。
なお、2割加算について詳しくは、以下の関連記事を是非お読みください。
次の条件における相続税を計算してみましょう。
基礎控除額:3,000万円+(600万円×2人)=4,200万円
1憶円 - 4,200万円= 5,800万円
5,800万円×1/2=2,900万円
2,900万円×15%-50万円=385万円
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1000万円以下 | 10% | - |
3000万円以下 | 15% | 50万円 |
5000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1700万円 |
3億円以下 | 45% | 2700万円 |
6億円以下 | 50% | 4200万円 |
6億円超 | 55% | 7200万円 |
【出典サイト】No.4155 相続税の税率【平成27年1月1日以後の場合】相続税の速算表|国税庁
兄385万円 + 妹385万円 = 770万円
兄:770万円 × 6,000万円 ÷ 1億円 = 462万円
妹:770万円 × 4,000万円 ÷ 1億円 = 308万円
今回は便宜上、2割加算のみとします。
兄:462万円 × 1.2 = 554.4万円
妹:308万円 × 1.2 = 369.6万円
この相続で納める相続税は924万円になります。
配偶者の有無で大きく変わるのは、配偶者控除の有無です。
先ほどの兄弟姉妹のみの相続税の場合と、どれほど変わるのでしょうか。見ていきましょう。
基礎控除額:3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円
1憶円-4,800万円※=5,200万円
妻
5,200万円 × 3/4 = 3,900万円
3,900万円 × 20% - 200万円 = 580万円
兄、妹
5,200万円 × 1/4 × 1/2 = 650万円
650万円 × 10% = 65万円
妻580万円 + 兄65万円 + 妹65万円 = 710万円
妻:710万円 × 5,000万円 ÷ 1憶円 = 355万円
兄:710万円 × 3,000万円 ÷ 1憶円 = 213万円
妹:710万円 × 2,000万円 ÷ 1億円 = 142万円
今回は便宜上、配偶者控除と2割加算のみとします。
妻:355万円 - 配偶者控除355万円 = 0(※)
兄:213万円 × 1.2 = 255.6万円
妹:142万円 × 1.2 = 170.4万円※ 妻の相続分は法定相続分以下であるため、相続税は全額非課税となります
この相続で納める相続税は426万円になります。
兄弟姉妹のみの場合には相続税の全額が2割加算の対象になりますが、配偶者がいる場合には配偶者控除の適用が受けられること、兄弟姉妹の相続分が減ることによって2割加算の対象となる相続税が減ることから、大きく相続税が軽減されることが分かります。
相続は大きなお金が絡む問題なので、どうしてもトラブルが起こりやすくなります。相続を「争続」、「争族」などと表す造語ができているほど社会問題となっているのです。
特に兄弟姉妹の場合には、お互い幼い頃から気心知れている分、各々が言いたいことを言ってしまう傾向があります。
またある程度の年齢になっていると、それぞれに配偶者がおり、血のつながった兄弟姉妹だけであればまとまった話でも、元は他人である配偶者が口を出してかき回してしまうということもあります。
仲の良かった兄弟姉妹が相続を境に絶縁状態となってしまっては、被相続人は天国で何を思うでしょう。
相続トラブルの厄介な点は、多くの人が自分には関係ないと思っていることです。
相続トラブルを防ぐためには生前対策が重要です。「うちは仲が良いから大丈夫。」などと放置せずに、あらゆる可能性に対処しておくと安心です。
被相続人が遺言で誰にどの財産を渡すのか指定しておきましょう。生前であれば被相続人を交えて話し合いを行うことができるので、冷静に決めることができます。
相続人が配偶者と兄弟姉妹で、兄弟姉妹に遺産を渡したくない場合には、すべてを配偶者に渡す旨の遺言書を残しておきましょう。兄弟姉妹には遺留分がないので、配偶者が遺留侵害額請求を受ける心配はありません。
連絡が取れない兄弟姉妹がいる場合には、音信不通だからといって勝手に遺産分割をしてしまうと、ある日突然、遺産を渡すように要求があるかもしれません。連絡を取る術を探しましょう。
兄弟姉妹が相続人となる場合には、相続トラブルをいかに回避するかが重要です。
被相続人と将来の相続人とでしっかり話し合いを行い、遺言書を残すなどして遺産分割での争いが起きないようにしておきましょう。
生前対策から税理士を交え、更に確実なものにしておきましょう。