相続登記の必要性、放置しておくと将来大変なことに!
不動産を相続したら相続登記を行って名義を被相続人から相続人に変更する必要があります。原則として、相続人名義に変更した後でなければ相続財産を処分できないからです。しかし、これを面倒だから、費用がかかるからといって相続登記をしない人もいるようです。
他人と不動産を売買したら所有者が変わるので登記をするのは当たり前ですが、相続の場合、親の名義であったり、ずっと住み続けている家であったりして、そんなに慌てて相続登記をしなくてもいいんじゃないかと考えているうちに忘れてしまうこともあるようです。
実は相続登記をしないと将来大変な目に遭うこともあります。
その一例をご紹介します。
例1:土地を担保にお金を借りようとしたら先代社長の名義で借りられない!
会社を経営しているAさんは、20年前に亡くなった父親である先代社長から事業を引き継ぐとともに、会社で利用している土地も相続しました。相続人が多くいろいろもめたことと、事業の引き継ぎも大変で忙しかったので、余裕がなく相続登記をしないで放っておき、約20年が経ちました。
頑張って仕事をし会社を成長させてきましたが、リーマンショックで取引先の倒産が相次ぎ、自社の売り上げも落ちて資金繰りが厳しくなり、取引先の銀行から緊急の融資を受けることになりました。自社で振りだした手形の不渡りを防ぐため、すぐにでも融資を受けたく、土地を担保にしようとしたのですが、土地が父親の名義になっていたため、そのままでは融資を受けられないことが判明しました。
お金を借りるためには、まず、相続登記をして父親からAさんに所有権移転登記を行い、その後に、銀行のために抵当権設定登記をしなければなりません。
Aさんは慌てて相続登記の準備を始めましたが、相続登記をするためには次のような書類が必要です。
・相続人の戸籍謄本
・相続人全員の印鑑証明書と、住民票
・不動産の固定資産評価証明書と全部事項証明書
・遺産分割協議書または遺言書
相続があったのは何しろ20年も前の話、相続人6人、代襲相続人4人がいましたが、全国に散らばって住んでいますし、相続人のうち1人はすでに死亡、1人は海外在住と連絡をとるのも容易ではありません。Aさんは弁護士に依頼し自らも動いて、被相続人と当時の各相続人の必要書類をなんとか揃えましたが、不動産登記簿上の被相続人の住所と戸籍上の本籍地とが異なっていることが判明しました。
両者が同一人物であることを証明するために被相続人の戸籍の附票(個人の住所の履歴)が必要になってきましたが、手形の決済日まであと2日、速達でも間に合わない可能性があります。そこで仕方なくAさん自ら片田舎の村役場まで赴き一枚の書類をもらったのです。そして、なんとか無事に相続登記を終え、融資を受けることができました。
いざ、土地を利用しようとしたら、まず相続登記が必要になり、20年も前の相続のため書類をそろえるのに大変苦労したという事例でした。
例2:贈与者が亡くなってしまい、不動産の所有権移転登記が困難に!
こんどは相続ではなく贈与ですぐに登記をしなかったために問題が発生した事例です。
Bさんは叔父さんと仲が良くお互いに近くに住んでいるためよく叔父さんの家に通っていました。叔父さんはガンを患っていましたが妻をすでに亡くしており、一人娘のCさんは遠くに住んでいてほとんど顔を見せませんので、代わりに看病をしたり買い物をしたりと叔父さんに尽くしてきました。その結果、Bさんは叔父さんから、ある不動産を贈与すると言われ受け取ることになりました。
贈与された場合、通常、贈与契約書を作成して不動産の所有権移転登記を行うのですが、叔父さんが病気だったこともありあまり面倒をかけたくなく、贈与契約書を作成しただけで、所有権移転登記は行わないままにしておきました。
そして、あるとき、叔父さんの病状が悪化して急死してしまいました。さて、ここからが問題です。
不動産の名義は叔父さんのままですので、相続人である叔父さんの一人娘Cさんは、当然相続する権利があると主張してきました。Bさんは叔父さんと結んだ贈与契約書を見せて贈与されたものであることを主張しましたが、父が贈与するはずがないと聞き入れてくれません。
そこで仕方なくBさんはCさんを被告として、不動産について贈与を原因とした叔父さんからBさんへの所有権移転登記をするように裁判を起こしました。Cさんは叔父さんの相続人として、叔父さんの地位を包括的に受け継ぎますので、Bさんへの所有権移転登記をする義務が含まれているからです。
裁判で贈与契約の有効性が認められ判決によりようやくBさんへの所有権移転登記を済ませることができましたが、叔父さんが亡くなってからすでに1年近くが経ってしまいました。
もし、Bさんと叔父さんの間で贈与契約書も作成していなかったら証明が難しく、民法上でも書面によらない贈与は取り消すことができると定められていますので(民法550条)、所有権移転登記はほぼ不可能だったところでした。
また、もしCさんに悪意があり、判決が出ないうちに、相続人の立場を利用して相続登記をしてCさん名義に変更し、それを知らない第三者のDさんに売却してDさんに名義変更してしまったら、たとえ贈与契約が判決で認められても、善意のDさんから所有権移転登記をすることは難しくなる可能性があります。
不動産の相続・贈与では登記は必須
不動産の相続・贈与があったとき、法的には登記は義務ではありませんが、後々のことを考えると登記は必須と考えて良いです。遺産分割が完了して登記できる状態になったら、できるだけ早く登記することが望ましいです。特に、相続人が二人以上いる場合は、遺産分割協議書で単独で相続すると記載してあっても、単独所有の登記をしておかないと、他の相続人にこっそり共有の登記をされてしまう危険があります。
もし相続人が一人で、被相続人の生前から一緒に暮らしている自宅であれば、相続登記をしなくても、その不動産を担保に入れたり売却しなければすぐには問題は生じないでしょう。
戦前の旧民法では家督相続制度というものがありました。家督相続では基本的に長男がその家庭にある一切の財産を引き継ぎますので、相続人は一人であり相続登記をする必要がなかったのです。戦後、民法が改正され複数人で相続する時代になりましたが、それでも相続登記されずに、家や田畑の名義が二世代前の祖父の名義になっているという例もたくさんあります。
子孫代々その土地に住み続けるのら構わないのかもしれませんが、将来、売却したりするとなるとやはり相続登記をしておく必要があります。
無用なトラブルに遭わないためにも、相続・贈与が発生したら出来る限り早く所有権移転登記をすませましょう。