預貯金の相続税評価と相続手続きについてわかりやすく解説
預貯金は相続が発生した時に引き継ぐ可能性が高い財産です。しかし、相続税評価や金融機関での名義変更などの相続手続きとい…[続きを読む]
相続税の計算は、相続財産の金額が元になります。そして、相続財産の金額は、財産の種類ごとに財産評価計算により算出されます。
今回は、主な相続財産ごとに評価方法の基本を解説します。
目次
ほぼすべての相続に含まれている相続財産であり、金額が明確ですので評価方法も単純です。
普通預金は相続開始日の残高がそのまま評価額になります。金融機関から相続開始日時点の残高証明書を取得しましょう。
厳密にいうと既経過利息も含めなければなりませんが、預金額が何千万円単位であれば経過利息の額も知れていますので考慮しなくても大丈夫です。
既経過利息とは、預貯金をその時点で解約したときに支払われる利息のことです。
利息は通常、年何回か決まった時期に支払われるため、前回の利息受け取り日から相続開始日までの利息は未収状態になっていることになります。
この利息には20.315%の源泉所得税が発生するので、既経過利息の金額はこの源泉所得税相当額を差し引いた金額となります。
何億円ともなると相続税額に影響を与えるかもしれませんので、含めた方が良いでしょう。
定期預金は相続開始日の残高に既経過利息(源泉徴収後)の合計が評価額になります。金融機関に発行してもらう残高証明書は、既経過利息も含むように依頼しましょう。
近年では投資などの目的で、日本円ではなく外貨建てとして預金している人が増えています。
外貨建て預金は相続開始日時点の、対顧客直物電信買相場(TTB: Telegraphic Transfer Buying)」で日本円に換算した金額が評価額になります。
評価額 = 外貨建て資産額 × TTB
相続開始日のTTBがない場合には、相続開始日より前の日付で最も近い日の相場を使います。
自宅、賃貸マンション、代々受け継いでいる更地や山林などはすべて不動産になります。
不動産の評価計算は、その不動産の状況を金額にできる限り反映させられる算式となっており少々複雑です。実際に申告する際には税理士へ相談した方が良いでしょう。
土地の評価額は、路線価がある土地については路線価方式、それ以外の土地については倍率方式により計算します。
路線価方式は路線価に地積を乗じて計算する方法、倍率方式は固定資産税評価額に倍率を乗じて計算する方法です。
路線価と倍率は国税庁ホームページから調べることができ、相続開始日が属する年分のものを使用します。
【参考サイト】財産評価基準書|国税庁
借地権とは土地を借りて自分の家を建てている場合における、土地部分の権利です。
借地権の評価額は、土地の評価額に借地権割合を乗じて計算します。
借地権評価額 = 自用地としての評価額 × 借地権割合
借地権割合は地域ごとに定められており、上記の路線価や倍率を調べるページに一緒に記載されています。
家は建築基準法に従って建てなければならないのですが、その中に接道義務「4m以上の幅を持つ道路に家が2m以上接していなければならない」というものがあります。
古い地域では4mの幅が確保されていない家も多く、そのような場所に新たに家を建てる場合には、建築部分を後退させて4m幅を確保する義務があります。これをセットバックといいます。
セットバック部分については土地利用が制限されることになるので、7割の評価減が行われます。
土地の評価額 = 土地全体の評価額 - 全体の評価額 ×(セットバック部分の面積/土地全体の面積)× 0.7
建物の評価額は土地に比べて非常にシンプルで、固定資産税評価額となります。
固定資産税評価額は、土地が所在している市区町村から毎年送られてくる固定資産税納税通知書に記載されており、単にその金額を申告書に書き写すだけです。
ただ、次のような場合には固定資産税評価額に調整計算が必要になります。
賃貸マンションは所有者に100%の権利があるわけではなく、住んでいる人にも持分割合の権利があるため、その分を差し引く計算を行います。
建物の評価額 = 自用家屋評価額 ×(1-借家権割合×賃貸割合)
借家権割合は、全国一律30%です。
賃貸割合とは満室の場合を100%とした割合で、例えば10室中7室に入居者がいる場合の賃貸割合は70%ということになります。
土地部分については、貸家建付地として次の算式で計算します。
土地の評価額 = 自用地としての評価額 ×(1-借地権割合×借家権割合 × 賃貸割合)
建設中の建物にはまだ固定資産税評価額がないため、建物を建てるためにかかった費用現価を使って評価額を計算します。
建設中家屋の評価額 = 費用原価(家屋の総工費×工事進捗率)× 70%
工事の進み具合である工事進捗率は、建設業者に確認します。「進捗率証明書」を発行してもらいましょう。
建物附属設備とは建物と一体になって機能している設備のことで、例えば庭園や門、塀などが該当します。
建物附属設備は減価償却が可能となっている観点から、建物の固定資産税評価額に含まれてはいないとして、別途、評価計算を行います。
電気、ガス、水道などのライフライン設備や、消火、排煙などの安全設備は、日常生活になくてはならないものであり、建物とセットであると考えます。
よって、建物の固定資産税評価額に含まれているとして、別途での評価計算は行いません。
塀や門などは日常生活に影響するものではありませんが、隣接する土地の境界を示すものであり必要なものであり財産価値があるため、次の算式で評価額を計算します。
評価額 =(再建築価額-減価償却分)× 70%
再建築価額とは、相続開始日にその設備を新たに建築するとした場合に必要になる費用のことです。
減価償却は定率法で計算します。
庭石や庭木、庭池、あずま屋などは景観のための設備であり、なくても問題ありません。このような設備については次の算式で評価額を計算します。
評価額 = 調達価額 × 70%
調達価額とは相続開始日において、同じ財産を同じ状態で取得するためにかかる価額のことです。新品の価格ではないので注意しましょう。
なお、財産価値がないと判断される場合には評価する必要はありません。実務上では、余程大きく、庭師に定期的に手入れをしてもらうような庭でなければ評価をすることは稀です。
株式、社債、信託、国債などの有価証券について解説します。
株式の評価は市場価格がある株式と、ない株式に分かれます。
東証一部などの金融商品取引所に上場されている株式には取引価格があるので、「相続開始日の最終価格」が評価額になります。
ただし、この最終価格が次の3つの価格より高い場合は、次の3つのうち最も低い価格が評価額になります。
非上場株式とは上場していない株式のことで、中小企業の株式のほとんどは非上場株式に該当します。
非上場株式の評価には次の3つの方法があります。
3つのうちどの方法を使って評価するかは、経営権を支配しているかいないか、経営権を支配している場合にはさらに、その法人が大会社、中会社または小会社のいずれに該当するかによって決まります。
会社の大中小の区分は、評価する株式を発行した会社を業種、従業員数、直前期末における純資産額、直前期末における売上高により決まります。
経営権を支配している場合
- 大会社:類似業種比準方式
- 中会社:類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式
- 小会社:純資産価額方式
経営権を支配していない場合
- 配当還元方式
公社債とは国(国債)や公共団体、企業などが発行する債券のことで、利付公社債と割引公社債に分かれ、それぞれ上場されているもの、売買参考統計値を選定できるもの、その他のものに分かれます。
利付公社債とは、公社債の券面に利札が付いている有価証券で、1年間のうちの一定期日に「利札分の利息」が支払われます。
上場されている利付公社債については、市場価格により評価します。
評価額 =(最終価格 +既経過利息)× 額面価額 ÷ 100
なお、売買参考統計値が公表される銘柄として選定できるものでもある場合には、最終価格と平均値のどちらか低いほうの金額により評価します。
既経過利息は定期預金と同様に、源泉徴収後の金額です。
上場されていない利付公社債でも、売買参考統計値を選定できるものである場合には、市場価格により評価します。
評価額 =(売買価格の平均値 + 既経過利息)× 額面価額 ÷ 100
上場されておらず、売買参考統計値を選定できない利付公社債については、発行価額により評価します。
評価額 =(発行価額+既経過利息)× 額面価額 ÷ 100
割引公社債とは、公社債の額面価額を下回る金額で発行される有価証券で、額面価額と購入金額との差が利息に相当する部分になります。
上場している割引公社債は、有価証券の最終価額によって評価をし、売買参考統計値が公表されている銘柄でもある場合には、最終価額と平均値のいずれか低い方で評価します。
評価額 = 最終価額 × 額面価額 ÷ 100
上場されていない割引公社債で、売買参考統計値を選定できるものは、市場価格により評価します。
評価額 = 平均値 × 額面価額 ÷ 100
上場も売買参考統計値もない割引公社債は、発行価格で評価します。
評価額 =(発行価額 + 既経過利息※)× 額面価額 ÷ 100
※この場合の既経過利息は次の算式で計算します。
既経過利息 =(額面価額 - 発行価額)×(課税時期までの日数 ÷ 償還期限までの日数)
信託とは、所有している財産を金融機関などの運用のプロに預け、その運用益を受け取る金融資産です。信託には「貸付信託」と「証券投資信託」の2つがあります。
貸付信託とは信託財産を運用して、その利益を受け取る金融商品のことで、正確には「貸付信託受益証券」と呼び、この権利を持っていることを証明できる有価証券をいいます。この貸付信託は元本と運用益、買取割引料を使って評価します。
評価額 = 元本 + 既経過収益 - 買取割引料
既経過収益とは、相続開始日までに得られた運用益です。
買取割引料とは、信託先へ支払う手数料のようなものです。
どちらも信託先に確認しましょう。
証券投資信託とはファンドとも呼ばれ、運用の専門家である投資信託会社が多数の投資家から集められたお金を使って、株式などで運用して得られた利益を投資家に還元する金融商品のことです。
上場されている証券投資信託は、上場株式と同じ方法で評価します。
上場されていない証券投資信託は、決算時期によって次の2つの方法により評価します。
証券投資信託の中には、中期国債ファンドやMMFなど日々決算をしている金融商品があります。これらは相続開始日に支払いを受けられる金額にて評価をします。
評価額 = 1口当たり基準価格 × 口数 + 未収分配金 - 解約手数料
日々決算型以外の証券投資信託は、相続開始日における1口当たりの基準額に基づいて評価をします。
評価額 = 課税時期の1口当たり基準額 × 口数 - 解約手数料
預金、不動産、株式などは金額が大きく相続財産の定番ですが、次のような財産も評価対象となりますので忘れないようにしましょう。
家庭用財産とは、自宅にある家具や貴金属など日常生活で使用しているありとあらゆるものが該当します。
評価は原則として次の金額により評価します。
これらの金額が分からない場合には、次の算式で評価します。
評価額 = 同種・同規格の新品の小売価額 - 償却費用
ただし、雑貨など少額なものまで1つずつ評価する必要はありません。実務的には主に次のような財産を評価します。
車は市場が充実しているので、相続開始日時点における売買実例価格(市場価格)、精通者意見価格(査定価格)を容易に把握することができます。
中古車オークションなどに載っているその車と同種、同規格の中古車価格や、中古車買い取り業者の査定価格などから評価します。
家具家電も車と同様に、相続開始日時点における市場価格や査定価格により評価します。中古買い取り業者の買取価格などを参考にしましょう。
ただし、評価額が5万円以下のものについては「家財一式○○万円」として差し支えありません。
相続開始日時点における市場価格や査定価格により評価しますが、金額が大きいものについては鑑定士や美術商などの専門家に依頼して確実な評価を付けてもらいましょう。
事業としてこれらを所有している場合には、棚卸商品として帳簿価格で評価します。
電話加入権の評価額は、原則として、電話取扱局ごとに国税局長の定める標準価額によって評価するので、お住まいの地域の電話加入権の評価額を「財産評価基準書」から確認しましょう。
例えば、令和元年分の東京都の相続の場合には、一回線あたり1,500円が標準価額となっています。
【参考サイト】財産評価基準書|国税庁
「保険料負担者:被相続人、被保険者:被相続人以外」の場合には、被相続人が貯めてきた財産であり、生命保険契約も相続財産として課税対象になり、生命保険を解約した際に戻ってくる「解約返戻金」の金額によって評価します。
また解約返戻金の他に、前納保険料や剰余金の分配額等がある場合は、これらを解約返戻金に含め、源泉徴収がある場合は差し引きます。
それぞれの金額は生命保険会社に問い合わせましょう。
生命保険契約の評価額 = 解約返戻金 + 前納保険料 + 剰余金分配額 - 源泉徴収に該当する額
※解約返戻金がない掛捨てタイプの生命保険の場合は評価する必要はありません。
金は、相続開始日の業者買取価格で評価します。
金地金の買取価格は1gあたりの金額で公表されているため、重量を乗じるだけで計算することができます。
評価額 = 1g当たりの買取価格 × 所有しているg数
相続した金を売却し、売却益が50万円を超えた場合には、譲渡所得となり所得税がかかるので注意しましょう。
ゴルフ会員権は、相続開始日における取引相場を使って評価します。預託金など別途返還される金額がある場合には、その金額もプラスします。
評価額 = 相続開始日の取引価格 × 70%
取引相場がないゴルフ会員権の場合には、次の3つの評価方法となります。
リサイクル預託金は、車を購入したときに購入先へ預けるお金で、その車を手放す際にかかるリサイクル費用と相殺されます。
よって、預け金であり財産なので厳密には相続財産となるのですが、リサイクル預託金をいくら払っているか把握できていない場合も多く、金額は多くても2万円程度なので無理に含めなくても良いでしょう。
マイナスの相続財産として、借入金や未払金があります。
これらはその返済額が評価額となり、債務控除として相続財産から差し引くことができます。
ただし、負債が確実に認められるものでなければ評価されないので注意しましょう。
主な相続財産の評価計算はこの通りです。
相続財産の種類ごとに当てはめて計算されれば、大まかな相続税の金額を把握することができるかと思います。
実際の申告になると、もっと細かい計算や判断が必要になりますので、税理士に依頼されることをおすすめします。
財産 | 評価方法 | |
---|---|---|
土地 | 自用地 | 路線価方式: 路線価×地積×画地補正率 倍率方式: 固定資産税評価額×倍率 |
貸家建付地 | 自用地としての評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合) | |
家屋 | 自用家屋 | 固定資産税評価額×1.0 |
貸家 | 自用家屋評価額×(1-借家権割合×賃貸割合) | |
建設中の家屋 | 費用原価×70% | |
附属 設備 等 | 家屋と一体化 している設備 | 家屋の価額に含めて評価 |
塀、門など | (再建築価額-減価償却分)×70% | |
庭園 | 課税時期の調達価額×70% | |
株式 | 上場株式 | 下記のうち最も低い値 ・相続開始日が属する月における、すべての営業日の最終価格の平均 ・相続開始日が属する月の前月における、すべての営業日の最終価格の平均 ・相続開始日が属する月の前々月における、すべての営業日の最終価格の平均 |
非上場株式 | 次のいずれかの方式 ・類似業種比準方式 ・純資産価額方式 ・併用方式 | |
公社債 | 利付公社債 | 上場の場合:(最終価額+既経過利息)×額面価額÷100 |
割引公社債 | 上場の場合: 最終価額×額面価額÷100 | |
信託 | 貸付信託 | 元本+既経過収益-買取割引料 |
証券投資信託 | 上場:上場株式等と同じ 日々決算型:1口当たり基準価格×口数+未収分配金-解約手数料 その他:課税時期の1口当たり基準額×口数-解約手数料 | |
預貯金 | 普通預金 | 預金残高 |
定期預金 | 預金残高+既経過利息 | |
外貨建て資産 | 外貨建て資産額×TTB | |
家庭用 財産 | 家具・家財類 | 相続開始時点の売却価格・査定価格 |
書画・骨董品 美術品・ 貴金属類 | 相続開始時点の売却価格・査定価格 | |
電話加入権 | 国税庁による評価額 | |
自動車 | 相続開始時点の売却価格・査定価格 | |
生命保険契約 | 解約返戻金+前納保険料+剰余金分配額 -源泉徴収に該当する額 | |
金 | 相続開始時点の小売価格 | |
ゴルフ会員権 | 取引相場のある会員権:課税時期の取引価格×70% |
これらの計算や評価にミスがあると、相続税の税務調査の対象となる可能性が高まります。確実かつ正確な相続税申告を行うためには、できる限り相続税に強い税理士に依頼することをおすすめします。