後継者に株式を全部相続させたい!遺留分に関する民法の特例

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事業承継の課題の一つに、「後継者以外の相続人に対する遺留分への配慮」があります。遺留分とは民法で認められた、相続人に最低限の相続権を補償する制度です。その結果、自己株式を後継者だけに相続できず分散してしまい経営が困難になる問題が多く起きています

これを受け経営承継円滑化法が成立し、その中の一つとして、遺留分に関する民法の特例の制度ができました。

経営承継円滑化法とは?

遺留分に関する民法特例の根拠となる経営承継円滑化法とは一体どんな法律なのでしょうか。

円滑化法の目的は「経営承継を支援する」こと

正式名称「中小企業における経営の円滑化に関する法律」は、中小企業の経営承継を支援することを目的に2009年5月に成立した法律です。そして、後継者への経営承継を円滑にすることで、事業活動の継続を維持させようと考えられています。

円滑化法では3つの課題に取り組んでいる

中小企業は地方産業の雇用を担い、地域活性の中心となっています。しかし、中小企業経営者の高齢化に伴い、後継者へスムーズに事業承継することが重要な課題と位置付けられています。そして、スムーズな事業承継を阻む課題として、下記の3つが挙げられています。

(1)民法上の遺留分の制限
(2)代表者交代による信用不安
(3)自社株式等に係る相続税・贈与税負担

これらを解消するために中小企業庁を中心として「遺留分に関する民法特例」や「金融支援」、「事業承継税制」を創設しています。ここでは1つ目の「遺留分に関する民法特例」(円滑法3条から11条)を詳しく扱います。3つ目の「事業承継税制」については、下記を参照ください。

【参照】事業承継税制とは

民法上の遺留分の制限とは?

中小企業の経営承継で課題に挙がっている「民法上の遺留分の制限」とはどのような制限なのでしょう。「遺留分に関する民法特例」を解説する前に確認しておきます。

遺留分は相続人が有する最低限の補償範囲

遺留分は兄弟姉妹を除く相続人に認められた、最低限の相続権利のことを言います。原則では被相続人は遺言によって、自分の相続財産を自由に処分することができます。

しかし、自由に処分できると言っても、無制限に処分できる訳ではありません。下記の通りに遺留分が認められています。

  • 直系尊属のみが相続人なら相続財産の3分の1
  • 直系尊属以外の相続人がいるなら2分の1

これは被相続人が自由に処分をすると、相続できなかった相続人に不平・不満が残るからです。したがって妥当な範囲での最低補償が「遺留分」として認められています。

遺留分が侵害されている(自分の相続した分が遺留分より少ない)と判明した相続人は、他の相続人に対して「遺留分侵害額請求」をして遺留分を取り戻すことができます。

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遺留分によって起きる事業承継の課題

民法上で遺留分が認められているために、事業承継では次のような課題が起きています。

  • 後継者だけに自社株式を移転させられない(=株式分散が起きている)
  • 後継者には自社株式を相続できたが、事業用資産を他の相続人が相続した

まず「株式分散が起きている」課題ですが、中小企業の多くは少人数の株主で経営の意思決定をしています。現経営者から後継者だけに自社株式を移転できれば、後継者は経営の意思決定をしやすいです。しかし、遺留分によって後継者以外の相続人も株式を相続してしまうと、株式が分散してしまい後継者が経営の意思決定をしにくくなります

また「事業用資産を他の相続人が相続する」課題ですが、事業経営に必要な資産は株式だけではありません。よくあるのは、会社が利用しているビルや土地を先代経営者個人から借りている場合です。もし、遺留分があることで、後継者以外の相続人に事業用資産がわたってしまうと、賃貸契約を解除され会社が困ることも考えられます

遺留分に関する民法の特例とは?

特例の趣旨

民法上の遺留分の制限により、後継者の安定的な経営が阻まれるのはご説明したとおりです。
民法では、他の推定相続人(相続人となる予定の人)に遺留分を放棄してもらうこともできますが、他の相続人から家庭裁判所に申し立て許可を受ける必要があります。この手続きは面倒であり、また「放棄」という明らかに不利益な内容だからか、実際に遺留分を放棄してもらうことは難しいことが多い状況でした。

【参考】相続弁護士相談Cafe:遺留分の放棄とは?その手続き方法、相続放棄との違い

そこで、一定の条件さえ整えば後継者から自ら手続きを進められるように、経営承継円滑化法に基づき「遺留分に関する民法特例」が創設され、平成21年3月1日から施行されました。

民法特例:除外合意と固定合意

遺留分に関する民法特例では2つの特例が認められており、「除外合意」と「固定合意」の2つがあります。なお、これら2つは併用可能です。詳しくは次の通りです。

(1)贈与した自社株式等を遺留分算定基礎財産から除外する特例(除外合意)

除外特例は「自社株式の分散を防ぐ」ことを目的に作られた制度です(円滑化法第4条1項1号)。

先代経営者が生前に後継者に自社株式を贈与した場合、通常、その株式は特別受益として遺留分算定基礎財産に算入されます。遺留分算定基礎財産とは「遺留分が認められる目安」と考えておけばいいでしょう。その結果、他の相続人から遺留分を請求されると、その分の株式を渡さなければならなくなります。

そこで、除外合意の手続きを取れば、先代経営者から贈与された自社株式を遺留分算定基礎財産から除外することができます。つまり、他の相続人は後継者に対して遺留分を請求できません。これによって後継者は株式の分散を防ぐことができ事業に集中することが可能になります。

(2)贈与した自社株式等の評価額を予め固定化できる特例(固定合意)

固定特例は、「株価上昇に伴う遺留分の増加を防ぐ」ことを目的に作られた制度です(円滑化法第4条1項2号)。

先代経営者から事業を引き継いだ後継者が努力した結果、その会社の株式が上昇することは珍しくありません。しかし、遺留分の算定時期は相続発生時ですので、株式評価額の上昇分も遺留分算定基礎財産に算入されます。その結果、後継者が努力すればするほど他の相続人への遺留分が増えることになってしまいます。

そこで、固定合意を用いれば、先代経営者から贈与された自社株式に対して、推定相続人との合意によって「株式評価額を合意時の評価額」に固定することができます。その結果、株価上昇に伴う遺留分の増加を防げるようになります。

なお、どちらの特例も、先代経営者から生前に後継者に贈与された自社株式に対して有効です。相続が発生してしまってからでは、これらの特例は利用できませんので、生前に相続人間で合意を結んでおくことがポイントです。

また、中小企業の株価を評価するためには、公正性、適正性を判断するために税理士や弁護士の証明が必要となります。

(3) 他の財産も遺留分算定基礎財産から除外する特例(付随合意)

こちらは単独ではできませんが、上記の除外合意、固定合意のオプションとして認められています。

株式以外の財産

先代経営者から後継者に対して贈与された株式以外の財産についても、遺留分算定基礎財産から除外することができます(円滑化法第5条)。たとえば、会社の建物・土地などの事業用資産があります。財産の種類は特定されていませんので事業用資産でなくても可能です。

他の推定相続人との公平性

民法特例により後継者以外の推定相続人は逆に不利益を被る立場になりますので、公平を図るために、他の推定相続人には現金を渡すなどの内容も合意に含めて書いておくことができます(円滑化法第6条1項)。

また、先代経営者から他の推定相続人に対して何らかの財産を贈与した場合は、その財産も遺留分算定基礎財産から除外することができます(円滑化法第6条2項)。

民法特例を受けるための条件

遺留分に関する民法の特例を受けるためには、いくつかの条件があります

・3年以上継続して事業を行っている非上場の中小企業であること(業種により資本金、社員数が異なる)。
・先代経営者から後継者に対して贈与された自社株式であること。
・先代経営者は過去または現在、会社の代表者であること。
・後継者は代表者であること
・後継者は贈与された株式を含めると議決権の50%以上を有すること。
・推定相続人全員との書面による合意があること。
・合意をした日に、後継者は代表者であること。
・合意をした日に、贈与された株式を除くと後継者が所有する議決権は50%以下であったこと。

いろいろと要件がありますが、一番のポイントは、推定相続人間での合意がないと会社の経営に支障が出るかどうかです。つまり、先代経営者から後継者に贈与された株式がないと、後継者は50%以下の株式しか所有しておらず経営に支障があったため、贈与を受けることで所有株式50%以上になり経営権を掌握できたと証明できれば良いわけです。

民法特例を受けるための手順

民法特例を受けるためには下記の4つの手順を踏む必要があります。なお、この手続きは後継者一人で行うことができます。

(1)推定相続人全員と合意書を取り交わす
(2)合意後1カ月以内に経済産業大臣に申請する
(3)申請確認後1カ月以内に家庭裁判所に申立てる
(4)家庭裁判所からの許可が下りる

まず、現経営者(被相続人)の相続人となる予定の全員(遺留分のない兄弟姉妹を除く)と、合意書を交わす必要があります。そして無事に合意が結べたら、1カ月以内に経済産業大臣に申請をします。

申請時に経済産業大臣は「事業承継円滑化のための手続きか」「申請者が後継者であるか」「合意した日に後継者の議決権数が過半数以下であったか」「合意書が正しいか」の4つを確認します。これらの結果、問題がなければ確認した旨が後継者に伝えられます。

この確認が済んだら、家庭裁判所へ特例合意の申立をします。家庭裁判所は「合意内容に真意性があるか」を審理します。つまり、当事者全員が強迫されたのではなく自らの意思で合意したかということです。そして問題がなければ家庭裁判所から許可がおります。これで手続きが完了です。

相続人全員との合意がポイント

民法特例を受けるための手続きはそれほど大変ではありませんが、一番ポイントになるのは、相続人全員の合意をとることです。一人でも反対している人がいると民法特例を利用できません。先代経営者から後継者に事業を継がせたい旨や、それに当たって株式と事業用資産を後継者に集中させる必要があることを、関係当事者によく説明することが肝心です。さらには、他の推定相続人に対しては、現金や他の財産などを相続させるなどして不利にならないように配慮する必要もあります。早めの段階から時間をかけてじっくりと対策をしていくと効果的です。

遺留分に関する民法の特例のまとめ

経営承継円滑化法に基づく「遺留分に関する民法の特例」について解説しました。遺留分によって後継者の事業承継意欲が削がれたり経営が不安定になるケースは珍しくありません。この場合には、是非とも「遺留分に関する民法の特例」の手続きを取るといいでしょう。また分からないことがあれば税理士や弁護士に相談すればアドバイスをいただけます。

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監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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