相続税の路線価評価が否定された!?不動産を使った節税に注意
2019年8月末の東京地方裁判所の判決で、「相続財産評価において路線価が否定」されました。この判決は、税法界においても大きな衝撃となりました。
今回は、この裁判の内容や背景の解説と、今後の相続税申告においてのアドバイスをお伝えしていきます。
目次
1.判決の概要
まず、今回の裁判の概要を流れに沿って解説します。
1-1.原告が行った節税対策
この問題は、原告らの被相続人である高齢の男性が、生前に相続税対策のためにマンション2棟を13億8700万円で購入したことから始まります。
そしてその男性が数年後に他界し相続税申告となったのですが、そのマンションの路線価での評価額は約3億3000万円、これから借入金の債務控除を差し引くと相続税はかからないという申告になりました。
1-2.国税庁の主張
国税庁は、13億8,700万円で購入したマンションの評価額が3億3,000万円と、市場の取引価格の23%程度という極端に低い相続税評価額になっていることに対して異議を主張しました。
国税庁側で行った不動産鑑定価格は約12億7,300万円であるとして、約3憶円の追徴課税を相続人に求めたのです。
これに納得いかない相続人たちは、追徴課税の取り消しを求めて訴えを起こしました。
1-3.東京地裁の判決
東京地裁は2019年8月末に国税庁の主張を認める判決を下しました。
判決理由は、このマンションについては節税を目的として購入されたものであり、路線価以外の合理的な方法での評価が認められるとして路線価を否定し、不動産鑑定価格での評価が妥当であるとされたのです。
2.本判決の背景と相続税の現状
では、なぜこのような判決が下されたのでしょうか。
本判決の背景と、今後のどのようなことに注意すればよいかを次に解説していきます。
2-1.総則6項の適用
今回の判決には財産評価基本通達第1章総則6項というものが適用されており、東京地裁もそれを認めた形となりました。
財産評価基本通達第1章総則6項とは、通称、総則6項と呼ばれ、次のことが規定されています。
財産評価基本通達第1章総則6項
この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。
簡単に言えば、法律に従った方法で評価していても、それが著しく不適当であると認められた場合には、国税庁長官の指示で相続税評価額を変更することができるというものです。
路線価は取引価格の8割程度に設定されているため、相続税評価額のほうが取引価格よりも低くなるのが通常ではありますが、今回は8割程度どころではなく2割強と極端に低い評価額となっており、総則6項が適用されてしまいました。
2-2.「著しく不適当」の不明確さ
総則6項は適用されると、評価額がどんでん返しされてしまう怖い規定です。 さらに怖いのは、どのような場合が「著しく不適当」に該当するのかが不明確である点です。
今回のケースでは評価額と購入価格の約23%と10憶円以上の差があり、著しく不適当と判断されたことは納得できる部分もあります。
ただし、これが40%、50%となるとどうだったのでしょうか。適用基準が明確に定められていない以上、正解はありません。 課税の公平を追求するならば、この線引きはきちんと定めてもらいたいところです。
2-3.今回の判決を踏まえて
現状、総則6項に明確な適用基準はありませんが、実務上は次の条件を判断基準にするとよいでしょう。
- 購入価格と相続税評価額の差が大きい
- 相続開始日の直近に購入している
- 相続開始後すぐに売却している
購入価格と相続税評価額の差が大きく、相続開始日の1年前に購入し、相続が終わったらすぐに売却して現金化しているような場合には、租税回避行為とみなされ、総則6項の適用対象となる可能性が高いでしょう。
「大きい」、「直近に」、「すぐに」などあやふやな表現なので、迷われる場合には税理士に相談されることをおすすめいたします。
まとめ
今回の判決は、原則的な評価方法である路線価方式が否定されるという衝撃的な内容でした。
まだ地裁での判決なので、今後の動向が注目されますが、ポイントとなっているのは「総則6項」です。
適用基準が明確でないことが問題ですが、税理士であれば過去の判例などからある程度予測することは可能です。
不動産を使っての金額の大きい節税対策を検討中の人は、独断では危険です。税理士に相談されることをおすすめいたします。