2016年(平成28年)分路線価発表、外国人観光客の影響大
2016年(平成28年)分路線価
国税庁は7月1日、2016年(平成28年)分の路線価を発表しました。
昨年度と比較すると、全国の平均変動率は0.2%増となり、リーマンショック前の2008年以来8年ぶりに上昇しました。外国人旅行者の増加によりインバウンド消費が増えたこと、また、大都市圏を中心に住宅需要が堅調なこと、海外投資家による不動産投資の活発化などが影響したと考えられます。
都道府県別で見ると、14都道府県で上昇し、昨年より4都道府県増えています。東京、大阪、愛知の大都市圏だけでなく、北海道、広島など地方都市の路線価も上昇しています。一方、33都道府県では下落しましたが、下落幅が昨年よりも縮小した都道府県が29都道府県となりました。
都道府県別変動率順位と概況
昨年との変動率を順位で見ますと、1位は東京で2.9%増、2位は宮城で2.5%増、3位は福島で2.3%増、4位は沖縄で1.7%増、5位は愛知で1.5%、6位は大阪で1.0%となっています。さらに、7位-北海道、京都、福岡:0.8%増、10位-神奈川、広島:0.5%、12位-千葉:0.4%、13位-埼玉:0.2%、14位-熊本:0.1%と続きます。
東京では、中国人による爆買いやオリンピック需要が後押してしており、大きく伸びています。また、周辺の神奈川、千葉、埼玉も堅調です。
昨年の順位がそれぞれ1位、2位であった宮城、福島では東日本大震災後の高い住宅需要が続いており、引き続き高い順位を保っています。
沖縄は、観光客の増加で幅広い業種で好況感が広がり、不動産需要にも波及したとみられます。
愛知では、リニア開業を見すえた手堅い需要があり、名古屋市を中心に路線価が上昇しています。
大阪、京都は、外国人観光客のインバウンド消費による影響が大きいとみられます。
北海道、広島、福岡、熊本は、それぞれの地域での中心都市を抱えており、訪日外国人の増加の影響から今年は上昇に転じました。
都道府県庁所在地の最高路線価順位と概況
都道府県庁所在地の最高路線価を1位から5位までと、上昇率が高い場所を掲載します。
順位 | 場所 | 最高路線価 (万円) | 上昇率 (%) |
---|---|---|---|
1 | 東京都中央区銀座5丁目銀座中央通り | 3,200 | 18.7 |
2 | 大阪市北区角田町御堂筋 | 1,016 | 22.1 |
3 | 名古屋市中村区名駅1丁目名駅通り | 840 | 14.1 |
4 | 横浜市西区南幸1丁目横浜駅西口バスターミナル前通り | 781 | 9.5 |
5 | 福岡市中央区天神2丁目渡辺通り | 560 | 12.0 |
・・・ | |||
18 | 金沢市堀川新町金沢駅東広場通り | 67 | 13.6 |
1位の東京・銀座は31年連続トップであり、鳩居堂前では1㎡あたり3,200万円と昨年から500万円も上昇しています。
2位の大阪市では外国人観光客の増加によるホテル不足で空前のホテル建設ラッシュとなっており、22.1%と都道府県庁所在地の中では最高の上昇率となっています。
3位の名古屋市では名古屋駅周辺にオフィスビルや商業施設が相次いで開業しており路線価を押し上げています。
路線価の上昇率で注目すべきは金沢市であり、昨年3月に北陸新幹線が開業した影響から前年比13.6%の伸びを示しています。これは、上昇率で見ると、大阪、東京、京都、名古屋に次ぐ全国5位の高さです。
熊本地震の影響は反映されていない
路線価は1月1日時点の価格のため、4月に発生した熊本地震の影響は反映されていません。熊本県では地震による土地の陥没や土砂崩れなどで評価額が低くなる地域もあります。このため、熊本地震後に相続や贈与が発生した場合には、被害状況に応じて個別に評価額を定めることにより、実情よりも重い税負担が課されることがないようにしています。
都市圏と地方の格差の拡大
大都市圏、地方の中核都市では路線価が上昇していますが、一方で、それ以外の県では昨年に引き続き下落しており、都市圏と地方の格差がますます拡大していることが伺えます。特に、秋田では3.9%減、県庁所在地の最高路線価の地域でも3.8減となっており、深刻な過疎化が伺えます。
【出典】国税庁:路線価
路線価とは?
路線価とは、相続税・贈与税の計算の基礎となる土地の価格のことで、1月1日時点の価格を毎年7月に国税庁が発表します。路線価は実際の土地の売買価格の約70~80%とされています。
平成28年分の路線価は、平成28年1月1日から12月31日までに発生した相続・贈与に関わる相続税・贈与税の計算に利用されます。
参考までに、「一物五価」といい、土地の価格には次の5種類の価格があります。「一物四価」という場合もありますが、これは下の表のうち基準値標準価格を抜いたものです。公示価格と基準値標準価格はどちらも土地取引価格の指標となる価格ですが、公示価格は国が公表し、基準値標準価格は都道府県が発表しています。2つの指標があってややこしいのですが、公示価格だけでは網羅しきれていないポイントを補足する形で各都道府県が基準値標準価格を公表しています。
実勢価格 (時価) | 公示価格 | 基準値 標準価格 | 相続税評価額 (路線価) | 固定資産税 評価額 | |
---|---|---|---|---|---|
内容 | 実際の 取引価格 | 土地取引価格 の指標 | 土地取引価格 の指標 (公示価格の 補足) | 相続税、贈与税 の計算の基礎 | 固定資産税、 不動産取得税 などの 計算の基礎 |
基準日 | - | 1月1日 (毎年) | 7月1日 (毎年) | 1月1日 (毎年) | 1月1日 (毎年) |
公表日 | - | 3月下旬 | 9月下旬 | 7月上旬 | 3月または4月 |
決定機関 | - | 国土交通省 | 都道府県 | 国税庁 | 市町村 |
評価割合※ | 80~120% | 100% | 100% | 80% | 70% |
※公示価格を100%とした場合
【参照】不動産と相続税対策
相続税への影響は?
路線価が上昇することは、バブルの兆候でなければ経済状況が好転している証拠として通常プラスに捉えられます。自分が所有している土地の価格が上がったらたいてい嬉しいものですが、実は嬉しくない人もいます。それは、相続や贈与、事業承継を控える人たちです。路線価が上昇すればその分、土地の評価額が増加し、支払うべき相続税や贈与税も増えるからです。きっと新聞やテレビを見ながら、今年もまた路線価が上がったのかと顔をしかめていることでしょう。
特に、大都市圏や県庁所在地の中心部に土地を持っている人は要注意です。10%~20%台で路線価が上昇している地域があり、土地の評価額が想定外に膨らんでいるケースがあります。また、宮城や福島ではもともとは路線価が低かった場所でも、東日本大震災後、高台など避難地として利用され路線価が急上昇している箇所もあります。相続発生が近いと予想される場合には、具体的な納税資金の準備も必要です。
平成27年1月の相続税改正や路線価上昇を受けて、全国各地で相続対策セミナーが開催されていますので、ご心配な方は参加されることをオススメします。具体的な土地の評価額を見積もりたい場合には、相続に強い税理士などの専門家に相談するのも良いでしょう。