2020年(令和2年)の路線価|より進行する都市部と地方の二極化

2020年7月1日に、2020年の全国の路線価が発表されました。
路線価には「相続税路線価」と「固定資産税路線価」がありますが、一般的に路線価といえば相続税路線価をさし、相続税や贈与税を計算する際の土地評価に使用される基準のことです。
毎年7月に、その年1月1日時点の路線価が国税庁から発表されます。
路線価は、相続税や贈与税に影響するだけでなく、土地の取引価格などにも影響を与えます。
この路線価の動向や傾向を見ていくことにより、みなさんがお持ちの不動産の有効活用や、今後の相続対策に活かすことができます。
目次
1.2020年(令和2年)公示価格の概要
1-1.路線価と公示価格
国税庁は2020年7月1日に、1月1日現在の2020年分の路線価を発表しました。
令和2年分の路線価等について詳しくは、国税庁のホームページをご参照ください。
【関連外部サイト】令和2年分の路線価等について|国税庁
路線価は、国土交通省発表の公示価格の約80%とされており、路線価と公示価格は同じ傾向を示すと考えられます。
国土交通省発表の公示価格統計資料には、経済圏別の指標が含まれていますので、まず、経済圏別に公示価格の傾向を見てみます。
1-2.公示価格の全国平均/経済圏平均の推移概要
公示価格の全国平均および経済圏平均の推移(全用途平均)は、次のようになります。
対前年平均変動率の推移(全用途平均)( 変動率:% )
平成28年 | 29年 | 30年 | 31年 | 令和2年 | |
---|---|---|---|---|---|
東京圏(※1) | 1.1 | 1.3 | 1.7 | 2.2 | 2.3 |
大阪圏(※2) | 0.8 | 0.9 | 1.1 | 1.6 | 1.8 |
名古屋圏(※3) | 1.3 | 1.1 | 1.4 | 2.1 | 1.9 |
三大都市圏平均 | 1.1 | 1.1 | 1.5 | 2.0 | 2.1 |
地方圏(※4) | △ 0.7 | △ 0.3 | 0.0 | 0.4 | 0.8 |
地方圏 (地方四市)(※5) | 3.2 | 3.9 | 4.6 | 5.9 | 7.4 |
地方圏 (その他)(※6) | △ 1.1 | △ 0.8 | △ 0.5 | △ 0.2 | 0.1 |
全国平均 | 0.1 | 0.4 | 0.7 | 1.2 | 1.4 |
※1 東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む市区町の区域をいう。
※2 大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む市町村の区域をいう。
※3 名古屋圏:中部圏開発整備法による都市整備区域を含む市町村の区域をいう。
※4 地方圏:三大都市圏を除く地域をいう。
※5 地方圏(地方四市):札幌市、仙台市、広島市、福岡市の4市。
※6 地方圏(その他):地方圏のうち地方四市を除いた市町村の区域。
令和2年地価公示については、以下の国土交通省のホームページを参照ください。
【関連外部サイト】令和2年地価公示|国土交通省
公示価格の全国平均の推移
対前年度平均変動率の推移を見てみると、住宅/商業/工業地域含めた、土地の全用途の全国平均は、次の通り、5年連続の上昇となり、上昇幅も連続で拡大し上昇基調を見せています。
2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 |
---|---|---|---|---|
0.1% | 0.4% | 0.7% | 1.2% | 1.4% |
全国平均で見ると、順調に地価が上昇し続けていることがわかります。
公示価格の経済圏別の推移
次に、公示価格の経済圏別の推移を見ていきます。
経済圏別に見た場合でも、それぞれの地域で順調に地価が上昇し続けていますが、「三大都市圏」と「地方圏」を比べると、三大都市圏の上昇幅が大きくなっています。
しかし、地方圏の中の地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)については、三大都市圏よりも、格段に上昇幅が大きく、地価が大幅に上昇しているのが見て取れます。
一方、地方四市以外の地方圏(その他)においては、三大都市圏や地方圏(地方四市)と比べて上昇幅が小さく、地方四市含めた都市部と地方の二極化が進んでいるように見えます。
2.2020年(令和2年)路線価の概要
これまでは公示価格について見てきましたが、これより、路線価について見てきます。
2-1.都道府県別平均の推移概要
標準宅地の対前年度変動率の都道府県別の推移は、次のようになります。
令和2年分標準宅地の対前年度変動率の平均値
2020年分 | 2019年分 | |
---|---|---|
全国 | 1.6 | 1.3 |
北海道 | 3.7 | 2.3 |
青森 | △ 0.3 | △ 0.4 |
岩手 | △ 0.3 | △ 0.5 |
宮城 | 4.8 | 4.4 |
秋田 | △ 1.1 | △ 1.2 |
山形 | 0.1 | △ 0.3 |
福島 | 0.7 | 1.2 |
茨城 | △ 0.2 | △ 0.4 |
栃木 | △ 0.3 | △ 0.4 |
群馬 | △ 0.4 | △ 0.4 |
埼玉 | 1.2 | 1.0 |
千葉 | 1.2 | 1.0 |
東京 | 5.0 | 4.9 |
神奈川 | 1.1 | 0.9 |
新潟 | △ 0.5 | △ 0.8 |
富山 | △ 0.3 | △ 0.2 |
石川 | 1.6 | 0.7 |
福井 | △ 1.1 | △ 1.4 |
山梨 | △ 0.5 | △ 1.1 |
長野 | △ 0.1 | △ 0.3 |
岐阜 | △ 0.6 | △ 0.7 |
静岡 | △ 0.4 | △ 0.6 |
愛知 | 1.9 | 2.2 |
三重 | △ 0.8 | △ 1.1 |
滋賀 | △ 0.1 | △ 0.2 |
京都 | 3.1 | 3.1 |
大阪 | 2.5 | 1.9 |
兵庫 | △ 0.1 | 0.0 |
奈良 | △ 0.3 | △ 0.3 |
和歌山 | △ 1.1 | △ 1.3 |
鳥取 | △ 0.3 | △ 0.4 |
島根 | △ 0.5 | △ 0.8 |
岡山 | 0.7 | 0.2 |
広島 | 2.6 | 2.0 |
山口 | 0.2 | △ 0.1 |
徳島 | △ 0.3 | △ 0.4 |
香川 | △ 0.3 | △ 0.3 |
愛媛 | △ 0.9 | △ 1.2 |
高知 | △ 0.5 | △ 0.5 |
福岡 | 4.8 | 3.6 |
佐賀 | 1.2 | 0.7 |
長崎 | 0.9 | 0.7 |
熊本 | 1.4 | 1.2 |
大分 | 0.6 | 0.6 |
宮崎 | △ 0.1 | △ 0.1 |
鹿児島 | △ 0.2 | △ 0.3 |
沖縄 | 10.5 | 8.3 |
都道府県別に見てみると、2019年は19都道府県で上昇していましたが、2020年は21都道府県で上昇しており、多少、地価が上昇した都道府県の数が増えています。
個別に見ると、沖縄県の上昇率が突出してトップとなっています。
沖縄県以外では、首都圏に加えて、地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)を有する北海道、宮城県、広島県、福岡県の上昇が顕著です。
都道府県別に見ても、三大都市圏/地方四市の都道府県と、それ以外の都道府県に二極化が明確になっています。
全体的に見ると、三大都市圏や地方四市に加えて、沖縄県などの観光地の路線価の上昇が見られており、宿泊施設やリゾート施設の需要が伸びた影響が路線価にも現れているのが分かります。
2-2.都道府県庁所在地の最高路線価の推移概要
都道府県庁所在地の最高路線価は、次のようになります。黄色でマークした部分が、ベスト10の所在地と路線価です。
令和2年分 都道府県庁所在都市の最高路線価
都市名 | 最高路線価の所在地 | 最高路線価 | 対前年変動率 | ||
---|---|---|---|---|---|
令和2年分 | 令和元年分 | 令和2年分 | 令和元年分 | ||
札幌 | 中央区北5条西3丁目 札幌停車場線通り | 5,720 | 4,880 | 17.2 | 15.1 |
青森 | 新町1丁目 新町通り | 160 | 155 | 3.2 | 0 |
盛岡 | 大通2丁目 大通り | 250 | 245 | 2 | 2.1 |
仙台 | 青葉区中央1丁目 青葉通り | 3,180 | 2,900 | 9.7 | 14.2 |
秋田 | 中通2丁目 秋田駅前通り | 125 | 125 | 0 | 4.2 |
山形 | 香澄町1丁目 山形駅前大通り | 170 | 170 | 0 | 0 |
福島 | 栄町 福島駅前通り | 195 | 190 | 2.6 | 11.8 |
水戸 | 宮町1丁目 水戸駅北口ロータリー | 225 | 230 | -2.2 | 0 |
宇都宮 | 宮みらい 宇都宮駅東口駅前ロータリー | 290 | 280 (255) | 13.7 | 2 |
前橋 | 本町2丁目 本町通り | 130 | 130 | 0 | 0 |
さいたま | 大宮区桜木町2丁目 大宮駅西口駅前ロータリー | 4,260 | 3,700 | 15.1 | 12.1 |
新潟 | 中央区東大通1丁目 新潟駅前通り | 450 | 440 | 2.3 | 2.3 |
長野 | 大字南長野 長野駅前通り | 295 | 285 | 3.5 | 0 |
千葉 | 中央区富士見2丁目 千葉駅前大通り | 1,140 | 1,040 | 9.6 | 9.5 |
東京 | 中央区銀座5丁目 銀座中央通り | 45,920 | 45,600 | 0.7 | 2.9 |
横浜 | 西区南幸1丁目 横浜駅西口バスターミナル前通り | 15,600 | 11,600 (11,600) | 34.5 | 13.3 |
甲府 | 丸の内1丁目 甲府駅前通り | 275 | 270 | 1.9 | 1.9 |
富山 | 桜町1丁目 駅前広場通り | 490 | 490 | 0 | 2.1 |
金沢 | 堀川新町 金沢駅東広場通り | 960 | 900 | 6.7 | 8.4 |
福井 | 中央1丁目 福井駅西口広場通り | 320 | 300 | 6.7 | 3.4 |
岐阜 | 吉野町5丁目 岐阜停車場線通り | 470 | 460 | 2.2 | 0 |
静岡 | 葵区紺屋町 紺屋町名店街呉服町通り | 1,210 | 1,200 | 0.8 | 1.7 |
名古屋 | 中村区名駅1丁目 名駅通り | 12,480 | 11,040 | 13 | 10.4 |
津 | 羽所町 津停車場線通り | 200 | 195 | 2.6 | 0 |
大津 | 春日町 JR大津駅前通り | 275 | 270 | 1.9 | 1.9 |
京都 | 下京区四条通寺町東入2丁目御旅町 四条通 | 6,730 | 5,700 | 18.1 | 20 |
大阪 | 北区角田町 御堂筋 | 21,600 | 16,000 | 35 | 27.4 |
神戸 | 中央区三宮町1丁目 三宮センター街 | 5,760 | 4,900 | 17.6 | 25 |
奈良 | 東向中町 大宮通り | 800 | 660 | 21.2 | 11.9 |
和歌山 | 友田町5丁目 JR和歌山駅前 | 360 | 360 | 0 | 0 |
鳥取 | 栄町 若桜街道通り | 105 | 105 | 0 | -4.5 |
松江 | 朝日町 駅通り | 140 | 135 | 3.7 | 0 |
岡山 | 北区本町 市役所筋 | 1,480 | 1,370 | 8 | 8.7 |
広島 | 中区胡町 相生通り | 3,290 | 3,050 | 7.9 | 8.9 |
山口 | 小郡黄金町 山口阿知須宇部線通り | 145 | 145 | 0 | 0 |
徳島 | 一番町3丁目 徳島駅前広場通り | 310 | 300 | 3.3 | 0 |
高松 | 丸亀町 高松丸亀町商店街 | 360 | 340 | 5.9 | 3 |
松山 | 大街道2丁目 大街道商店街 | 660 | 650 | 1.5 | 1.6 |
高知 | 帯屋町1丁目 帯屋町商店街 | 215 | 210 | 2.4 | 2.4 |
福岡 | 中央区天神2丁目 渡辺通り | 8,800 | 7,870 | 11.8 | 12.4 |
佐賀 | 駅前中央1丁目 駅前中央通り | 195 | 185 | 5.4 | 5.7 |
長崎 | 浜町 浜市アーケード | 760 | 750 | 1.3 | 1.4 |
熊本 | 中央区手取本町 下通り | 2,120 | 1,820 | 16.5 | 21.3 |
大分 | 末広町1丁目 大分駅北口ロータリー | 520 | 490 | 6.1 | 11.4 |
宮崎 | 橘通西3丁目 橘通り | 230 | 230 | 0 | 0 |
鹿児島 | 東千石町 天文館電車通り | 920 | 900 | 2.2 | 8.4 |
那覇 | 久茂地3丁目 国際通り | 1,450 | 1,030 | 40.8 | 39.2 |
※ 宇都宮市及び横浜市は最高路線価の所在地を変更しています。上記表の中の括弧書は、変更前の所在地における令和元年分の路線価です。
このトップ10は、2020年の順位は2019年の順位と全く同じで変化しておらず、統計を始めて以来、連続して東京都中央区銀座5丁目銀座中央通り(鳩居堂前)が1位です。
対前年変動率の観点では、那覇、大阪、および横浜が高く、2020年の対前年変動率は、それぞれ「40.8%」「35%」「34.5%」と突出して高い数字となっています。
那覇、大阪、および横浜以外でも、札幌、宇都宮、さいたま、京都、大阪、神戸、福岡、熊本が対前年変動率10%以上で、比較的高い数字を示しています。
また、県庁所在地の中では、2020年においては、茨城県水戸市のみが路線価が下がっており、8都市で横ばいとなっています。
2019年では、下落したのは1都市、横ばいは11都市となっていましたので、県庁所在地別でも全国的に路線価が上昇していることが分かる結果となっています。
こうした路線価の上昇は、インバウンド効果、つまり、訪日外国人客の増加によるホテルやリゾート開発の需要上昇、こうした施設・都市開発による影響などによる不動産売買が活発化した結果が関係していると考えられています。
3.都市と地方の二極化がより顕著に現れる結果に
2020年の路線価は全国的に上昇しており、都市部だけでなく観光地の路線価も上昇の傾向にあり、さまざまな地域で2019年を上回る路線価を記録しています。
特に、インバウンド(訪日外国人)効果、都市部の再開発、およびオリンピック/パラリンピックを控えた動きなどから、基本的に路線価は上昇しており、こうした発展が全体の路線価上昇に影響を与えています。
しかし、こうした路線価上昇の裏に、2019年から連続して下落している地域もあります。秋田県、福井県、和歌山県などにおいては、2年連続1%以上の下落を記録しています。
都市部と地方では路線価の上昇率に大きな差が現れており、ここに来て二極化が顕著に現れています。
4.最後に
今回発表された2020年の路線価は、5年連続の上昇となっています。
インバウンド効果、都市部の再開発、オリンピック/パラリンピック景気などの影響で地価の上昇が続いていますが、ここに来て、新型コロナウイルス感染拡大で環境が一変しました。
今回の2020年分の路線価は、この新型コロナウイルスの影響を加味していません。
訪日外国人の数が激減し、オリンピック/パラリンピックも延期になり、それに加えて、リモートワークの推進により、都心より郊外や地方に住居を構える傾向も出始めています。
国税庁は、今後の地価の推移によっては路線価の減額修正を導入する方針と言われています。
どちらにしても、国税庁からの発表に目が離せません。