渋谷区の相続と税理士事情
相続の発生件数、納付税額が日本一多い東京都。そして、在籍税理士数も最も多い都市でもあります。
渋谷区は渋谷、原宿、恵比寿などの大きな繁華街を含み、東京を代表する区でもありますが、渋谷区の土地柄・地価などから相続および税理士事情を解説します。
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1.渋谷区の課税割合は都内第2位
平成27年度の東京都渋谷区の申告件数は651件、申告割合は41.54%と、約半数程度の割合で相続税申告が発生していることがわかります。
また、相続税発生件数は484件、課税割合が31.33%となっています。加えて、相続1件あたりの納付税額は約2,800万円です。
申告割合、課税割合ともに、23区内では千代田区に次いで堂々の2位であり、日本で平均所得が最高の港区をも抜いています。
こうしたデータを元にすると、渋谷区の相続には以下の2つの特徴が考えられます。
- 相続が発生したら相続税が課税される可能性が極めて高い
- 高額な相続は発生しにくい
これらの特徴は、他の地域と比べると少し特殊なものとなっています。では、どうしてこのような複雑な相続事情となっているのか、さまざまなデータから考えていきましょう。
2.地価から考える渋谷区の相続
相続税は相続財産の総額によって決定されます。中でも、不動産は高額な相続財産になりやすく、その価値を決める地価は相続税と最も関係性が高いポイントです。それでは、渋谷区の相続を地価から考えてみましょう。
2-1.東京都全域と比べた渋谷区の地価
全国から人が集まり、ビジネスや行政などの拠点となる役割を果たしている東京都。そこで、まずは東京都23区と渋谷区の地価を比較して、渋谷区の特徴を探ってみましょう。
東京23区の中で最も平均地価が高いのは、中央区の約551万円(1㎡当たりの地価、以下すべて同じ)です。続いて、約513万円の千代田区となっており、この2つの地域は相続税の納付税額も高額になっている地域です。
一方で、渋谷区は「約280万円」と23区内では4番目に地価の高い地域となっています。課税件数および課税割合が似ている港区と比較してみると、港区のほうが1件あたりの納付税額が2,000万円程度高額となっています。つまり、地価の高さが相続税にも反映されていると考えられます。
ただし、渋谷区よりも地価の低い地域が、渋谷区よりも高額な納付税額となっていることもあります(目黒区など)。こうした地域には、所有財産が多い富裕層が多いという特徴もあるため、地価だけが相続に影響を与える原因ではないと考えられます。
2-2.渋谷区内で地価が高額な地域
次は、渋谷区内の地価を地域ごとに比較してみましょう。まずは、地価の高額な地域です。気になる地価の金額と、その地域の特徴を合わせて確認していきましょう。
2-2-1.宇田川町
渋谷区内で最も地価が高額な地域が宇田川町です。宇田川町の地価は「約1,440万円」と、渋谷区の平均的な地価よりも5倍以上高額となっています。
宇田川町は、渋谷区の中心に位置しており、渋谷駅が立地している地域です。駅に近いという立地から、各種商業施設が立ち並ぶ地域として発展しており、多くの人が思い浮かべる渋谷のイメージは、宇田川町の町並みだといわれている程です。
近年では「渋谷センター街」と呼ばれる歩行者専用道路が整備されており、若者が中心の町並みへと変化しています。そのため、雑貨屋や服飾を取り扱うお店が多く並んでおり、住宅地ではなく商業地として人気を集める地域となっています。
2-2-2.新宿駅
2番目に地価が高額なのは新宿駅周辺です。渋谷区なのに、なぜ新宿?と疑問に思われるかもしれませんが、実は、新宿駅周辺は甲州街道を境にして北側が新宿区、南側が渋谷区となっているのです。サザンテラス、高島屋などは渋谷区内にあります。
ただこの地域は完全に商業地区であり、土地の所有者もほとんどが不動産系列の大手企業ですので、相続税にはあまり影響していないと考えられます。
2-2-3.道玄坂
渋谷区で3番目に地価が高額な地域が、「約842万円」の道玄坂です。この地域も、渋谷区の平均地価よりも高額な地域です。
道玄坂は、渋谷駅の西側にある地域で、商業施設が多く繁華街として発展を続けている地域です。以前は、住宅地として発展してきた経緯がありますが、現在では住宅街はほどんどなくなり、商業施設に加えてオフィスビルなども立ち並ぶようになりました。
ただし、派手なイメージは宇田川町の方が強いため、地価も宇田川町に続く価格となっているといわれています。渋谷の代名詞にもなっている、SHIBUYA 109やハチ公像などは道玄坂側に立てられており、宇田川町と合わせて渋谷の顔ともいえる人気の地域です。
2-2-4.原宿
若者の町の代表格のように扱われている原宿は、渋谷区内で4番目に地価の高い地域です。原宿の地価は「約670万円」と、上記3つの地域と比べると低いですが、十分高額な地価となっています。
原宿=若者の町、というイメージがありますが、実は現代では少し異なったイメージとなっています。時代の流れとともに、若者のメインは宇田川町などの地域へと移っていき、原宿から多くの若者が離れてしまったのです。
ただし、原宿はスイーツなどの海外の流行をいち早く取り入れる地域で、他の地域にはない独特な文化を作り出しています。近年では、海外の若い女性から人気を集める構成の地域となっており、独自のファッション文化と一緒に世界から注目されています。
2-3.渋谷区で地価の低い地域
さて、地価が高い地域の一方で、地価の低い地域がどの地域なのか、どの程度低いのかを見ていきましょう。
渋谷区で地価の最も低い地域は、地価「約63万円」の笹塚です。上位の地域と比べてみると10倍近く離れているのが分かります。以前はオフィスビルなどが多く立ち並んでいた笹塚ですが、現在では大半が住宅地となっています。
また、笹塚は住宅街ですが多くはマンションやアパートなど、単身の若者が住んでいる地域です。そのため、マンションなどに比べると一軒家は少なく、土地活用の需要が少ない地位だと考えられます。ですので、地価も上がりにくく、安くなっているのかもしれません。
実は、渋谷区の地価は、高額な地域と定額な地域がはっきり分かれており、少し離れるだけで2倍以上の地価の違いがあることも珍しくありません。
従って、相続税が発生しやすい渋谷ですが、相続の中心となるのは、こうした比較的地価の低い住宅街のため納付税額が高額化しにくいといえます。
3.所得と人口比から見る相続税
一般的に、所得の高い富裕層は所得の低い層よりも相続財産が高額になりやすく、相続税も多く納めなければいけません。そこで、所得状況から富裕層の動向を探ってみましょう。
3-1.渋谷区は富裕層が集まっている
平成28年度のデータによると、渋谷区の納税義務者数が「約12万人」、課税対象所得は「約9,740億円」となっています。納税義務者1人あたりで計算すると「約773万円」となっています。
この金額は、全国第3位であり、渋谷区で生活している方は日本でも有数の富裕層といえます。
また、宇田川町などの地価が非常に高額な地域もあります。こうした地域で生活するためには、地価から計算される家賃以上で、余裕があるほどの所得が必要となります。渋谷区の中でも特に地価が高い地域は、富裕層が多く集まっているといえるでしょう。
3-2.65歳以上の高齢者割合は少ない
渋谷区で生活している方の所得は非常に高額なのですが、一方で渋谷区の相続税の納付税額は、目黒区などの課税対象所得が低い区よりも低くなっています。所得は多くても相続税には反映されないのは、なぜなのでしょうか?
注目するポイントは、65歳以上の高齢者の割合です。相続が発生するのは、通常、高齢者です。若い人でも病気や不慮の事故で亡くなることもありますが、やはり圧倒的に多いのは高齢者でしょう。
総務省発表の65歳以上の高齢者の割合を参照しますと、渋谷区の65歳以上人口の割合は19.1%(平成29年1月時点)です。東京都全体では22.5%であり、20%を切るのは都内でも6区しかありませんので、低い割合です。全国平均は27.3%ですので、高齢者がかなり少ない区といえます。
一般的には高齢者になると年金生活になりますので、所得は少なくなります。一方で、子育てが終わり住宅ローンも完済すれば出るお金が減り、金融資産を積み増す方向に働きます。
これも総務省発表の、年間収入を次の5段階に区分した貯蓄・負債残高(二人以上の世帯)のデータを見ますと、最も年収が少ない第Ⅰ階級と第Ⅱ階級で最も平均年齢が高いことがわかります。
階級 | 年収範囲 | 平均年齢 | 貯蓄残高 (万円) | 負債残高 (万円) |
---|---|---|---|---|
第Ⅰ階級 | ~329万円 | 67.4歳 | 1260 | 94 |
第Ⅱ階級 | 329~446万円 | 64.7歳 | 1872 | 224 |
第Ⅲ階級 | 446~602万円 | 56.2歳 | 1598 | 504 |
第Ⅳ階級 | 602~828万円 | 52.4歳 | 1768 | 761 |
第Ⅴ階級 | 828万円~ | 54.0歳 | 2602 | 950 |
平均 | 59.0歳 | 1820 | 507 |
渋谷区の高所得者層の多くはIT系企業やベンチャー企業を中心とした若い層であり、必ずしも所得が相続税の金額に反映されるわけではないといえるでしょう。
3-3.準富裕層の相続税発生が増えている
渋谷区の1人当たりの相続税額は、平成26年度は約4,210万円でしたが、平成27年度は約2,860万円と、約3分の2に減少しています。一方で課税割合は21.68%→31.33%と1.5倍程度に増えました。
これは、つまり平成27年の相続税法改正で基礎控除額が引き下げられたことにより、今までは関係なかった準富裕層の相続税発生が増えていることがわかります。
前述のとおり、渋谷区の平均地価は全国的に見てもかなり高いため、準富裕層という認識がなかったとしても、路線価の高い地域に土地を所有していれば、相続税が発生する可能性があります。特にここ数年、東京都全体で地価が上昇していますので、要注意です。
4.渋谷区の税理士の特徴
相続税額はそれほど高くはないが、相続税が発生しやすいのが渋谷区の相続の特徴です。そこで重要になるのが、相続に強い税理士選びです。相続税を少しでも安くなるためには、税理士の力を借りることが必要不可欠です。では、渋谷区の税理士にはどのような特徴があるのでしょうか?
渋谷区の税理士数は「1,055人」です。東京都内の市区町村では5番目に多い数字となっていますので、渋谷区内に在籍する税理士数はかなり多いです。
相続税の申告件数は651人ですので、それよりも多い税理士が在籍していることになります。
また、渋谷区に隣接している、千代田区、中央区、港区、新宿区は、渋谷区よりも多くの税理士が在籍しています。新宿区以外では、渋谷区の2倍以上もの税理士が在籍しています。
そのため、もし渋谷区の税理士が不足する状態が起きたとしても、他の区の弁護士へ依頼することも容易にできるので、不測の事態は避けることができるでしょう。
ただし、渋谷区は地域によって所得や地価に大きなばらつきがあり、遺産総額、相続税額が大きく異なる場合があります。ですので、より堅実に節税対策を行う場合は、渋谷区の土地柄に詳しい税理士へ依頼することが望ましいでしょう。
遺産総額が発生するときは、常に突然訪れます。日頃から相続に対しての対策を講じておくことが、節税対策の基本ともいわれています。そのため、税理士への無料相談などを活用して、早めに信頼できる税理士を見つけておき、相続が開始されたらすぐに対応できるように準備しておきましょう。